【ヴィクトリアM】春の府中に起こった 2つの”おかえり”

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2022.5.16

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2022ヴィクトリアマイル ソダシが優勝 写真:スポニチ/アフロ

第17回ヴィクトリアマイル回顧

「おめでとうソダシ!」と、「おかえり!ソダシ!!」――

今年のヴィクトリアマイルのゴール直後、こんな声がスタンドから聞こえてきた。

 思えばソダシがレースを勝ったのは昨年の札幌記念(GII)以来、9ヵ月ぶりのこと。GIに限れば1年以上タイトルから遠ざかっていたことになる。

ちょうど昨年の今頃に行われたオークス(GI)は彼女にとって初黒星を喫した舞台であり、そこから白毛のアイドルには試練ばかりが続いた印象すらある。

 オークスでは距離の壁に泣かされ、秋華賞(GI)ではゲート内で顔をぶつけて歯を折ってしまうというアクシデント。そして初古馬相手に加え初ダートという条件まで乗っかったチャンピオンズC(GI)ではリズムに乗ることすらできず大敗を喫するなど、このころのソダシはもう終わったと囁かれるほどだった。

もともと完成度の高さをウリに同世代の馬たちを相手に勝ってきた馬だけに、古馬を相手にするだけの成長力に乏しいのでは?と不安視されるところもあったが、こうした試練を乗り越えたことでソダシは一回り強くなったように思う。

そう感じさせたのがヴィクトリアマイルのパドックである。

いつも通りに白いメンコの上に勝負服デザインのメンコを二重に付けて周回していたが、その立ち振る舞いは実に堂々としたもの。

デアリングタクトやレイパパレをはじめとした初顔合わせとなった4頭のGI馬を相手にしても一歩も臆することなく、堂々と周回していた。

人気こそ4番人気止まりだったが、パドックでの振る舞い、そして返し馬での様子は年上の牝馬たちを相手にしても全くひるまず、むしろ「私が女王だ」と誇示しているかのようだった。

どこかひ弱に映ることもあった3歳時のソダシとは全く違う、大人の魅力を備えた4歳牝馬になっていた。

そんな大人になったソダシになら、今日のヴィクトリアマイルは楽に勝てるレースだったのかもしれない。

ただでさえ3戦無敗と得意な芝のマイル戦で、前日まで降った雨の影響を少なからず受けた今日の東京競馬場の芝は内側がよく伸びるというコンディション。

その状態の馬場を3枠5番という内枠からのスタートで走れたのだから、出遅れない限りは好位に付けてレースがしやすいハズ......と、ソダシにとってはピッタリの条件がこれでもかというほど揃っていた。

そんなチャンスをソダシは見逃さなかった。

まるで逃げの手を打つかのような好スタートから好位に付けて流れに乗ると、直線では前を行くローザノワールを猛追。残り200mのところでエンジンがフルスロットルに入ると間もなく先頭に立ち、そこからは後続馬を突き放すという一方的な展開に。

気が付けば、レイパパレをはじめ、自身よりも人気に推された馬たちを突き放してソダシは先頭でゴール。

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写真:日刊スポーツ/アフロ

2着のファインルージュに2馬身差という決定的な差をつけ、9ヵ月ぶりの勝利を手中に収めた。得意舞台で自分のベストな走りを大観衆の前で見せられた喜びからか、鞍上の吉田隼人からも派手なガッツポーズが飛び出すほどだった。

「今日はすごく豪華なメンバーだったので、どれだけやれるのかというのがあったけれど、それをはねのけて『勝ったぞ!』という気持ちでいっぱいだった」と、レース後に吉田隼人もこう語ったように、ベテランの域に入ってきた鞍上でさえも思わず興奮させてしまうほどのレースをソダシは見せてくれた。

 だからこそ、スタンドから「おめでとう」とともに「おかえり」という声が挙がったのだろう。

白毛のアイドルホースとして注目され、その勢いのまま制した阪神JFや桜花賞は接戦をモノにしただけに、強さ以上に「勝ててよかった」というようなどこか安堵の声もあったが、今日は2着馬に2馬身差をつける完勝だっただけに、強いソダシが帰ってきたことが素直にうれしく思えたからこそ「おかえり」という言葉が出てきた。

 競走馬として、そしてアイドルとして、もう一回り大きな成長を遂げたソダシ。

次に彼女が挑むのは距離の壁か、強豪牡馬との勝負か、それともまだ見ぬ海外のライバルたちとの一騎打ちか......白いアイドルが歩む軌跡を今後も追い続けていきたい。

 そして、この日の東京競馬場にはソダシの他にもう1頭、「おかえり!」の歓声を浴びた馬がいる。

およそ1年ぶりの実戦となった三冠牝馬、デアリングタクトである。

 馬体重の486キロは昨年4月のレース時と比較して+22キロ。コロナ禍の無観客開催時に走ることも多かったため、この日初めて彼女の姿を見たというファンも少なからずいたはずだが、史上初となる無敗の牝馬三冠馬がパドックを周回するたびに大きな注目が集まり、松山弘平騎手が跨っての本馬場入場では芝生に脚を踏み入れた瞬間、どこからともなく拍手が沸き、「おかえり!」という温かい声援も起こった。

こうしておよそ1年ぶりにターフに戻ってきたデアリングタクトだったが、結果は6着。

決して本調子ではなく、得意とも言えないマイル戦だったが、それでも最内から懸命に脚を伸ばして、直線では見せ場を作ったほど。その諦めない姿勢は多くの競馬ファンの感動を呼んだことだろう。

今後も順調なら、デアリングタクトはソダシや強豪牝馬たちと互角に渡り合い、名レースを生み出すことだろう。そんな日を心待ちにしておきたい。


■文/福嶌弘