女子52㎏級は『阿部詩・一強』時代へ 柔道女王に死角はあるのか?【柔道GS東京】

阿部詩 写真:松尾_アフロスポーツ
「(東京オリンピックとは)また違ったメダルの重さを感じます。あれからいろいろなことがあった。それを乗り越えて獲ったメダルなので、自分の柔道人生の中では価値のある金メダルだと思います」
兄・一二三(パーク24)とともに今年の世界選手権で金メダルを獲得。2018年以来2度目となる兄妹同時世界制覇を成し遂げた阿部詩(日本体育大学)は帰国直後の会見でそう語った。
無理もない。世界選手権では通算3度目の優勝ながら、阿部は過去2度の優勝とは明らかに異なる立場に置かれていたからだ。
というのも昨年7月の東京オリンピックで金メダルを獲得すると、阿部は以前から痛みを抱えていた両肩の手術に踏み切り、半年ほど戦列から離れた。つまりブランク明けでの制覇だったので、喜びはひとしおだった。
準決勝では東京五輪の決勝を争ったブシャール(フランス)と激突。互いに技ありを取り合う展開でゴールデンスコア(延長戦)に突入した。ここで阿部は先に2つ目の指導を受けるという窮地に追い込まれたが、最後は内股からの合わせ技で一本勝ちを収めた。
「自分が最初にポイントをとったので気持ちがちょっと守りに入ってしまった。そのせいで中盤投げられてしまった。それでも意外と焦りはなく、まだ取り返せる、もうひとつポイントをとろうという気持ちの方が強かった。ゴールデンスコアに入って指導を2つとられたときには少し焦ったけど、『これは行くしかない』と思い、技をかけに行きました」
世界選手権からグランドスラム東京への調整期間は短い。兄・一二三は「今後の大会に向けたコンディショニングを考慮し、前大会との試合間隔が短い」ということを理由に出場を見合わせた。
対照的に阿部は「まずはしっかり休養をとってから世界選手権でみつかった課題が結構たくさんあったので、細かい部分(組み手や立ち技から寝技への移行の部分)を突き詰め、自分の体に詰め込んでいきたい」と出場に前向きだ。
これまで7勝1敗のプシャールや3勝1敗の志々目愛(了徳寺大学職員)との熱戦を期待視する向きもあるが、東京オリンピック以降、女子52㎏級は″阿部詩一強″と見なされることが多くなってきた。
それでも、阿部は「どの選手もライバルだと思っている」と手綱を緩めようとはしない。
「東京オリンピック前はそんなに上位に上がってこなかった選手も上位にくるようになっている。これからは追われる立場として警戒しないといけない。お互い高め合うことができれば、自分はもっと強くなれる。ライバル(の存在)には感謝しながら、勝ち進んでいきたい」
全盛期を迎えようとしている絶対女王にスキは見つからない。
(スポーツライター 布施鋼治)