【ヴィクトリアM】現役最強牝馬エンブロイダリーが快勝!変幻自在の走りで魅せる、華麗なる女王の舞

エンブロイダリー(c)SANKEI
「(後続からの気配は)何も感じなかった」―― ヴィクトリアマイルのレース後、エンブロイダリーを勝利に導いたクリストフ・ルメールはインタビューでこう答えた。
......確かにそうかもしれない。最後は同世代のライバル・カムニャックが迫っていたが、その前を行くエンブロイダリーの走りはどこか軽やかで、記録上は1馬身1/4の差が付いていたが、感覚的にはもっともっと差が付いていたように思えるほど、エンブロイダリーの完勝だった。
昨年の牝馬クラシックで桜花賞を制したエンブロイダリーをオークスで負かしたのがカムニャック。
およそ1年前から続くライバル関係はこれが4度目となる対決。前哨戦となった阪神牝馬Sは逃げの手を打ったエンブロイダリーをカムニャックが追いかけるという展開になり、結果はエンブロイダリーがクビ差先着して勝利した。
そんな2頭のマッチレースという印象が強かった今年のヴィクトリアマイルだが、パドックからこの2頭は対照的だった。
秋華賞の二の舞は避けたいとばかりに18番のチェルヴィニアよりも後ろに付け、気合いを前面に出して周回を続けるカムニャックに対し、何も気にすることなくただ前だけを見て、堂々と闊歩するエンブロイダリー。
馬体は同じ492キロとされていたが、カムニャックはシャープに映り、エンブロイダリーは筋肉にメリハリがあり、彫刻のようにも見えた。
ここまでの直接対決では2勝1敗と勝ち越しているからか、エンブロイダリーにはどこか余裕が感じられ、打倒エンブロイダリーをカムニャックは強く意識しているようにさえ思えた。
そんな2頭の想いが今回のレース振りからもよく出ていたように思う。
逃げると思われたアイサンサンが出遅れ、スピード自慢のエリカエクスプレスがハナを奪ったが、鞍上の武豊にはペースを上げるつもりはなかったようでこの馬にしてはスローな逃げに。
思いのほか流れが落ち着いたためかニシノティアモやカラビナ、チェルヴィニアなどの先行馬もいつもよりも前目の位置にいるように思えた。
その中で人気の2頭はというと6~7番手の位置。チェルヴィニアのすぐ後ろにエンブロイダリーが付けるとそれに張り付くように内側にカムニャック。
その後ろに昨年のこのレース2着馬、クイーンズウォークが付いていった。
有力馬は皆、比較的前の位置でのレースに。それでもペースが上がることはなく、前半の3ハロンは34秒6という流れに。
新緑の府中のターフの中を走る18頭の馬群はひと固まりのまま、最後の直線へと入ってきた。
逃げるエリカエクスプレスと2番手のニシノティアモが追い出しにかかる中、各馬もラストスパートに。その中で馬場の三分どころを通って抜けてきたのがエンブロイダリーと、ルメールだった。
直線を向いた時点で前を射程圏内に捕らえていた二冠馬はルメールの右鞭が一発入ったところでスイッチが入り、残り200mの標識を通過したところで前を行くエリカエクスプレスらを捕らえて先頭に立った。
それを追いかけるように猛然と外から追い込んできたのが川田将雅とカムニャック。
阪神牝馬Sと同じ轍と踏むのはごめんだと言わんばかりに、ルメールと同じタイミングで川田は左鞭を入れてカムニャックの闘志に火をつけ、一歩、また一歩と迫りだした。
だが......もう遅かった。カムニャックの末脚にエンジンがかかったころ、エンブロイダリーはもうすでに1頭で抜け出していた。
ルメールの右鞭が飛ぶたびにスピードを上げていき、まるで羽が生えたかのような走りでゴールまでひた走っていた。
前を行くエンブロイダリーを追いかけるという展開は前走の阪神牝馬Sと全く同じ。
だが、今回は阪神牝馬Sの時以上に軽やか。これでは差し切るどころか、エリカエクスプレスらを交わして2着を確保するのが精いっぱいだった。
一方のエンブロイダリーはというと、トップスピードを維持したまま先頭でゴール板へと飛び込んだ。

エンブロイダリー(c)SANKEI
緩やかな流れを自ら作って逃げ切った前走とは異なり、もしかしたら苦手かとも思われた瞬発力勝負の中で、上がり3ハロン33秒0という速い時計を叩き出して勝利したのだから、もう何も言うことはない。
だからこそ、ルメールもインタビューで冒頭のように語ったのだろう。そして最後には「すごくいい馬です」とコメントを残した。
完全無欠の勝利でGⅠ3勝目を飾り、現役最強の牝馬として堂々たるパフォーマンスを見せたエンブロイダリー。ここまでくると牡馬相手でもどんな走りを見せるかが楽しみになった。
3週間後の安田記念か、それとも秋のマイルCSか、はたまた昨年苦戦した香港マイルでのリベンジか。
そして、最大のライバルであるカムニャックとの再戦はあるのだろうか? その舞台は牡馬とともに争うマイルGⅠなのか、それとも距離を延ばして秋のエリザベス女王杯か......。
変幻自在な走りを見せる、現役最強牝馬の次のレースが今から楽しみでならない。果たしてエンブロイダリーはこの後どんな物語を紡ぐだろうか。
■文/福嶌弘