【ヴィクトリアM】最高の舞台で見せた史上最高のパフォーマンス
2021.5.16
グランアレグリア 写真:東京スポーツ/アフロ
まるでクラッシック音楽の美しい演奏を聴いた後のような気分になった。グランアレグリアがゴールした瞬間、この週から帰ってきた観客たちから自然と拍手が湧き起こったのは「素晴らしいものを見た」というファンの想いが現れたのだろう。
今思えば、今年のヴィクトリアマイルは「グランアレグリアのためのレース」だったのかもしれない。それくらいにグランアレグリアには有利な条件が揃っていた。
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舞台となる府中のマイル戦はキャリアを通じて[3・0・0・1]。しかも勝ち星の1つはあのアーモンドアイすら寄せ付けなかった昨年の安田記念でのもの。そもそもマイルGIに限ればすでに3勝を挙げていて、しかも相手は自身とはすでに勝負付けが済んでいる牝馬たちだけという状況――
今年のヴィクトリアマイルでグランアレグリアが敗れる可能性は低く、唯一の不安材料だった雨も昼過ぎには止んで、良馬場のコンディションで迎えることになった。
死角が何ひとつない状況でのレース......それがグランアレグリアの単勝1.3倍というオッズに繋がり、2番人気のレシステンシアとは5倍以上の差をつける要因となっていた。
「勝つのはわかっている。どう勝つのかが見どころなんだ」という競馬ファンの声がこのオッズにくっきりと表れていた。
「当たり前のことを、当たり前にする難しさ」――
負けるわけがないと思われているグランアレグリアに大きなプレッシャーがのしかかっているように見えたが、パドックでの彼女は普段以上に元気いっぱいに周回。その姿は決してイレ込んでいるわけではなく、適度な気合いを保ってのものだった。
もしかしたらこの時、グランアレグリア自身も「どんな勝ち方を魅せようか」と考えていたのかもしれない。今まで走ったGIレースの中で最も多くの支持を受けての一戦で、ベストパフォーマンスを発揮できる場として最高の舞台が整っている状況。
どう走っても勝てると考えたからこそ、スタート直後も無理に動かず、出たなりで中団に付けたのかもしれない。普段よりもスタートの出が悪かった割に一切慌てた素振りを見せなかったのは、それだけ余裕があったのだろう。
クリスティとスマイルカナ、2頭の芦毛馬がハナを争いながら始まったレースは前半3ハロンが34秒3という予想外のスローペースに。馬場の良い今の府中ならば前にいる馬たちだけで決まってしまっても不思議ない流れになった。
それでもグランアレグリアは一切慌てる様子がなく、気の向くままに走って、4コーナーでは外へ進路を取っていた。
この時、まだ10番手前後の位置にグランアレグリアは400mを過ぎてもまだ中団のまま。
鞍上のクリストフ・ルメールは鞭を入れるどころか、追ってすらいない。ゆったりとした流れのまま進んだレースだけにこのままでは前にいる馬たちを捕まえられないのでは?と馬券を買った多くのファンを不安にさせたが......それはほんの一瞬のことだった。
坂を駆け上がり、残り200m。ようやくグランアレグリアが先頭に立った。鞭も打たれなければ、手綱も動いていない。全くの馬なり状態で前を行くレシステンシアを捕まえたのだ。
ここからの11秒、グランアレグリアの舞台が始まった。たったの11秒だが、あまりに鮮烈なその走りに我々は心を打たれるだけだった。
たった2発の右鞭で脚を伸ばし、ひと追いだけで後続馬を突き放す。さっきまで全速力で走っていたライバル馬たちがまるで止まっているかのように見える錯覚を受けるほど、グランアレグリアのスピードは異次元のものだった。文句なしのベストパフォーマンスを見せて1着のゴールへ飛び込んだ。
ほんの一瞬、たった200mだけでグランアレグリアが2着馬に付けた着差は4馬身。2着ランブリングアレーから8着デゼルまでの間が0.2秒以内に密集しているあたり、力が一枚も二枚も上手だったことを示している。
誰もが臨んだ美しく、完璧な勝利をグランアレグリアは現実のものとした。それも「勝って当たり前」と思われていた中で、さらに感動させるような勝ち方で。異次元のスピードに見た目のインパクトが加わり、まさに映える勝利だったと言えるだろう。
レース後にインタビューに答えたルメールも開口一番に「やっぱり強かった」とコメントしたように、今日のレースはまさに完璧なもの。
直線で前を捕まえに行くときに騎手のゴーサインを受けてからではなく、自らハミを取ってトップギアに持っていったというのだから、彼女自身も「私のための舞台」と感じて走っていたように思う。だとすればゴールまでの11秒は彼女にとっても最高の時間だったことだろう。
ほんの11秒で自身だけでなく、すべての競馬ファンを幸せにする馬なんて、果たしてグランアレグリアの他にいただろうか。
安田記念、マイルCSに続いてヴィクトリアマイルを制し、史上初となる古馬芝マイルGI制覇を成し遂げたグランアレグリア。次はいったいどのレースを目指すのだろうか。名伯楽・藤沢和雄が最後に送り出した怪物牝馬の行く末を今後も見守りたい。
■文/福嶌弘