【宝塚記念】発展途上の黒い芦毛馬・クロノジェネシス 闘争心に火をつけた直線での左鞭

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2021.6.28

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    直線で抜け出すクロノジェネシス 写真:スポニチ/アフロ

    ~第62回宝塚記念 回顧~

    「クロノジェネシスの馬体は、いつになったら白くなるんだろう」――

    宝塚記念のパドックを眺めていて、ふとそんなことを思った。いつも通りにややチャカ付きながら歩く彼女を見て、今日もいいレースをするだろうと確信したが、それ以上に彼女のチャコールグレーのような毛色ばかりが気になった。

     かつてのオグリキャップやメジロマックイーン、最近だとゴールドシップもそうだったが芦毛の馬は年齢を重ねるにつれて馬体が白くなっていくもの。若駒の頃なら芦毛に見えないような真っ黒な馬体を持つ馬がいても不思議ではないが、5歳の牝馬でここまで黒いというのも珍しい。

    ましてや今日はパドックでクロノジェネシスの前を歩いていたのが白毛馬のシロニイだったから、普段以上に黒く見えた。

    レースの参考VTRとして流れた過去のレースを見ても、3歳時から毛色の変化がほとんどないのでなおさら「彼女の馬体はいつ白くなるんだろう」という疑問を持った。

    ところで競馬界には「黒っぽい芦毛で強い馬は追いかけろ」という馬券格言がある。芦毛馬は本格化する頃には白くなっていくため、馬体が黒い芦毛馬はまだまだ完成途上。

    その時点でGIを勝てるような強い馬は追いかけ続けると馬券で美味しい思いができるということだが、考えてみればこの格言、クロノジェネシスにも当てはまる。

    宝塚記念までのクロノジェネシスの成績を振り返ると、14戦して7勝。馬券圏外(19年 エリザベス杯)はただの1度きりだったのだから、彼女を軸に据えて馬券を買えば、的中に限りなく近づいたことだろう。実際、今日も彼女は勝利し、これで7戦連続馬券圏内入りを果たしたのだから。

     グレード制導入後、中距離の芝GIでは史上初めて、牝馬が1~3番人気を独占することになった今年の宝塚記念。

    戦前の下馬評ではユニコーンライオンとレイパパレがハナを争うかと思われたが、スタート直後からレイパパレが控えたため、ユニコーンライオンがすんなりとハナへ。

    それをガッチリ見るような形でレイパパレが2番手につけ、クロノジェネシスはそのすぐ後ろにつけた。

    昨夏以降のクロノジェネシスは中団から動くことが多かっただけに、久しぶりの先行策にはいささか驚かされたが、主戦の北村友一の落馬負傷により、代打を務めることになった鞍上・クリストフ・ルメールの選択は決して間違っていなかった。

    1000mの通過タイムは60秒フラットという淀みないペースのままレースが流れていったが、レースが動いていったのは3角過ぎ。

    クロノジェネシスをマークするかのようにすぐ後ろに付けていたカレンブーケドールに、今日は正攻法でレースに臨んだキセキが仕掛けはじめた。4コーナーを回るころにはクロノジェネシスのほか、3頭が横並びのまま直線に入った。

     良馬馬発表だったとはいえ、レースの直前に雨が降っていたため、多少なりとも力の要る馬場になっていた最後の直線。逃げるユニコーンライオンとレイパパレが前で競り合う中、後続の馬たちは馬場に脚を取られるように伸びを欠く。

    クロノジェネシスと横並びになったはずのカレンブーケドールやキセキはここからジリジリとしか伸びず、その後ろにいた馬たちに至ってはノーチャンスな流れ。勝負は完全に前にいた馬たちに絞られた。

    カレンブーケドールやキセキと並んでいたクロノジェネシスは直線に入ったと同時にスパートをかけたが、彼女だけは他の馬たちとは違った。ただひたすらに前を見て、先に抜け出した2頭を絶対に捕まえるといった燃えるような闘争心が瞳の奥から感じられた。

     残り200m。ルメールの左鞭が2発飛んだ直後、クロノジェネシスはギアを一段上げたかのように伸びて前の2頭を捕らえた。

    その姿はまるで獲物を仕留めに掛かった猟犬のようにも見えたが、残り100mの時点でクロノジェネシスは完全に先頭に立ち、必死に抵抗するユニコーンライオンらを振り切って、先頭でゴールを駆け抜け1着。

    牝馬が強くなった時代を表す象徴ともいうべきレースを制したクロノジェネシスだが、この勝利はゴールドシップ以来となる史上2頭目の宝塚記念連覇、さらに1999年のグラスワンダー以来となるグランプリ3連覇という記録ずくめの勝利となった。

    4角でマクるように上がっていき、直線だけで後続に6馬身差を付けた昨年ほど見た目にインパクトはなかった。

    最後の最後まで抵抗し牡馬の意地を見せたユニコーンライオン、ここまで6戦無敗と負けたことがない女・レイパパレを力でねじ伏せて勝つクロノジェネシスの姿はまさに女王の風格が漂っていたが、レース後、ルメールはインタビューで「ラスト200mは楽だった」とコメント。もしかしたら彼女にとっては見た目以上に楽なレースだったのかもしれない。

    それにしても、黒い馬体のままでGI4勝目を挙げたクロノジェネシス。彼女の馬体が今よりも白くなって競走馬として完成した時、いったいどんなパフォーマンスを見せてくれるのだろうか。

    その姿が見られるのは秋のロンシャンか、真冬の中山か、それとも......これからのクロノジェネシスから、また目が離せなくなりそうだ。


    ■文/福嶌弘