【ホープフルS】キラーアビリティが優勝!昨日の敵は今日の友 横山武が厩舎の次期エースをアシスト

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2021.12.29


2021 ホープフルステークス (GI) キラーアビリティ 優勝 写真:日刊スポーツ/アフロ

昨日の敵は、今日の友 ~第38回ホープフルS回顧

「今年はいい馬が揃ったなぁ」――

ホープフルSのパドックを見て、思わずこうつぶやいた。

GIに昇格して以来、毎年光り輝くように馬体を魅せる1頭だけが飛びぬけてよく見えるため、馬券的にはガチガチで面白くはないが、未来のスター候補を見つけるのには最適なレース、それがホープフルSの例年の立ち位置だった。

 ところが、今年に限ってはどの馬もよく見えた。人気になった4頭が馬番5番~8番に固まっていたせいもあるが、ハイレベルな一戦らしく、どの馬も楽しみに映った。

中でも気になったのが1番人気に支持されたコマンドライン、そしてその前を歩くキラーアビリティという2頭のディープインパクト産駒である。

 同じ父を持ち、母はともにアメリカGI馬。生まれもノーザンファームという2頭だが、その様子は正反対。サウジアラビアRCを制して2戦2勝でここを迎えたコマンドラインは530キロという雄大な馬格を誇り、古馬顔負けの雰囲気で堂々と周回。

スタートからスッと前に付けて流れに乗り、直線早めに抜け出すというレース運びにはソツがない。まさに完成度という点ではメンバー随一のものがあり、無傷でのGI制覇が有力視されていた。

 一方、その前を歩いていたキラーアビリティはと言うと、どこかやんちゃな雰囲気が目立つ1頭。

この日のパドックでは珍しく落ち着いてはいたものの、デビュー戦では返し馬で暴走してスタミナを余分に使ってしまいレースは大敗するなど、まだまだ発展途上の雰囲気を持っていた。

ハマった時の強さは初勝利を挙げたレースを見ればわかるが、安定しない脚質にロスが目立つレース運びなど、コマンドラインと比べるとまだまだ荒削り。

だが、キラーアビリティにはコマンドラインにはない何かがあった。馬体重が40キロ近く違うというのに、小さく見えるどころか、互角か、むしろ背が高い分、キラーアビリティの方が立派にすら見えたのだ。

「馬体が小さな馬が、身体を大きく見せるときは好調の証」とは、競馬界におけるセオリーだが、キラーアビリティもまたそんなセオリーにのっとった走りをこの後見せることになる。

 そうして迎えたレース。全馬がゲートインした直後からコマンドラインがそわそわとし始めた。それが災いする形でゲートが開くと伸びるように出てしまい後手を踏む形に。

これまで好位に付けて流れに乗ってきた馬からしたら、予期せぬ展開になってしまった。

 一方のキラーアビリティはというとまずまずのスタート。

デビュー戦、未勝利戦では中団に付けていた馬が小回りコースの中山を意識してか、萩S同様に前に付けるレースを選択。ボーンディスウェイ、グランドラインが逃げてペースを作る中、キラーアビリティは3番手でレースを進めていく。

 これではまるで普段と逆のレース運びだが、結果的にこの位置取りが勝敗を大きく左右することになった。1000mの通過タイムこそ60秒1という平均ペースだったが、その後、そのペースが上がることはほとんどない。

600mから1600mまで12秒0~12秒2というラップで走っている以上、後方から追い上げていくのは至難の業になる一方で、先頭から5番手以内にいた馬たちにはこれ以上ない恩恵となった。

これでは後方にいたままのコマンドラインには出番がないのも無理はない。

 なにせ、5着までに入った馬の中で4角の時点で5番手以内にいたのはなんと4頭。一瞬の切れ味は求められず、今年のホープフルSは中山競馬場らしい持久力が求められるレースとなった。

 その中でも最も早く抜け出したのがキラーアビリティ。

4角3番手からスパートをかけると、残り200mの時点で前を行く逃げ馬たちを捕まえて先頭に。その後を懸命にジャスティンパレスやらラーグルフが追いかけるも時すでに遅し。

気が付けば2着馬に1馬身半の差をつけて、キラーアビリティはゴール!

 2歳王者に君臨した。勝ち時計も2分0秒6とGI昇格後のこのレースとしては最も速い時計となったようにレベルの高い一戦だった。

 それにしても見事だったのが、キラーアビリティの鞍上を務めた横山武史だろう。

2日前にエフフォーリアで有馬記念を制してからわずか2日しか経っていないのに、このやんちゃな2歳王者を初騎乗ながら、見事に手の内に入れて勝利へと導いた。

インタビューで横山武史は、キラーアビリティについてこう答えた。

「2週連続で調教に乗らせてもらい、走る馬だと感じていました。まだまだ子供で、どうしても気だけで走ってしまうところがあるけど、オンとオフの切り替えができればもっと勝てるようになる」

今年、クラシック制覇を果たした横山武史だけにこのコメントにはとても重みがあることだろう。来年の皐月賞当日、横山武史を従えたキラーアビリティがパドックや返し馬で、どんな所作を見せるか注目したいところだ。

そして、管理する斉藤崇史調教師にとっては2日前に引退したクロノジェネシスの跡継ぎが生まれた。それも2日前にクロノジェネシスを負かして世代交代を果たした鞍上とともに...。

昨日の敵は今日の友。2021年のホープフルSそんな格言を感じざるを得ない、素晴らしいレースだった。


■文/福嶌弘