【桜花賞 みどころ】新女王は仁川の桜とともに

ナミュール 写真:東京スポーツ/アフロ
今年も仁川の桜は、散らずに残った。
まるで新たな女王の誕生を見るために――。
例年通り、フルゲート18頭がエントリーした今年の桜花賞。絶対的な本命馬がいないことに加え、過去5年とも1番人気馬が敗れていることも手伝ってか、今年は例年以上の混戦具合に映る。
実際、前売りオッズでも2強対決の様相を呈しているが、そのオッズはかなり肉厚したもの。そして出走馬全体で見てもかなり接近しているだけにどの馬にもチャンスがあると考えていいだろう。
戦前の下馬評では近年でも稀にみる混戦となりそうな今年の桜花賞、その中で主役となりそうなのはナミュールだろうか。
3代母に25年前の桜花賞馬キョウエイマーチがいるという由緒正しい母系から生まれた彼女はデビュー戦からキレのある末脚を見せていきなり2連勝。
暮れに行われる2歳女王決定戦、阪神JFでも1番人気の支持を受け、堂々と勝ち切るかと思えたが... 上がり3ハロン33秒6という2歳馬離れした末脚を見せたにもかかわらず、結果は馬券圏内すら外す4着で初黒星を喫した。
いくら切れのある末脚を見せても、デビューから3戦連続で出遅れてしまっては意味がない。
勝ったサークルオブライフはともかく、好位から流れに乗って抜け出した2着馬、3着馬と比べると、ナミュールのレース運びには無駄が目立ち、小さなロスが積み重なったことが大一番での凡走につながってしまった。
迎えた3歳緒戦はチューリップ賞。桜花賞を制するうえでは欠かすことができないプレップレースだが、新パートナー・横山武史と組んだナミュールは成長した姿を見せた。
デビュー戦以来、ずっと苦手としていたゲートをスムーズに出て中団に付け、先行したサークルオブライフを見ながらレースを進め、最後の直線へ。
前が壁になったために少しロスがあったが、外へと持ち出されるとナミュールは先に動いたサークルオブライフらをあっさりと差し切って勝利。末脚の破壊力は世代最高と言わんばかりの切れ味を見せて見事にチューリップ賞を制した。
本番を目前に控えた最終追い切りでも抜群の動きを見せ、高野友和調教師に「研ぎ澄まされてきた」とまで言わしめた。8枠18番、桜と同じ色のゲートを出る彼女が新たな女王に君臨するのだろうか。
ナミュールと同じ8枠に入ったのが、2歳女王のサークルオブライフ。彼女は虎視眈々とリベンジの機会をうかがっている。
デビュー戦で3着に敗れ、巻き返しを図った2戦目でマクリを決めて勝ったこともあるが、彼女の魅力は何といってもその堅実なレース振り。
デビュー以来、上がり3ハロンは上位を外したことがなく、キッチリと伸びて突き抜ける。重賞初制覇となったアルテミスSでも2歳女王決定戦となった阪神JFでもそれは同じ。
見た目の派手さはなくとも必ず結果を残すという彼女の走りを見ると、厩舎の先輩であるアパパネやアーモンドアイの姿がどこかダブって見えた。
だからチューリップ賞でナミュールに差されて3着に終わっても、陣営は決して下を向かなかった。過去の名牝たちが歩んできた道をなぞるように進むサークルオブライフの姿はまさに一流馬のそれ。
「いい雰囲気で来ている」と、国枝栄調教師がにこやかに語るのも頷ける。永遠に循環し続ける「生命の環」の如く、サークルオブライフは偉大なる先輩の背中を追いかける。
調教師が師、騎手が弟子となる師弟コンビでビッグタイトルを狙うという構図はよくあるが、兄弟コンビでGⅠを狙うというのは極めて珍しい。そんな兄弟で桜花賞のタイトルに挑むのがウォーターナビレラだ。
日本競馬史上最高の騎手と称されるレジェンド・武豊。その弟にして調教師に転身した武幸四郎が今年のクラシック戦線へ送り出したのが彼女。
血統からしてや牧場での生い立ちからして、これといって目立つところはなかったが、いざレースになると軽快なダッシュ力を背景にデビューから2連勝。ビッグタイトルを狙えることを確信したところで弟はその鞍上を兄に委ねた。
迎えたファンタジーSでも2番手に付けて流れに乗ると、直線で早めに突き抜け危なげなく重賞初制覇。
以降は阪神JF3着、チューリップ賞5着と停滞しているが、本番を意識してか逃げ一辺倒ではない自在性のあるレースを見せるようになった。早めからじっくりと仕上げに入っているだけあり、完成度という点ではメンバーでも随一。桜の舞台で天才兄弟のコンビがリベンジの機会に燃えている。
最後に苦労人、サブライムアンセムの名を挙げたい。昨年8月にデビューするも、なかなか勝ち切ることができず、初勝利を挙げたのは今年の2月。1か月後のフィリーズレビューでナムラクレアらをアタマ差押さえて差し切ったことで桜花賞への出走権利を得た。
近親にチェッキーノ、コディーノらの活躍馬を持つ一族の出身ながら、彼女のウリはへこたれない勝負根性。直線で叩き合いの展開になれば、誰よりも苦労してきた彼女の思いが実ることだろう。
ここに挙げた馬だけでなく、他にも主役を張れるだけ実力馬がいる今年の桜花賞。新たなヒロイン誕生の瞬間を仁川の桜とともにこの目でしっかりと見届けたい。
■文/福嶌弘