悲運の名馬”ホクトベガ” 酒井牧場61年ぶりの日本ダービーへ|日本ダービー2022 ~HEROになるために~
2022.5.23
ダートで無敵の強さを誇り、砂の女王と呼ばれたホクトベガ。
ドバイの地で非業の死を遂げた名馬と同じ血を持つサラブレッドが、ダービー出走を目指す。
それが、京都2歳ステークスを制したジャスティンロック。
出走が叶えば、生産した酒井牧場にとっては、61年ぶりのダービーとなる。
ホクトベガの想いを継いで...夢の舞台で頂点を目指す!
2022.5.23
ダートで無敵の強さを誇り、砂の女王と呼ばれたホクトベガ。
ドバイの地で非業の死を遂げた名馬と同じ血を持つサラブレッドが、ダービー出走を目指す。
それが、京都2歳ステークスを制したジャスティンロック。
出走が叶えば、生産した酒井牧場にとっては、61年ぶりのダービーとなる。
ホクトベガの想いを継いで...夢の舞台で頂点を目指す!
クラシック三冠レースの第二弾 競馬の祭典 第93回日本ダービー(東京優駿)<GI 3歳オープン(国際)牡・牝(指定)馬齢 コース:2,400メートル(芝・左)>が5月31日(日)に東京競馬場で行われる。 「このレースだけは特別だから」―― 日本ダービーについて聞くと、こう答えるホースマンは多い。数あるGIの中でも、今も昔ももっとも勝ちたいという声が挙がるのは日本ダービーくらいなものだろう。 だからだろうか、歴代の日本ダービーを制した馬にはどこか特別な雰囲気が漂っているように思う。 例えば、1998年の日本ダービーを武豊とともに制したスペシャルウィーク。 皐月賞と菊花賞はセイウンスカイに敗れ、古馬になってからはGⅠ3勝を挙げるもグラスワンダーに勝つことはできなかったが、不思議と主人公のような雰囲気がある馬だったのは確か。まさに名前の通りに”スペシャル”な存在だった。 華やかさで言えば、2003年の日本ダービー馬ネオユニヴァースも負けてはいない。 短期免許で来日していたミルコ・デムーロとともに皐月賞を制し、曇り空のダービーでも馬群の真ん中を割って勝利。 その後GⅠを勝つことはなかったが、ダービー後に宝塚記念に挑んだり、レギュレーションの変更に乗じて秋にはデムーロと菊花賞で三冠制覇にチャレンジしたりと、その挑戦はどこか華のあるものばかり。競馬界の新たなるスターとして輝きを放った。 スターホースと言えば、キズナも忘れられない1頭。 当時不振にあえいでいた武豊を背に京都新聞杯を制して迎えたダービーは大外一気の脚で突き抜け勝利。武豊にダービー5勝目をプレゼントし復活のアシストを果たすと、秋にはニエル賞を制して凱旋門賞にチャレンジした。 この馬もダービー以降GⅠを勝つことはなかったが、その華やかさスター性は圧倒的。未だにGⅠ1勝で終わったことが信じられないというファンもいるほどだ。 他にもディープインパクトにエイシンフラッシュ、コントレイルにドウデュース、そして現役のクロワデュノールなど......ダービー馬ならではの特別な雰囲気を感じることができるだろう。 ロブチェン(c)SANKEI そして今年、ダービー制覇に最も近い存在となったのが、皐月賞馬のロブチェンだ。 ここまでGI2勝、皐月賞もレコード勝ちを収めるなど実力は間違いなく世代最高峰のロブチェンだが、不思議と人気を背負うことはなかった。 例えば新馬戦を快勝して迎えたホープフルSはキャリアの浅さが懸念されて7番人気まででとどまったが、結果は快勝。 中団から動いて抜け出す脚、低く走るフォームには歴代の名馬の姿が重なるほどだった。 続く共同通信杯は直線での切れ味勝負に屈して3着に敗れ、迎えた皐月賞。 最終的にキャリアで初となる1番人気に支持はされたが、そのオッズは4.0倍。しかもレース直前まで人気がコロコロと入れ替わるような状況だった。 だが、ロブチェンは走りで黙らせた。スタート早々から逃げの姿勢を取ったロブチェンはデビュー戦以来となる逃げを打つことに。 誰もが予想外のレース展開となったが、ロブチェンは慌てることなく直線でも一度は差されたリアライズシリウスを差し返して勝利。1分56秒5というレコードタイムで押し切った。 逃げても差しても勝てるという自在性は世代でも屈指のもの。3つ目のタイトルとなる日本ダービーを制し、真のチャンピオンとして名乗りを上げるか。 リアライズシリウス(c)SANKEI 打倒ロブチェンを目指す馬は今回17頭いるが、その筆頭格はリアライズシリウスだ。 2歳6月の東京開催のデビュー戦で快勝し、新潟2歳Sでも楽勝。 そのたぐいまれなスピードは鞍上の津村明秀をも舌を巻くほど。休み明けで迎えた朝日杯FSは5着に終わったが、この馬の本質は3歳になってから徐々に花開いた。 強かったのは年明け緒戦の共同通信杯。スタートから逃げの手を打ち、ペースをスローに落として切れ味勝負に持ち込んで勝利。このとき3着にロブチェンを負かしているのだから内容の濃い一戦となったのは間違いないだろう。 そうして迎えた皐月賞は逃げるロブチェンをマークするように2番手でずっと張り付き、直線ではいったんは先頭に立つも、ロブチェンの二枚腰に敗れて2着。あまりに惜しい敗戦となった。 血統的にもレーススタイルを見ても、距離延長となる日本ダービーの舞台は決してプラスとは言えないが、東京コースはロブチェンを負かすなど2戦2勝。デビュー以来、手綱を取る津村との絆も深く、人馬ともに念願のGⅠ制覇を果たすか。 ゴーイントゥスカイ(c)SANKEI ハイレベルな決着となった皐月賞組が中心となりそうだが、今年は別路線組にも充実のメンバーが揃っている。中でも青葉賞を快勝したゴーイントゥスカイは侮れない。 コントレイル期待の初年度産駒としてデビューすると、2戦目の京都2歳Sでは不利がありながらも3着に健闘。 皐月賞を目指してきさらぎ賞で賞金加算を狙ったが、雪で順延したことでリズムが狂ったか、直線で伸びずに7着完敗。皐月賞には間に合わなかった。 矛先を日本ダービーに変えて挑んだ青葉賞。鞍上も武豊にスイッチして迎えたこのレースではこれまで以上に後方からのレースに。 開幕週の馬場で前に行く馬が有利かと思われた中で直線では馬群の間を割って抜け出すという堂々たる走りで快勝。勝ち時計2分23秒0は青葉賞のレースレコードタイ記録だった。 青葉賞と言えば日本ダービーとのつながりが薄いレースとしても知られているが、今年の青葉賞は開催時期が1週早まったことで例年以上にローテーションにゆとりがある。日本ダービー6勝を誇る武豊とともに頂を目指すか。 コンジェスタス(c)SANKEI 東のダービートライアルが青葉賞なら、西のダービー最終便となるのが京都新聞杯。今年の覇者コンジェスタスもまた、日本ダービー制覇を虎視眈々と狙っている。 暮れの中山でデビューすると、好位から押し切る形で快勝。 馬の成長に合わせて3歳緒戦に選んだのは3月の阪神開催の1勝クラス。ここも好位から押し切って2連勝とすると、皐月賞を見送り京都新聞杯からダービーを目指すローテーションを選択した。 その京都新聞杯。コンジェスタスは6番人気に留まったが中団で脚を溜めていくと直線では外から押し上げていき、内を突いたべレシートを目掛けて猛追。 最後は並んでの叩き合いとなったが、父コントレイル譲りの勝負根性を武器に交わして勝利。3戦無敗で見事にダービーの切符を掴んでみせた。 思えば父コントレイルが無敗でダービーを制したのは6年前。日本競馬史上でも初となる祖父、父に続く無敗での日本ダービー制覇で新たなスター誕生となるか。 出走するだけでも特別な18頭による争いとなる日本ダービー。競馬界に燦然と輝くスターホースは果たして現れるのだろうか。 ■文/福嶌弘
2023年に生まれた3歳馬7944頭の頂点であり、競馬界最高の栄誉である日本ダービー。 ホースマンにとって最大の栄誉となるビッグタイトルを手にするために今年も東京競馬場を舞台に熱い戦いが繰り広げられるが... 夢の舞台へ挑む各馬に秘められたエピソードや関係者たちの知られざる想いに迫った。 皐月賞でライヒスアドラーに騎乗して3着に入った若武者・佐々木大輔に注目。デビュー5年目、現在22歳の若手のホープの素顔とは? 正直さが厩舎スタッフたちの心を掴む 早朝5時、美浦トレーニングセンターの菊川正達厩舎へ向かうと、そこには佐々木大輔がいた。 毎朝の調教を付けることが彼の日課。所属する馬たちのケアも厩務員とともに行っている。 「馬に乗るということはスピードと方向をコントロールする。この2つだけ。馬乗りとしてうまくなりたい」 毎朝の調教に励み、厩舎に所属する馬たちのこともくまなくチェックする22歳の若武者を厩舎スタッフは高く評価している。その理由のひとつに彼の「正直な面」がある。 「正直な感想を言ってくれるのがありがたい。次のレースの課題をわかりやすく言ってくれるのですごく助かる。自分たちの馬に大輔が乗って勝ってくれるのを期待している」 馬乗りとしてうまくなりたいというひたむきな思いに、馬に対して誠実で正直な言葉をかける――そんな実直さがスタッフの心を掴んだのは間違いないだろう。 苦しんだ1年目。毎日のミーティングが飛躍のカギに 自厩舎だけでなく、他の厩舎からも騎乗依頼が殺到するなど周囲の評価も高い佐々木大輔だが、デビュー当時はその高い壁に苦しんだ。 「正直言うと、もっと楽に勝てると思っていたんですけどね......甘くなかったですね」 デビュー年の2022年はわずか9勝。これには本人も納得いかなかったことだろう。当時の佐々木は師匠である菊川正達とともに毎日のようにミーティングをしたという。 「最初の年はもがいていましたよ。レースのビデオを見ながらミーティングして意見を言い合うようにして。それが今の飛躍につながったかな」 菊川の言う通り、佐々木は2年目から着実に進化。デビュー3年目には函館2歳Sをサトノカルナバルで制して重賞初制覇を飾るなど77勝を挙げた。 翌25年は81勝を記録し、自身初のリーディングでひとけた台となる第9位にランクイン。24年からの2年間で重賞6勝もマークした。 厩舎スタッフはデビュー年と比べると「顔つきが変わった」と評していたが、当の本人は「まだ対した成績を残していない」といたって謙虚。 愚直なまでの「うまく乗りたい」という思いが日々の成長につながっているのは間違いない。 GIの中のGI、ダービーに騎乗する想い この日の佐々木は後輩の舟山瑠泉とともに焼肉屋へ。舟山自身も現在売り出し中の若手騎手だが、2人の会話はいつしか競馬の話に。とりわけダービーは2人とも「特別なレース」と評する。 「ダービーはGⅠの中でもさらに上のGⅠという感じがする」(佐々木) 「ダービーなんて、そう簡単に乗れるレースではない。騎乗できる、任せてもらえるだけでもすごい」(舟山) そんな憧れの日本ダービーに佐々木は2年連続、2度目の騎乗を予定している。 パートナーはデビューから手綱を取るライヒスアドラー。末脚のキレ味は世代でも屈指で皐月賞でも3着に食い込んできている実力馬だ。 「僕しかライヒスアドラーの背中を知らないので、自信を持って乗りたい。かなり勝つチャンスはあると思っている。ダービーに有力馬で臨めるなんて人生で1回あるかどうかだと思うのでチャンスを無駄にしないように勝ちに行きたい」 戦後最年少のダービージョッキーへ......果たして佐々木大輔は歴史を変える存在になれるのだろうか。 ■文/福嶌 弘
2023年に生まれた3歳馬7944頭の頂点であり、競馬界最高の栄誉である日本ダービー。 ホースマンにとって最大の栄誉となるビッグタイトルを手にするために今年も東京競馬場を舞台に熱い戦いが繰り広げられるが... 夢の舞台へ挑む各馬に秘められたエピソードや関係者たちの知られざる想いに迫った。 皐月賞で4着に食い込んだアスクエジンバラに騎乗する岩田康誠に注目。52歳になったベテランが復活をかけて挑む姿をカメラが追った。 52歳でも元気いっぱいに厩舎へ向かうわけ 早朝の栗東トレーニングセンター、福永祐一厩舎に52歳になった岩田康誠の姿があった。 聞けばこの日は朝の3時半に起きたという。お目当ては皐月賞での騎乗馬、アスクエジンバラの様子を見るためだった。 「めちゃくちゃおとなしい子だけど、最近は調子に乗って襲ってくるようになったよ」 岩田のようなフリーの騎手は通常、追い切りの時くらいしか騎乗馬のもとにはやってこないが、岩田は「アスクエジンバラがいる時はずっと。エブリデイ」と言うほどに密着している。 「僕はレースや馬が大好きな人間」と評する岩田康誠には多くのスタッフが慕っている。中でもアスクエジンバラを管理する福永祐一は岩田のことをこう評した。 「騎手時代は同年代のライバルとして自分に大きな刺激をくれた騎手。そんな彼と立場が変わって大きいレースにチャレンジできるのは僕にとってもやりがいを感じるし、馬に関しても可能性を広げてもらえるのはありがたい」 実際、アスクエジンバラと岩田がタッグを組んだのは2歳時のサウジアラビアRCからだが、このレースは7着に終わったが、続く京都2歳S2着、ホープフルS3着。 そして3歳になってからもスプリングS3着、皐月賞4着と勝ち切れないまでも善戦するようになっていった。 引退を覆した素質馬との出会い 園田で騎手デビューして、2006年にJRAへ移籍した岩田騎手。 JRAでは26年の5月18日の時点で通算1861勝&GⅠでは25勝をマークするトップジョッキー。中でも2012年は岩田にとって最高の年となった。 この年の日本ダービー、ディープブリランテに騎乗した岩田は当時をこう振り返る。 「いわゆるゾーンに入っていました。13~14万人の歓声が聞こえなくなって、勝手に体が動いた。人馬一体に近づいたのかもしれない」 早めに抜け出してたディープブリランテと岩田は外からやってきたフェノーメノらの猛追を凌いで勝利。岩田にとって初めてのダービー制覇の瞬間だった。 「神様が僕に微笑んでくれた・光のある所で乗りたかった自分にとって感慨深かった」という岩田。 この年は他にもロードカナロアやジェンティルドンナとコンビを組み、GⅠでは7勝を挙げるなど、まさに全盛期とも言うべき活躍をみせた。 しかし、間もなく岩田は失速する。外国人騎手の台頭、若手騎手の飛躍で岩田の活躍するシーンが見る見るうちに減り、JRAでは年間100勝以上を上げるの当たり前だったが、23年にはわずか25勝にまで減少した。 「去年、騎手をやめようと思った」と、岩田は当時のことを振り返る。 乗り馬も減り、心が折れてしまった時に岩田は1頭の素質馬に出会う。それこそがアスクエジンバラである。「チャンスをくれたことで『俺は頑張らなきゃ』と、火を再び灯された感じになった」 折れかけていた闘志が再び燃え上がったのか、岩田康誠は復活を遂げた。 時計勝負にも対応。混戦を抜け出せるか そうして迎えた今年の皐月賞当日。人気はなかったが、スタートから積極的に前に付けていくと3番手から流れに乗って、レコード決着となる速い馬場で4着に。 「負けたけれど、ライバルたちとはそこまでの差はない」と岩田は分析した。さらに5月中旬、落馬により右鎖骨骨折という重傷を負い、日本ダービー騎乗に赤信号がともったが、それからわずか数日後には調教に乗り出し、その週のレースには復帰していた。 まさに不屈の男、岩田康誠。アスクエジンバラとともに14年ぶりとなる日本ダービー制覇で完全復活とするのだろうか。 ■文/福嶌 弘
2023年に生まれた3歳馬7944頭の頂点であり、競馬界最高の栄誉である日本ダービー。 ホースマンにとって最大の栄誉となるビッグタイトルを手にするために今年も東京競馬場を舞台に熱い戦いが繰り広げられるが... 夢の舞台へ挑む各馬に秘められたエピソードや関係者たちの知られざる想いに迫った。 青葉賞を制したゴーイントゥスカイに騎乗する武豊に注目。史上最多となるダービー6勝を誇る競馬界のレジェンドは今年の日本ダービーにどんな思いを馳せているのだろうか。 「1勝でも勝ちたい」あくなきチャレンジ精神が40年もの現役生活の原動力に 2026年2月下旬、競馬界のレジェンド・武豊の姿は京都高島屋にあった。87年に騎手デビューした武豊はこの日、自身のデビュー40年を記念した特別展のオープニングセレモニーに参加していた。 「デビューして40年だが、いまだに1勝でも勝ちたい。騎手としてうまくなりたいという思いはデビュー時から変わらない」 この特別展ではデビュー以来、40年にも渡る軌跡が写真や映像で紹介されているが、この日は特別に武豊本人が案内してくれた。 まず目に留まったのは競馬学校時代の武豊と父の邦彦との2ショット。「当時は騎手になりたいだけで『ダービー勝ちたい』とか未来は想像していなかったと思うな」と、当時のことを振り返ってくれた。 また、会場には対話型のAI、「AI武豊」なるものもあり、そのクオリティは本人も頷けるほど。 数々の名馬に彩られた騎手生活 会場内には数々の写真やトロフィーが展示されているが、その中でもひときわ目立ったのが日本ダービーにまつわるもの。 歴代最多となる6勝を挙げた武豊の騎乗馬たちの写真や馬具などがそこには展示されている。 武豊が初めてダービーを制したのは自身10度目の挑戦となった1998年。スペシャルウィークに騎乗した時のことだった。 直線で鞭を落とすというアクシデントがありながらも2着馬に5馬身差をつけるブッチギリの圧勝でダービージョッキーの称号に輝いた。 さらに翌1999年。今度はアドマイヤベガに騎乗すると、直線で大外一気の末脚を繰り出してテイエムオペラオー、ナリタトップロードらを差し切り勝利。史上初の日本ダービー連覇を果たしてみせた。 「この時の天気や話した会話なんかは、すべて覚えている」と武豊もどこか嬉しそうに語っていたのが印象的だった。 落馬による骨折で皐月賞の騎乗を断念した2002年。この年のダービーで武豊はタニノギムレットに騎乗。 皐月賞、NHKマイルCともに3着に敗れた無念を晴らすかのように大外一気で突き抜けて勝利し、見事に3度目のダービー制覇を果たした。 それから3年後の2005年には日本競馬史上最強馬とさえ称されるディープインパクトに騎乗して自身4度目となるダービー制覇を達成。 大外から一気に差して2着のインティライミに5馬身差をつけるという圧勝劇には武豊自身も「ディープは強かったなって、改めて思う」と、かつての相棒の強さをしみじみと語った。 2013年、この年の武豊はディープインパクト産駒のキズナに騎乗。 父を彷彿とさせる豪快な末脚で大外から直線一気の脚で差し切りダービー5勝目を挙げた。 それから9年後の2022年。この年はドウデュースに騎乗し、早めに抜け出してイクイノックスの追撃を凌いで勝利。前人未到のダービー6勝を達成した。 「すべてのダービーに思い出がある。もう1つトロフィーを増やしたい」と、展示されたトロフィーを見ながら武豊は2026年のダービー制覇に闘志を燃やしていた。 新たなコンビとともに、目指すは7度目のダービー制覇 そんな武豊と、今年の日本ダービーでタッグを組むことになったのがコントレイル産駒のゴーイントゥスカイ。 前哨戦となった青葉賞では初騎乗ながら持ち前のキレのある末脚を生かして快勝。ダービーへの出走権を手に入れた。 「ダービーの出走権は取りたかったのでほっとしている。同じ距離でこのパフォーマンス。タイムもよかったし楽しめる」とパートナーの走りを絶賛。 青葉賞の時のように末脚に賭ける展開ならば本番のダービーでも十分勝機はあるだろう。 もしかすると今年の夏、数々のトロフィーたちとともに今年の日本ダービーのものが飾られているかもしれない。 ......日本ダービー7度目の制覇へ。武豊の挑戦はまだまだ続く。 ■文/福嶌 弘
5月23日(土)、テレビ東京で「日本ダービー2026 いま頂点へ」が放送された。 2023年に生まれた3歳馬7944頭の頂点であり、競馬界最高の栄誉である日本ダービー。 ホースマンにとって最大の栄誉となるビッグタイトルを手にするために今年も東京競馬場を舞台に熱い戦いが繰り広げられるが... この番組では夢の舞台へ挑む各馬に秘められたエピソードや関係者たちの知られざる想いに迫った。 その中でも今回は皐月賞をレコードタイムで逃げ切り勝利したロブチェンに注目。 2冠制覇を狙う世代最速の王のルーツは果たして、どんなホースマンが携わっているのだろうか。 パワーは素晴らしいも「怖がりだった」幼少期 ロブチェンが生まれたのは北海道のノーザンファーム早来。 ディープインパクト、イクイノックス、そしてドウデュースなど数々の名馬がここで誕生し、生産馬による日本ダービー制覇は史上最多となる13回。名実ともに日本一の大牧場と言える。 そんな名門ファームで2023年に生まれたのがロブチェン。この年に繁殖厩舎長に就任し、ロブチェンを担当した浅倉佑衣は「可愛いんですけどね」と前置きしつつ、当時のことをこう振り返る。 「とにかく怖がりな子供でしたね。若いスタッフが飛び出していくと怖がりでスパッと行ってしまうので難しい馬だなって思っていました。このころからパワーはすごいし、低く走るので、他の馬と体重の乗り方が違うので引くのが大変でしたよ」 現在の堂々と走るロブチェンの様子からは少々意外なエピソードが飛び出したが... 今年の皐月賞当日、浅倉はカツテの担当馬の雄姿を見るために中山競馬場にやってきた。スタートから逃げていったロブチェンの堂々たる走りを見て、その成長ぶりに目を細めた。 「大歓声の中、平然としていたし、肝が据わった走りでビックリしました。あんなに小さくて手間がかかっていた馬が立派になりましたね」 怖がりだった仔馬が、大観衆が集まる競馬場で悠然と走れるようになったのは、浅倉の愛情にあふれた育成がベースになったのかもしれない。 調教を積むごとに上昇。父に勝るとも劣らぬ好素材に 1歳の夏、ロブチェンは調教厩舎に移動し、本格的なトレーニングを受けることになったが、ここで出会ったのが厩舎長の加我烈士。 2024年に厩舎長に就任した加我は浅倉と同様、就任初年度にロブチェンを担当することになった。 ロブチェンの父は菊花賞、天皇賞(春)を制したワールドプレミアだが、くしくも加我はデビュー前のワールドプレミアを担当していた。父子の背中を知る数少ない男は2頭を比較して紹介してくれた。 「ワールドプレミアは柔らかくて運動神経も抜群で、絶対走ると思っていましたが、ロブチェンはそこまでのインパクトは感じなくて目立っていなかったんです。ですが、調教を積むうちにどんどん馬が変わっていって、これなら活躍できると思いました」 各馬の調教メニューを決めるのは厩舎長の大事な仕事だが、加我は調教メニューを組む際、短所を補うのではなく長所を伸ばすことを意識しているという。「長所を伸ばすことでとんでもない馬になるかもしれないですからね」 加我によるのびのびとした調教の元、才能が開花していったロブチェンは加我の下を離れて3ヵ月後のホープフルSを制覇した。 「沈み込むように走って、直線では切れ味を出していたので、競馬でもそういう走りをしたので育成がしっかりつながったと思いました」と、自信を深めることができたという。 GIホースに匹敵する背中。”チェンさん”は二冠へ向けてひた走る! 皐月賞から2日後、栗東の杉山晴紀厩舎には激闘を終えたロブチェンがいた。 調教助手の瀬間駿太郎は「チェンさん」と呼んでねぎらい、普段の世話をしているという調教助手の房野陽介はロブチェンの大好物だという青草を持ってやってきた。 「エサはバクバク食べるし、毛ツヤもいいし、一生懸命に走る」。そんなロブチェンに初めて跨った時の衝撃を房野は今でも覚えているという。 「背中がやばい、えげつないと思いました。前進がしなるように動くんです。同じ時期にジャスティンパレスにも騎乗しましたが、ほぼ同じでしたね」 ジャスティンパレスと言えば、天皇賞(春)を制した厩舎の看板ホース。 房野はそれと同じ感覚を2歳馬に感じたという。実際、ホープフルS、皐月賞とGIタイトルを積み重ねるロブチェンを見るとその感覚は間違っていなかった。 調教助手となって26年、初めてのビッグタイトルをプレゼントしてくれた相棒に対し、房野は「この馬にはまだ上がある」と二冠制覇へ自信をのぞかせた。 生産牧場から育成牧場、そして杉山晴紀厩舎......どこで話を聞いても二冠制覇へ大きな期待を寄せられているロブチェン。 最後に鞍上を務める松山弘平がこう答えた。 「ダービーはみんなが目指す頂点。これだけの馬に乗れるのは幸せで、最後に手綱を握るのは自分なのでみんなの期待に応えたい。いつも通りの力を発揮できれば結果は付いてくる。ロブチェンと人馬一体になって頑張りたい」 今年のダービーの直線、ロブチェンはトレードマークとも言える低いフォームで疾走し、二冠制覇を果たすのだろうか。 ■文/福嶌 弘