【日本ダービー】君こそ「HERO」武豊とドウデュース ~強い絆で結ばれたダービー馬~

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2022.5.30

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    2022日本ダービー ドウデュースが優勝 写真:日刊スポーツ/アフロ

    第89回日本ダービー回顧

    「やっぱりダービーは、絆のレースなんだな......」レース後、ドウデュース鞍上の武豊騎手が馬主である松島正昭氏と抱き合う姿を見て、改めてそう感じた。

    すでに5勝を挙げている武豊でさえ、「国内のレースで最も勝ちたい一戦」と公言してやまない日本ダービー。

    すべての競走馬とホースマンたちによる最大の夢でもあるレースだけに生半可な気持ちではとても勝てるものではない。

    物言わぬサラブレッドに対し、ゲートに慣れさせ、調教で眠った能力を引き出し、レースでは折り合いを覚えさせながら走り、勝利へと導いていく――

    競走馬としてまだまだ完成しきっていない3歳のサラブレッドを育てて王座を競うわけだから、そこには人馬の強い絆が必要になるのは間違いない。

    そしてその絆こそが、今思うと「戦国」「混戦」と称された今年のダービーで何よりも求められた気がしてならない。改めて出走馬を振り返ると、そうした絆を最も感じさせたのは何を隠そうドウデュースである。

    ドウデュースのここまでの戦績は5戦3勝。前走の皐月賞をはじめ、5戦すべてで武豊騎手が鞍上を任されているが、これには馬主のキーファーズが関係している。

    2015年から馬主資格を取得したキーファーズの代表、松島正昭氏は古くから武豊騎手とは友人関係にあったという。

    馬主になって早々に武豊騎手の代表騎乗馬であるディープインパクトの産駒を高額で購入して話題にもなったが、彼の夢はズバリ「武豊を乗せて凱旋門賞を制すること」。

    そんな壮大な夢の実現に向け、松島氏はこれまで自身の所有馬はほとんど武豊に優先的に騎乗させてきた。

    それだけでなく、海外から競走馬を購入しては、ジャパンCなどの国際レースで走る際には武豊騎手を鞍上に迎えるほど。親交のある馬主による手厚すぎるバックアップに対し、武豊も意気に感じていたことだろう。

    松島氏と武豊騎手のコンビから生まれた初めてのGIホースがドウデュースだった。

    デビュー戦からあれよあれよという間に2連勝を果たすと、迎えた3戦目は2歳王者決定戦の朝日杯FS。

    武豊騎手が長年にわたり勝ったことがないという鬼門と言われていたレースだったが、ドウデュースは自慢の末脚を発揮し、難なく勝利。松島氏に初のGIタイトルをプレゼントしたばかりか、長年勝てないでいた武豊にも念願のタイトルを与えた。

    そんな馬だからか、管理する友道康夫調教師も「古馬のような風格がある」と評したようにドウデュースにはどこか3歳馬らしからぬ大人しさがあった。

    筆者もダービー当日、パドックで初めてドウデュースを見たが、うだるような暑さの中でも過度に入れ込む様子も、暑さでグッタリしているようなそぶりは一切見せないで、ただ1頭だけ凛として周回していた姿が印象に残った。

    久しぶりに大観衆の中で迎えたレース、大きな拍手に包まれながらのスタートとなったが、そこでハナに立ったのはデシエルト。

    関西のベテラン調教師・安田隆行の初めてのダービー挑戦となる同馬がペースを作るべく先頭に立つと、内にいたアスクビクターモア、ピースオブエイトが番手を固める展開に。

    1番人気に推されたダノンベルーガは皐月賞馬ジオグリフをマークするかのように中団に控え、2番人気のイクイノックスはシンガリから3頭目という極端な位置取りに。

    そんな中でドウデュースが取ったポジションはイクイノックスの1つ前のグループの後方。

    14~15番手というところだった。弥生賞も皐月賞も差し届かずに惜敗していたことを考えると、もう少し前にいた方がとも思えたが......結果的にこの位置取りが正解だったことはまもなく明らかになる。

    息つく暇もないほど淀もない流れになったことが影響したか、最初の1000mの通過タイムは58秒9という過去10年で3番目に速い記録に。

    先行していた馬群が次第に崩れはじめ、反対に後ろに控えていた馬たちが徐々に押し上げていった。

    この流れに乗じてポジションを上げていったのがドウデュースとイクイノックス。800mを過ぎたあたりから徐々に進路を外に取り始め、末脚に賭けるレース運びに持ち込みだした。

    そして、最後の直線に入った。

    粘るデシエルトを交わして先頭に立ったのはアスクビクターモア。皐月賞5着からのリベンジを狙い番手からソツのないレースを展開していたが、あのハイペースが影響してか、残り200mを過ぎたところでは脚がいっぱいに。

    この時にやってきたのが皐月賞馬ジオグリフたち。

    一気にアスクビクターモアを飲み込む勢いに見えたが......その外に目をやると、もっと強烈な風を感じた。

    その風の正体は、武豊騎手とドウデュースだった。

    武豊騎手の左鞭に応えるかのように一完歩ずつ脚を伸ばしたドウデュースはレース後の武豊騎手曰く「痺れるような手応え」でアスクビクターモアを交わして先頭に立つと、今度は後続を離すように疾走。

    その外からイクイノックスが猛追するも、今度は右鞭に替えたことでドウデュースはもう一伸びしてみせた。

    イクイノックスも負けじと食い下がるも、ドウデュースにクビ差まで迫ったところがゴール。第89代ダービー馬の称号はドウデュースの頭上に輝いた。

    これぞ「レジェンドの騎乗」とも言うべき会心のレースにより日本競馬史上最多となるダービー6勝目を挙げた武豊騎手。

    久々のダービー制覇を成し遂げたパートナーが親交の深い松島氏の所有馬であり自身に朝日杯FSをプレゼントしてくれたドウデュース......「感無量です」と開口一番にインタビューでそう語ったのも納得である。

    この後のドウデュースは皐月賞直前の頃から登録していた凱旋門賞への出走を目標にしていくという。

    馬主である松島氏が掲げた壮大な夢は、今や日本競馬全体の夢とも言える。誰よりも強い絆で結ばれた新しいヒーロー・ドウデュースのこれからが楽しみだ。


    ■文/福嶌弘