【宝塚記念】刮目せよ。これが世界一の走りだ
2023.6.27
2023 宝塚記念(GI)イクイノックスが優勝 写真:山根英一/アフロ
これが世界一の走りなのか――今年の宝塚記念の直線、外から伸びてきたイクイノックスの姿にただただ見とれてしまったという方も多かったのではないだろうか?
イクイノックスの末脚が切れることはわかっている。大逃げを見せたパンサラッサをただ1頭追い詰め、差し切った天皇賞(秋)で異次元の切れ味を見せたのだから。
イクイノックスが長くいい脚を使えることも知っている。有馬記念では中団で脚を溜めて3コーナーから動き、逃げたタイトルホルダーを直線入り口で捕まえて先頭に立ち、後続からの追撃を力でねじ伏せ押し切ったのだから。
そしてイクイノックスは逃げても勝てるところも我々は見ている。
初の海外遠征となったドバイシーマクラシックは好スタートを決めたことで図らずして逃げる形になったが、直線に入っても持ったままで世界の強豪馬たちに影すら踏ませない圧勝を飾ったのだから。
逃げても差しても、どんなレースをしても圧倒的な力を見せるかのように勝ってきたイクイノックス。
ドバイシーマクラシックの圧勝が決め手となってロンジンワールドベストホースランキングでは世界の強豪馬たちを退けて第1位にランクイン。文字通りの世界最強馬として、仁川のターフに舞い降りた。
今や日本最強どころか、世界最強となったイクイノックス。その王者たるゆえんはパドックで現れていたように思う。
梅雨真っ只中だが、この日の阪神競馬場は快晴。暑いくらいの気候ではあったが、イクイノックスは大観衆が集まるパドックを堂々と周回。
前を歩くボッケリーニをあわや追い越してしまうのではというくらいに元気な姿をファンの前に見せてくれた。
馬体重は昨年暮れの有馬記念の時と全く同じだが、漆黒の馬体はどこかしなやかさを感じさせ、まるで彫刻のよう。「サラブレッドは走る芸術品」とも呼ばれるが、それを体現するかのような姿にうっとりと見とれてしまった。
今年の宝塚記念はGⅠ馬が多数エントリーし、グランプリレースにふさわしいメンバーが揃っていたが、それでもイクイノックスは別格と言わんばかりの美しさ。
王者として、世界最強馬としての風格を備えた彼にはかなう馬はいないのでは?と思わせた。
そんな予感はゲートが開いた瞬間、現実のものとなった。
内枠を利して先頭に立とうとしたカラテを外から交わしに行ったユニコーンライオンがハナを奪うという具合に先行争いが激しくなる中で、イクイノックスはスタートから200mを過ぎたところで中団からやや後方に。
スタンド前を通過し、1コーナーを過ぎるころには17頭中16番手という位置にまで下がっていった。
最後方に近い位置でのレースは昨秋の天皇賞(秋)とほぼ同じだが、宝塚記念が行われる阪神競馬場の直線距離は352.7mと天皇賞(秋)の舞台である東京競馬場の直線525.9mよりもはるかに短い。しかも宝塚記念は内回りコースを使用するため、余計に差し馬には厳しくなる。
そうしたセオリーを考えれば考えるほど、イクイノックスの位置取りは不安にさせるものだっただろう。
過去10年の宝塚記念では1番人気馬が2勝に留まり、大敗した馬の中には単勝1倍台の馬も少なくない。何を隠そう、イクイノックスの父キタサンブラックも6年前、単勝1.4倍の圧倒的支持に応えられずに9着に大敗していたのだから。
2コーナーを過ぎてもイクイノックスは動かず、最後方から2番手という位置のまま。
前半1000mの通過タイムは58秒9とこの10年で3番目に速い記録となったが、この日の阪神競馬場は先行馬が残りやすいという馬場コンディションだけに先行した馬が残るか、早めにスパートを打った馬が押し切るのではないかと思われた。
それだけに、後方2番手にいるイクイノックスには厳しく映ったが......残り800mを過ぎたころ、そんな不安を吹き飛ばすかのようにイクイノックスが上がっていった。
それと同時に武豊を鞍上に迎えたジェラルディーナが先に仕掛け、イクイノックスをマークしていた天皇賞(春)の勝ち馬ジャスティンパレスも上がっていった。
内側にいたジャスティンパレスが同時に動いたためか、イクイノックスは4コーナーを回る際、外にはじかれるような形になった。
ただでさえ短い直線、外を回ることによるコースロスが命取りになるのは火を見るよりも明らか。それだけに筆者は「もしかしたら、届かないかもしれない......」と、不安に駆られた。
そうして迎えた最後の直線。
イクイノックスは世界一の脚を我々に見せてくれた。
先に抜け出しを図ったジェラルディーナが内で粘っていた先行馬たちを交わしにかかったが、その外からイクイノックスが伸びてきた。
ともにスパートを掛けていたはずのジャスティンパレスを置き去りにし、前を追いかけていたジェラルディーナを並ぶ間もなく差し切り残り100mを過ぎたところで先頭に立つ。
馬群の間を縫ってやってきた伏兵スルーセブンシーズの追撃をクビ差ねじ伏せる形でゴール。
GⅠばかりの4連勝でイクイノックスは春のグランプリを制してみせた。
「安心しました」と、レース後のインタビューでイクイノックス鞍上のクリストフ・ルメールはそう答えた。
スタートから序盤の位置取りは希望通りのポジショニングではなかったようだが、それでも冷静に走り、見る者をうならせる末脚を見せたイクイノックスを心の底から褒めたたえた。
「秋から彼とのコンビでまた大きなレースを勝ちたい」と、宣言してルメールはインタビューを終えたが、果たしてこのコンビが次に制するビッグタイトルはどのレースだろうか......
世界最強と謳われたその実力を満天下に示したイクイノックスの未来が光り輝いているのは間違いないだろう。
■文/福嶌弘