【電撃引退】藤田菜七子が残したもの ~あどけない表情に隠れた静かなる闘志~
2024.10.11
藤田菜七子 8月25日 3歳未勝利(新潟)ウヌボレヤサンでの勝利が最後となった(C)SANKEI
それはあまりに、突然の別れとなった。
10月11日、JRAの所属騎手である藤田菜七子は現役引退を発表。9年間の騎手生活にピリオドを打つことになった。
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JRAの女性騎手として史上最多となる通算166勝を挙げ、日本人の女性騎手として初めて重賞を制するなどの目覚ましい活躍を見せてきた彼女だが......
振り返れば、藤田菜七子は日本競馬界に新しい風を呼び込んでくれた存在だったと思う。
(C)SANKEI
競馬とは関係のない家で生まれ育った彼女は小学校6年生のときに騎手になることを夢見て、中学卒業後には競馬学校へ入学。
2016年にはJRAでは史上7人目、2013年以来3年ぶりとなる女性騎手の誕生に大きく沸き、川崎競馬場で迎えたデビュー戦には各種メディアがこぞって取り上げるという異例の事態となった。
4月10日には福島9レースでサニーデイズに騎乗してJRA初勝利を挙げた際は女性騎手として約12年ぶりの勝利となったことも話題となった。
藤田菜七子がJRA初勝利を挙げた3日後、筆者は船橋競馬場にいた。この日のメインレース、マリーンCに騎乗する彼女を見るために。
パドックで見た彼女は競馬学校を卒業して間もない18歳の少女そのもの。それがクリストフ・ルメールや戸崎圭太、岩田康誠といったトップジョッキーと一緒のレースに出ているのだから緊張するのも無理はないが......
降りしきる雨の中行われたレースでは顔を泥だらけにしながらも懸命に前を追いかけていた。まだあどけない10代の少女が見せた闘志は今でも筆者の記憶に残っている。
やがて藤田菜七子はローカル開催のレースを中心に騎乗数を増やし、存在感を増していった。
女性騎手ならではの当たりの柔らかさを生かした騎乗は確かにソフトだが、直線に入れば従来の女性騎手とは一線を画すほど、騎乗馬を力強く追って勝利をもぎ取るようになっていた。
デビュー2年目の2017年には得意としていた新潟芝1000m戦で行われた飛翼特別をベルモントラハイナで勝利し、女性騎手の年間最多勝記録を更新した上、初めてメインレースを制するという快挙も成し遂げた。
この年はさらに勝ち星を積み重ね、最終的には14勝を挙げた。
翌2018年、藤田菜七子は27勝を挙げて、JRA所属の女性騎手の通算勝利数で最多記録を更新しただけでなく、GI騎乗が可能となる通算30勝の壁を突破。
そうして迎えた2019年最初のGIレース、フェブラリーSでコパノキッキングに騎乗し、JRA所属の女性騎手として初めてGIの舞台に立った。
まだ肌寒い2月半ば、筆者は彼女のGI初騎乗を見るために東京競馬場に向かった。デビューしてまだ4年目の若手騎手がGIの舞台に立てばたいていは緊張するものだが......
パドックで見た彼女からは緊張した様子は感じられず、レースで勝利することはできなかったが、直線で猛然と追い込んできて見せ場たっぷりの5着。
直線での追いっぷりはとても女性騎手とは思えないほど力強いものだった。
この経験で自信を付けたのか、藤田菜七子はこの年、年間ではキャリアハイとなる43勝をマーク。
第3回新潟開催では9勝を挙げて女性騎手として初めて開催リーディングを獲得し、12月にはカペラSでフェブラリーSでもタッグを組んだコパノキッキングに騎乗して勝利。JRA所属の女性騎手として初めてのJRA平地重賞制覇を果たした。
この後、2021年には古川菜穂、永島まなみ、2022年に今村聖奈、2023年は河原田菜々、小林美駒、そして今年は大江原比呂......
と藤田菜七子に続けとばかりに毎年のように女性騎手がJRAでデビューするようになり、その中で藤田菜七子は女性騎手のパイオニアであり続けた。
そして、競馬場には以前とは比べ物にならないほど若い世代のファン、特に女性ファンが増えたように思う。
思えば5年前のフェブラリーSのパドックには藤田菜七子を一目見ようと集まったファンが大勢いたが、その多くは若い世代の女性たちだった。
年長の男性騎手たちに混ざり、奮闘している彼女の姿は競馬場にやってくる若い女性ファンに強烈なメッセージとなったことだろう。
突然の引退は本当に残念でならないが、166勝という勝ち星以上にもっと価値があるものを彼女は競馬界に残してくれたと、筆者はそう感じている。
だからこそ、騎手・藤田菜七子の活躍をいつまでも忘れずにいたい。女性騎手のパイオニアとして9年間、奮闘し続けた彼女の姿を。
■文/福嶌弘