ピョンピョン跳ねるのはお嬢様のガス抜き!? ジェンティルドンナ「最強牡馬をも撃破した強く華麗な三冠貴婦人」【もうひとつの最強馬伝説】
2026.5.23
オークスを制して2冠達成・ジェンティルドンナ(c)SANKEI
2012年のオークスを制覇したジェンティルドンナ。
桜花賞馬ながら乗り替わり、血統や走法からくる距離不安などが囁かれ、当日は3番人気に甘んじたものの、当時のレコードタイムを大幅に更新する圧巻のパフォーマンスで牝馬二冠に輝いた。秋には秋華賞も勝ち、牝馬三冠を達成。
引退するまでGⅠ7勝を挙げた名牝の現役時代について、石坂正厩舎で同馬を担当していた日迫真吾調教助手に聞いたお話を、選りすぐりの名馬36頭の素顔と強さの根源に迫った『もうひとつの最強馬伝説〜関係者だけが知る名馬の素顔』(マイクロマガジン社)から一部抜粋・編集してお届けする(文中敬称略)。
川田将雅騎手・ジェンティルドンナ(c)SANKEI
「お嬢って呼んでいたんだよ。だって、お嬢様だったから」
ジャパンCでオルフェーヴルとの大接戦を制して以降は「男勝りな」と枕詞が付くことも多かったジェンティルドンナについて、調教を担当した日迫真吾はそう振り返る。
「まぁ、僕の場合は牝馬のことをよくお嬢って呼ぶんだけどね」と付け加えたものの〝お嬢〟が何をしても怒ることなく、寄り添い続けた3年間だった。
日迫がジェンティルドンナのポテンシャルの高さを感じたのは、デビュー前。栗東トレーニングセンターで初めてウッドコースを1周半走らせたときだった。
それまでは全長1085メートルの坂路を上っていたが、その倍以上にあたる約2700メートルを走らせたところ、「息の乱れが他の馬とは全然違いました。心肺機能の高さでしょうね。胸囲が大きかったんですよ。だから、体重が470キロくらいなのに500キロ近い馬が使うサイズの腹帯を使っていました。やっぱり心臓と肺が大きいってことなんでしょうね」
競走馬として重要な内臓の大きさは身体のサイズにも表れていた。一方で、おてんばお嬢な一面も次第に見せ始めた。
「シンザン記念の後から音などに敏感になって、メンコを着けるようになりました。トレセンの中って砂場が多くて、車が通るとジャリって音がするのですが、そういうのにも反応していたんです。調教の帰りにはピョンピョン跳ねていて、人馬共に危ないと思い、厩舎に帰るときはそのまま攻め専(調教騎乗専門の調教助手)に乗ってもらって、僕は横について曳いて帰っていました」
通常、トレーニングセンター内では騎乗するか曳くかどちらかのみだが、その両方で対応するという、まさにお嬢様扱いだった。
初夏の日差しが照りつけるオークスでも、ジェンティルドンナの様子は変わらなかった。スタンド前発走のゲート裏で、テンション高く小走り気味になったりピョンピョン跳ねたりしながら輪乗りをしていた。
「僕に八つ当たりしているんだな」
日迫はそう感じながら、右肩にグイグイ身体を寄せてくるジェンティルドンナをたしなめた。ただ、興奮しすぎて手がつけられない状態ではなかった。
「見た目のアクションほどは馬にとって負担になっていなくて、ちょうどいい具合にガス抜きを自分でしていたんだと思います。ただ、そう感じるようになったのは後からで、最初の頃は『もったいないな、この子』と思っていましたが(笑)」
後のドバイでは現地のゲートボーイ相手にこの挙動を見せていないだけに、信頼する日迫相手だからこそだろう。ただ、ひとつだけ気になることはあった。
「身体を丸めるようにして歩くので、後ろ脚で自分の前脚を引っかけて落鉄しないかが心配でした。だから、引っかからないようにエクイロックスで蹄鉄を保護してもらっていました」
レース直前に落鉄してしまうと、打ち替えるのが困難な場合さえある。かつてイソノルーブルが裸足で桜花賞を走った例もある。
しかし、お嬢は落鉄することなく、無事にレースを迎えることができた。そうしてオークスは大外から豪快に差し切って勝利。牝馬二冠を達成した。
■ジェンティルドンナ プロフィール
生年月日:2009年2月20日
性別:牝馬
毛色:鹿毛
父:ディープインパクト
母:ドナブリーニ(母父:ベルトリーニ)
調教師:石坂正
馬主:サンデーレーシング
戦績:19戦10勝
主な勝ち鞍:桜花賞、オークス、秋華賞、ジャパンC(2回)、有馬記念、ドバイS
生産牧場:ノーザンファーム(安平)
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