10月30日の「卓球ジャパン!」では、この10月に木下グループ総監督に就任した、卓球男子日本代表前監督の倉嶋洋介氏をゲストに迎え、倉嶋氏の監督としての9年間を振り返った。題して「9年間お疲れ様でしたスペシャル」。
「自分の中ではもう20年ぐらいやってる感じがする」と語る倉嶋氏。それだけ濃密な9年間だった。その知られざる倉嶋ヒストリーが語られた。
小学4年生から本格的に卓球を始め、世界卓球にも出場し日本代表として活躍した倉嶋氏。まだ選手だった2007年に母校である明治大学のコーチ就任し指導者としての第一歩を踏み出した。その手腕を買われ、2010年に選手を引退すると同時にナショナルチームのジュニアのコーチとなった。
こうして指導者としてのキャリアを重ねた倉嶋氏は2012年ロンドン五輪の後に宮崎義仁氏の後を引き継いで男子監督に就任した。36歳の若き指揮官だった。
当時の日本男子をとりまく環境は倉嶋氏にある思いを抱かせたという。
ロンドン五輪から帰国後、空港で記者会見が行われたが、大勢の記者が集まっていたにもかかわらず男子に対する質問はなんとゼロ。ものの5分で終わった。その後に行われた女子の会見が歓声が上がるほど盛り上がったのとあまりにも対照的だった。
「絶対に次はメダルを獲ってやろうと思いました」(倉嶋氏)
卓球男子日本代表前監督の倉嶋洋介氏 BSテレ東 卓球ジャパン!
"倉嶋ジャパン"のターニングポイントとなった試合は3つあると倉嶋氏は語る。
まずは2013年世界卓球パリ大会の男子シングルス2回戦、松平健太vs馬琳(中国)の一戦。
当時松平は世界ランク58位で、対する馬琳は8位の格上。2008年北京五輪金メダリストでもある。松平はこの難敵をしゃがみ込みサービスとタイミングの速い攻めで左右に振り回し、見事撃破した。しゃがみ込みサービスは男子では珍しい技だ。
「初めてテレビで見たとき、なんじゃこれはと思いましたね」(MC武井壮)
倉嶋氏が印象に残っているのは第5ゲーム、3-3から2連取して5-3になったときに取ったタイムアウトだった。
「流れがこっちにあるのになぜタイムアウトを取ったんだと後で言われましたが、あのとき健太はレシーブに迷っていたんです。あのアイムアウトは健太も同じ考えでした」(倉嶋氏)
松平健太 BSテレ東 卓球ジャパン!
このとき倉嶋氏は、縦回転に対しては無理せずストップ、横回転は長く打って次のボールを逆方向にブロックするという方針を整理して松平に伝えた。松平はその作戦どおりのプレーで快勝。倉嶋氏の名采配だった。
小柄な日本選手が中国選手に勝つヒントが得られた重要な試合だったと倉嶋氏は語る。
2つめは、2015年世界卓球蘇州大会での男子ダブルス準々決勝、森薗政崇/大島祐哉vs張継科/許シン(中国)の一戦。
この大会の前、森薗は三部航平とのペアで全日本の男子ダブルスを2連覇していた。それを崩しての大島の起用であり倉嶋氏にとってはまさに賭け。
この試合では森薗が完全にゾーンに入ってチキータで先手を取り、大島が脚力とパワーで中国ペアをねじ伏せ、ついに最終ゲーム10-8とマッチポイントを握った。しかし中国ペアはここからが強かった。派手なプレーをせずにしっかりと入れてきて逆転を許してしまった。 
森薗政崇/大島祐哉 BSテレ東 卓球ジャパン!
「気合を入れて見たら結果が変わりそうな気がするんですけど」と武井。卓球ファンなら誰もが同じ気持ちになる場面だ。
とはいえここまで戦えたことは倉嶋氏にとって大きな自信となった。シングルスで急激に強くするのは難しいため、まずはダブルスで中国に勝つ自信をつけさせるという戦略の第一歩ともなった。
この2年後、森薗/大島は見事に日本48年ぶりの男子ダブルス銀メダルを獲得した。この試合があったからこその銀メダルだった。
最後は2017年世界卓球デュッセルドルフ大会(ドイツ)。日本の若きエース、張本智和が大爆発的した試合だ。
当時中学1年の張本は世界ランキング69位で、国内には張本より上の選手が何人もいた。しかし倉嶋氏は、将来性を考えて張本を抜擢。ここで経験を積ませておかなければ東京五輪に間に合わないという計算からだった。
「倉嶋さんの選考は結構、剛腕ですよね(笑)」(武井)
「任期の4年で変えようと思ったらやるしかないですから。誰からもダメだとは言われなかったので良かったなと思います」(倉嶋)
張本の活躍は倉嶋氏の予想を超えていた。1回戦を快勝し、2回戦で対戦したのはレジェンド水谷隼。前年のリオ五輪銅メダリストだが、恐れる物のない張本はなんとこれを撃破。勢いに乗って史上最年少の13歳でベスト8入りした。
張本智和と水谷隼 BSテレ東 卓球ジャパン!
「水谷が出てきたときの映像も重なって、忘れられない試合になりました。これで東京五輪は行けると確信を持てた試合でした」(倉嶋)
その確信が現実のものとなった東京五輪2020。男子団体で見事銅メダルを獲得し、混合ダブルスでは夢にまで見た中国を破っての金メダルを獲得した。
「優勝を決めたときは立ち上がれませんでした。最初は立ち上がったんですけどその後に腰が砕けてしまって座り込んでしまって(笑)」(倉嶋氏)
日本の卓球に全身全霊を捧げた男ならではの言葉だったと言えよう。
9年間、お疲れ様でした。そしてありがとう!
「卓球ジャパン!」 BSテレ東で毎週土曜夜10時放送
