
世界卓球2024団体戦 女子決勝で平野美宇アドバイスを送る伊藤美誠
選手のベンチワークがこれほど脚光を浴びたことがあるだろうか。
2月25日に幕を下ろした「世界卓球2024団体戦」(16~25日/韓国・釜山)。
常勝軍団中国の女子が6連覇、男子は実に11連覇という偉業を達成したこの大会で、中国に惜敗し5大会連続銀メダルだった女子日本代表チームのメンバー伊藤美誠(スターツ)が試合中、ベンチで選手たちにアドバイスする姿が話題となった。
今大会、日本の男子は準々決勝で中国に善戦したもののストレートで敗れてベスト8。女子は中国と決勝でフルマッチの大接戦を演じた。
勝利にはあと一歩届かなかったがマッチカウント2-1で日本がリードした場面もあり、悲願の打倒中国が見えかけた一戦だった。
今大会、なぜ伊藤のベンチワークがクローズアップされたのだろう。
例えば、前回の成都大会も渡辺武弘監督のもと伊藤、早田ひな(日本生命)、木原美悠(木下グループ)、長﨑美柚(木下グループ)、佐藤瞳(ミキハウス)が一丸となって、チームの支柱である伊藤と早田が木原、長﨑、佐藤の試合でベンチから積極的にアドバイスをし、伊藤と早田も互いにアドバイスを送り合っていた。
さらに伊藤は前任の馬場美香元監督体制の時から、馬場監督がアドバイスした後、自身の気づいたことを積極的に選手に伝えることが多かった。
それでも特段、彼女のベンチワークが話題になることはなかった。
今回、特殊だったのはこれまでチームの中心にいた伊藤がそこから外れたことだ。
過去の世界卓球団体戦での活躍や、2大会連続出場したオリンピックではリオで女子団体銅メダル、東京で混合ダブルス金、女子団体銀、女子シングルス銅と全ての色のメダルを手にしたスーパースター。その伊藤が初めてサブ的なポジションに回った。
そうした状況にあって、今大会での伊藤の「居場所」に注目が集まったと言えるだろう。
その伊藤に渡辺監督は大会開幕前の釜山の練習場で、「ベンチでいろいろアドバイスしてほしい。どんどん意見を言ってコーチみたいな役割をしてほしい」と伝えていた。
「伊藤選手は今回、自分はあまり出番がないだろうと感じていたと思います。そんな彼女に失礼かとも思いましたけど、長い間、世界のトップで卓球をやっていて過去の試合や選手に詳しく、戦術的なものに長けている。チームが勝つためにはそういう伊藤選手の知識と経験を生かさない手はないと思いました」
渡辺監督いわく、予選グループリーグの第2戦まで伊藤は遠慮気味に見えたそうだ。
しかし、徐々に伊藤らしさが出てきて、特に決勝の中国戦ではダブルスペアを組んできた盟友・早田と活発に意見を交わし、いかにして中国を攻略するかを練りに練っていたという。
26日午後、都内で開かれた代表選手団の帰国会見で早田は、「美誠の要求レベルが高すぎて(笑)。でもそれぐらいのレベルじゃないと中国には勝てない」と話した。
中国人選手と数多の激戦を繰り広げてきた伊藤の助言は実際、2番で東京五輪金メダルの陳夢(世界ランク3位)から8度目の挑戦にして初勝利をもぎ取る助けとなった。
伊藤は自身の担った役割をこう振り返る。
「今回は中国選手を過去一、追い詰めることができた。アドバイスに気合いが入って、監督やコーチの気持ちが分かる場面がすごくあった。私がアドバイスをして、選手が工夫をしながらプレーしてくれたり、試合に勝つと、本当にすごく嬉しくて。アドバイスと選手がどはまりした時は、『言って良かった。伝えて良かった』と思う部分がたくさんありました。今大会は私も勉強になったし、楽しい試合を最後まで見させてもらった」(決勝後メダル会見)
「今回、初めてコーチや監督の感覚になった。『あぁ、こういう感覚なんだな』って。最年長が同世代(同い年)でアドバイスしやすかったのもあったし、選手が安心できる空間を作りたかったので木原選手にはたくさん盛り上げてもらって、私は落ち着いてアドバイスをさせてもらいました」(帰国会見)
3番で世界ランク2位の王芸迪にストレート勝ちした平野美宇(木下グループ/世界ランク18位)、5番で陳夢から1ゲームを先制した張本美和(世界ランク16位)の活躍は言うまでもなく、ベンチから全力で応援し、「自分の意見を言うのはあまり得意じゃないと」言いながら、しばしばアドバイスも送った木原、スパーリングパートナーを務めた長﨑美柚(木下グループ)、井絢乃(中国電力ライシス)のサポート全てが日本女子代表チームの戦力となり、鉄壁の中国を追い詰めた。
そのことを証明してくれたのは奇しくも相手チームの陳夢である。
試合中、ほとんど表情を変えない中国人選手たちが決勝後、大粒の涙をこぼしたミックスゾーン。そこで死力を尽くした五輪メダリストはこう言った。
「今回の日本チームの実力はこの数年間で最強だった」
(文=高樹ミナ)

