
オクセンハウゼン・戸上隼輔
世界卓球2025ドーハ(5月17〜25日)が終わって3週間後。戸上隼輔(井村屋グループ)の姿はドイツ・フランクフルトにあった。
ドーハでは篠塚大登(愛知工業大学)とのペアで、日本に64年ぶりの男子ダブルス金メダルをもたらした。この快挙は活動拠点のドイツで着実に実力を伸ばしてきた戸上の進化の表れだ。
6月15日、欧州最高峰の卓球プロリーグ・ブンデスリーガ男子1部2024-2025シーズンのプレーオフ ファイナル。
戸上が在籍する名門クラブのTTFリープヘル・オクセンハウゼン(以下、オクセンハウゼン)はレギュラーシーズンを2位でフィニッシュし、ファイナルは過去33回の優勝を誇るレギュラーシーズン首位のボルシア・デュッセルドルフ(以下、デュッセルドルフ)と対戦。

戸上は3番のシングルスと5番のダブルスに出場し、フルマッチの大激戦で単複2点を挙げてオクセンハウゼンに6年ぶり5度目の優勝をもたらした。
会場に詰めかけた観衆は約5,000人。チケットは早々に完売。目の肥えたヨーロッパの卓球ファンの前で戸上は終始自信に満ちあふれていた。
ファンサービスや英語でのインタビューも慣れたもの。その堂々とした姿から、この一年で戸上がコミュニケーション能力を磨き、大きな課題だった言葉の壁も乗り越えつつあることが手に取るように分かる。
そして何より感じるのは、チームにおける戸上の存在感の大きさだ。

戸上は2022-2023シーズンにもオクセンハウゼンからブンデスリーガに初挑戦したが、当時はパリ五輪の代表選考との兼ね合いもありブンデスリーガでの出場機会は限られた。
だが、2度目の参戦となった今季2024-2025シーズンは大きく飛躍。
レギュラーシーズン18勝5敗(個人ランク4位)の成績を挙げて主力選手に成長した。チームメートや監督からの信頼も厚い。
実際、プレーオフ ファイナルでもマッチカウント1-1の局面で出番が回ってきた3番のシングルスで、パリ五輪団体銀メダルのシェルベリ(スウェーデン)をストレートで撃破。

意外にも2人はこれが初対戦で、「回り込みフォアハンドの一撃」と「多彩なサーブ」を警戒したという戸上は、特にシェルベリのアップダウンサーブなど回転が読みにくい独特なサーブに対し、自身のレシーブを重視した。
するとシェルベリのサーブ3球目や5球目にミスが出て、得意のラリーで主導権を握ることに成功。
「まさか3-0でアントン(シェルベリ)選手に勝てると思っていなかった。3番で勝って4番に(バトンを)渡せて良かった。自分の力を120パーセント出しきれた」
また、ゴジ(フランス)とペアを組んだ5番のダブルスも、ボル(ドイツ)とシェルベリという経験豊富な強敵をフルゲームで破りチームの優勝を決めた。

ボルにとって、この試合が約30年のプロ生活を締めくくるラストマッチだった。
1996年、わずか15歳でブンデスリーガにデビューしたボル。世界を魅了し続けたレジェンドの最後の対戦相手が23歳の日本人・戸上だったというのは不思議な巡り合わせである。
「もちろん3-1で(オクセンハウゼンの優勝が)決まれば良かったんですけど、自分に回って来いって思ってました。ティモ(ボル)と試合できる最後の機会だし、決勝という特別な舞台で、しかも5,000人の観客の目の前で試合できるって、限られた選手にしか与えられないチャンスなので」
こうした発言にも戸上の自信と運の強さがじみ出ている。

チームメートも戸上の活躍に太鼓判を押す。
1番でボルから先制点を奪ったカルデラノは、4番でチウ・ダンとのエース対決にストレートで敗れたが、「僕らのチームはダブルスに自信があったことが大きかった。それが勝利の鍵だった」と決勝点をもぎ取った戸上とゴジを称賛。
また就任1年目のボグダン・プグナ監督は「信じられないほど素晴らしいプレーを見せてくれた。最高の状態で集中力を発揮していた」と戸上を高く評価した。
普段は辛口の現地メディアも「この日、最も輝いたのはオクセンハウゼンの戸上隼輔だった」と若きブンデスリーガー戸上を絶賛した。

観客席では、翌週から始まるWTT欧州2連戦に同行するため現地入りしていた専任コーチの上田仁が戦況を見守っていた。
今年4月のブンデスリーガ・プレーオフ セミファイナルでデュッセルドルフと対戦。
その第2戦でシェルベリをゲームカウント3-1で破っていた上田コーチは、「ほぼ完璧だった。(戸上の)レシーブが良ければこういう展開になると思っていた。戸上のボールが速くてアントンはついていけてなかった」と試合を振り返る。
実はシェルベリとの初対戦に不安もあったという戸上は、「直近で上田さんが勝っているので、自分にも勝てるチャンスはあるとマインドをポジティブに切り替えることができた」と明かした。
オクセンハウゼンは2025-2026シーズンも戸上との契約を継続した。カルデラノとゴジが退団するため、来シーズンは戸上がエースに昇格しチームを牽引する。
戦力面で不安もあるが、今やオクセンハウゼンは戸上が安心して卓球に打ち込めるホームチームだ。
優勝カップを掲げ、国籍を超えたチームメートと戯れ合いながら記念写真に収まる姿が微笑ましくもあり誇らしい。
観客席にいつまでも響くニックネームの「シュンスィー」コールは地元サポーターから愛されている証。
異国の地で信頼を勝ち得た戸上隼輔に心からの敬意を贈りたい。

その戸上はWTT欧州2連戦を終えアメリカ・ラスベガスに降り立った。
7月3日に開幕した「WTT USスマッシュ」(〜13日)男子シングルス1回戦はパリ五輪銅メダルのF.ルブラン(フランス)と対戦。初戦から強敵が相手だが成長の成果を発揮してほしい
(文・写真=高樹ミナ)
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