
伊藤美誠 写真:アフロスポーツ
カットマンにめっぽう強い女子選手といえば、真っ先に思いつくのが伊藤美誠(スターツ/世界ランク8位)だろう。
守備型のカットマンは「カット主戦型」と呼ばれ、相手の打球に下回転をかけて粘り強く返球し、ミスを誘う。
そして、ここぞという時には一転、強打で攻撃に転じる。攻略の難しいプレースタイルだ。
日本には、世界ランク11位の橋本帆乃香(デンソーポラリス)や、同23位の佐藤瞳(日本ペイントグループ)といった実力派カットマンがいる。海外勢では、世界ランク18位のベテラン選手ハン・イン(ドイツ)が有名だ。
だが伊藤は、そんな難敵たちをことごとくねじ伏せてきた。
海外ツアーで橋本に7戦全勝、佐藤に10勝1敗、ハン・インに9勝1敗と圧倒的。まさに"カットマンキラー"と呼ぶに相応しい成績である。
その伊藤が全日本選手権の女子シングルス5回戦で思わぬ苦戦を強いられた。相手は高校3年生のカットマン、山室早矢(桜丘高校)。
インターハイ2位の実力を持つ選手だが、昨年3位の伊藤がここで敗れれば、まさかのベスト32で終わる。会場にどよめきが起こった。
第1、2ゲームを先取したのは山室。伊藤は回転量の少ないドライブボールや長いツッツキを早いタイミングで相手コートに送り、浮いたボールをスマッシュで仕留める必勝パターンに持ち込もうとした。
ところが、決定打になるはずのスマッシュがことごとくミスになる。
第3、4ゲームは何とか伊藤が取り返したが、第5ゲームは再び山室が奪い、第6ゲームも山室が11-10でマッチポイントを握った。
ここで伊藤のレシーブがネットイン。ラッキーを味方につけた伊藤が逆転し、勝負は最終ゲームにもつれ込んだ。
会場中が固唾をのんで見守る中、山室のボールに慣れてきた伊藤が底力を発揮。薄氷の勝利でピンチを免れた。
伊藤によれば、山室が使っているラバーは中国製の「Hammer(ハマー)」。百戦錬磨の伊藤ですら「一度しか見たことがない」と目を丸くする。
その一度とは昨年12月、中国・成都で開催された混合団体ワールドカップの第1ステージ。伊藤が対戦したインドのバトラが使っていたのもHammerだったという。
ちなみにバトラは粒高ラバーで、山室は表ソフトラバー。
「山室選手のボールは、もう全部ナックル(無回転)で、スマッシュのタイミングが全然合わなかった。別メーカーの粒高を使っている橋本選手や佐藤選手のボールとは全く違います」
実はこのHammer、学生選手や用具好きにはわりと知られていて、価格も比較的安価。カットマンや変化を重視する愛好家にユーザーがいる。
プロの男子選手はどうかというと、ドイツ・ブンデスリーガで活躍し、全日本選手権にも出場していたカットマンの村松雄斗(霧島整形外科病院)は、「自分もラバー自体は見たことがありますけど、プロで使っている選手は見たことがありません」と話す。
用具がプレースタイルや技術レベルを左右する卓球。とりわけラバーの影響は大きく、時にはトップ選手をも翻弄する。
こうした用具の妙も卓球という競技の面白さであり、醍醐味なのだ。
(文=高樹ミナ)

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