坂本花織 初出場で優勝「4回転から意識を切り離せたからこそできた演技」町田樹が分析

その他

2020.12.22



【町田樹のNHK杯解説】

第2弾は、ショート・フリーとも鮮烈な演技でGPシリーズ初優勝を果たした、坂本花織選手について。
誰よりもご本人に聞いてもらいたい、絶賛の言葉がたくさん!

ー女子シングルは、坂本花織選手(20)が初出場で優勝したことについて

意外にもNHK杯が初出場なんですね!驚きましたが本当に素晴らしい演技でした。

坂本選手は去年スランプに陥っていて、試合でベストパフォーマンスが発揮できない苦しいシーズンを過ごしていました。

なぜかと言うと、本人も話していたんですが、ロシアやアメリカで女子でも4回転ジャンパーが出てきている中で、日本の選手はトリプルアクセル止まりでそこに肉薄できない。どんどんロシアやアメリカで台頭してきている4回転ジャンパーに押されてどうやって太刀打ちしていいかが分からなくなってしまった。そこで悩みながら演技している内に迷いが生じてしまい、上手くパフォーマンスができない。

じゃあ自分もトリプルアクセル・4回転ジャンプを手に入れなきゃということで、もちろん今も練習されているんでしょうが、そう簡単に手に入るような武器ではないんですね。そういう中で、自分はもう国際舞台でトップの座につくことができないかと悶々としていたらしいんです。

この大会からというか今シーズンから、坂本選手は自分のマインドを一度この"4回転戦争"みたいなところから離して、今自分が持っている技、あるいは振付師から伝授されたプログラムという作品をいかにパーフェクトで完全無欠なパッケージとしてお届けできるかというところにフォーカスを当てて頑張っている、と話していました。そのマインドチェンジによって、ベストパフォーマンスが生まれたんじゃないかなと思います。

フィギュアスケートはスポーツの側面もありますから、誰かが4回転を跳んだりしているとその人よりもより点数の高い4回転を跳ぼうとか、技術、技術、技術...となっていってしまう気持ちはよく分かるんですけれども、坂本選手はある種の悟りを開いて、「今持っている技とプログラムを一番良い形でお届けする」、それだけ。それだけで自分はどこまで勝負できるのかと、シンプルにちゃんと一番大事な本質を掴まえて、演技したことによる強さだったと思うんですね。

だから今の坂本選手は非常に良いマインドを持っているし、ショート・フリー共にとても良いプログラムだと思うんですけれども、今後も常にベストパフォーマンスを展開していけるんじゃないかなという期待をさせてくれるようなパフォーマンスでした。

もう一つ、坂本選手の勝因は、常に振付師がプログラムをブラッシュアップし続けているというところです。

例えば、フリーの「マトリックス」はもう2シーズン目ですかね。別に新しいプログラムではないのだけれども、一回一回の試合の反省点を踏まえて、毎回どこか磨かれているんですよね。

マトリックス.jpg
写真:日刊スポーツ/アフロ

坂本選手はショートもフリーもブノワ・リショーさんというフランスの振付師さんに作ってもらっているんですが、リショーさんが毎試合毎試合、坂本選手の演技を丁寧に分析して「ここを磨いたらもっと良くなる」ということを常に実践している。そのあくなき探究心というか作品を磨き続ける姿勢というものが、振付師であるリショーさんにも坂本選手にもあったからこそ、この演技に繋がったんではないかなと私は分析しています。

ー坂本花織選手の強みとは?

とにかく坂本選手のストロングポイントというのは、"推進力抜群のスケーティング"です。

恐らく一般の視聴者の方々もお気付きになられたかと思いますが、やはり他の選手とは一線を画するスケーティングの推進力を持っている。ジャンプを跳ぶ前も、普通は構えた時にスピードがダウンするんですが、坂本選手は推進力のあるスケーティングのままジャンプの動作に入って跳んで、進入速度のまま着氷します。

普通はジャンプを跳んだら、エッジが引っかかってスケーティングが止まってしまったり減速してしまったりということがあるんですが、坂本選手は進入速度と着氷した後の速度がほぼ変わりません。だからこそ、ジャンプのGOE(出来栄え点)を大量に獲得していけるんだと思います。

MTエッジが引っかかる.jpg

今のルールだと、難しいジャンプを跳ぶことももちろん大事なのですが、GOEを細かく稼いでいくとちりも積もれば山となるではないですが、最終的に強い。アドバンテージになります。GOEは一個一個はちりなのかもしれないですが、それを丁寧に集めていって山にするという力が今の坂本選手にはあるのだと思います。

ー日本の選手達はコロナ禍の時間を利用して、成長しているように感じましたが?

今シーズン国際舞台は少なかったですが各国の国内競技会は割とあって、それを映像配信などで見る機会がありロシア、アメリカなど複数の外国の国内試合と、今回のNHK杯を見た中で感じたことは、誰一人としてコロナの影響を感じないのですよ。

かなりの期間練習できなかったはずです。そして今もなお大変な状況にある中で、練習には多くの制限があると思うんですね。それでも一人も影響を感じない演技をしていて、ジャンプも成長しているし基礎体力的なところも維持、発展されているし、力強い演技ができていてすごいなと思ったんですよね。

選手達は皆さん色々な制限がある中で、いつも以上に頭を使いながら練習をしていて、多分スケーターとか全てのアスリートが新練習様式みたいなものをこの半年間で確立したんだなということが分かるような演技をしていたんですね。だから今のアスリート達は本当に大したものですよ。私が競技者だったらそこまでできたかな、というくらい最大限に頑張っていて、尚且つ素晴らしい演技を発揮しているということを、ぜひ多くの視聴者の方々に知っていただきたいです。

<動画>【町田樹のNHK杯解説】坂本花織 自己ベスト大幅更新で優勝「ある種の悟りを開いた」

例年そうですが、コロナ禍だろうとどんな状況であろうと世界は強いです。そして、今は直接集まってその場でしのぎを削るような試合ができない。一方で映像配信とかではリアルタイムで各国の国内競技会が見られるというインフラが整いつつあります。

そのような状況下で大事なことは二つあると思っています。

これ当たり前なんですけれども、一つはやはりスポーツですから、相手をちゃんと見て相手のパフォーマンスに対して自分のどこが強みなのか、どこが足りないのかを分析し、自分がどう戦っていくのかイメージや戦略を考えて、コロナ禍が明け試合ができる状況になった時にすぐに臨戦態勢に入れるような準備をしておくということが大事です。だから常に情報を集めて海外選手の動向を追っておく。

今は直接なかなか会えない時代だから、いつの間にか伸びているとかあるわけですよ。半年間見ない間に異次元の進化を遂げているみたいなことはあるわけで、情報がないと予想以上に成長している選手に対して焦ってしまって自分のパフォーマンスができないというのはもったいないですから。上手く相手の状況を見極めて、その中で自分がどう立ち回れるのかを意識して練習することが大事です。

あとその一方で、相手だけ見ていてもしょうがないのですよ。今回の坂本選手が証明したように、視野を外だけでなく内に内に返していって、自分にとってのベストパフォーマンスって何だろう、自分の表現したいものって何だろう、自分が作り上げたい作品って何だろう、とプログラムに意識を向けていくということも大事です。

作ってもらったプロ.jpg
写真:松尾/アフロスポーツ

その二つの視点をバランス良く持ちながら、競技生活をやっていくことが非常に大事です。これはもちろんコロナ禍じゃなくても言えることなんですけれど、コロナ禍だと特にそれが必要なのかもしれません。