町田樹が語る「継承プロジェクト」の意義とは?【町⽥樹×田中刑事「継承プロジェクト」インタビュー 第1回】

その他

2021.5.20

0G1A9713_圧縮データサンプル用.jpg
PHOTO:高橋学

 元フィギュアスケーターで、現在は国学院大学で助教を務める町⽥樹。町田はこれまで制作者集団Atelier t.e.r.m(アトリエターム)とともに、フィギュアスケートのさらなる発展を目指し、革新的な取り組みをしてきた。そして今回、彼らが新たに手掛ける「継承プロジェクト」は、自身が過去に制作したプログラムを他のスケーターに継承していくというものだ。

 その第1弾として、町田は「Je te veux(ジュ・トゥ・ヴ)」('14年)を、現役スケータ―の⽥中刑事に継承した。果たして、「継承プロジェクト」が目指すものとは? フィギュアスケート界初の試みに挑む町田に話を聞いた。


――「継承プロジェクト」について教えてください。

フィギュアスケートのプログラムというのは、振付師が選手からの依頼を受けて制作する、いわばオーダーメイド形式の創作物です。

フィギュアスケートの長い歴史の中で、これまでに数々の傑作プロジェクトが生まれてきましたが、そうした傑作も選手の引退と同時に世に出ることはなくなってしまいます。

それは、あまりにももったいないことです。優れた作品は次世代に継承していくべきだと考え、この『継承プロジェクト』を立ち上げました。


――過去に同一のプログラムを複数のスケーターが滑った事例もありますが、「継承プロジェクト」との違いは何でしょうか?

そういったケースはあります。例えば、'12-'13シーズンにデビッド・ウィルソンさんが西野友毬選手のために振り付けた『黄昏のワルツ』を、'20-'21シーズンに川畑和愛選手が滑っています。

しかし、『継承プロジェクト』がそれらと根本的に違うのは、このプロジェクトが著作権制度を基盤にしたもので、〝振付師が作品の上演権を許諾し、再演する〟ものだということです。

作品の公共化とでも言いましょうか、リンクメートや師弟関係などの内輪だけではなく、社会システムの1つとして、〝その作品を演じてみたいと思った人が、滑ることができる〟ことを目指しています。

私の場合は〝継承するスケーターに作品を上演する能力があるか〟という最高難度の審査基準を設けていますが(笑)、音楽界におけるJASRAC(日本音楽著作権協会)のように〝使用料を払えば誰でも使用していい〟というプログラムがあってもいいと考えています。

aflo_24725361.jpg
プリンスアイスワールド 2014 町田樹 Je te veux


――今回、田中選手へ『Je te veux』を継承することになったのはなぜですか?

私が初期に制作した『白夜行』や『Je te veux』は、4 〜5分くらいのプログラムです。これらは、フィギュアスケートの競技プログラムと同じくらいの尺ですので、比較的滑りやすいと考えました。そして『Je te veux』は、クラシックバレエの基本が身体に入っていれば的確に踊ることができます。

では、『Je te veux』を誰に継承するのか。この作品は、私のイメージでは30代後半から40代前半のパリに暮らすある男の物語ですので、そのパリの男を体現してくれるスケーターは誰かと考えると、田中選手しか思いあたらなかったんですね。

彼は、スケーターとしてのプロポーションが整っていますし、スケーティングや表現面の能力もあります。そして、愛情込めて作ってきた作品ですので、能力だけではなく、アイスショーに情熱を注げる人、全幅の信頼をおける人にしか継承できないと思いました。

そこで田中選手に声をかけたところ、『ぜひ』と言っていただき、このコラボレーションが実現しました。


――今回のプロジェクトは、どのような行程で進行したのでしょうか?

田中選手からOKをいただき、'20年の4月初旬に合宿をしたのですが、緊急事態宣言が出たため、わずか2日で解散となってしまったんです。

しかし、それ以降も田中選手はバレエを学んだり、私の過去の演技映像を見たり、自分で練習を重ねてくれました。なので、今年の3月末に再び合宿に入った時には、すでにかなり成熟していました。

その合宿では、私の自宅で一緒に過ごしました。ただ、リンクを使える時間が限られていて、さらにコロナ禍で外のスタジオに行くこともなかなかできませんでしたので、残りの時間はバレエや日本舞踊、バラエティー番組などさまざまな分野の映像作品を一緒に鑑賞し、〝観て学ぶ〟という取り組みをしました。

あらゆる表現活動から学ぶことがあります。また、プロスケーターは、バレエや舞台などあらゆるアート&エンターテインメントのプロダクトをライバルとし、それらと真剣勝負していくマインドを持っていなければならないと思っていますので、そうしたプロとしての使命についても田中選手と共有しました。


――町田さんは「フィギュアスケートを文化に」という目標を掲げていますが、今回のプロジェクトもその一環なのでしょうか?

フィギュアスケートが文化として長く存続するためには、豊かな歴史を編まなければなりません。日本ではたくさんの選手が優秀な成績を収め、そういう意味では厚く豊かな歴史があります。

しかし、競技成績だけが歴史ではなく、例えば、〝1つのプログラムがどういった変遷をたどったのか〟〝アイスショーがどのように発展していったのか〟そういったものも歴史の1つになります。

現在はスター選手が求心力を持ってフィギュアスケートの文化を支えていますが、それだけではなく、作品やアイスショーのカンパニーが求心力を持つことができれば、門戸が広がり、フィギュアスケートという文化がさらに強固なものになると思います。

〝いろいろな人がさまざまな動機でフィギュアスケートを鑑賞するようになる〟、このプロジェクトによってその状況を作り出すことができればと思っています。

0G1A9744_圧縮データサンプル用.jpg
PHOTO:高橋学


【プリンスアイスワールド】

5月30日(日)午後2時 BSテレ東で放送

【継承プロジェクトドキュメンタリー】
SPORTSウォッチャーで放送決定!
テレビ東京 :5月22日(土)夜10時30分
BSテレ東:5月22日(土)深夜1時