継承する者と受け継ぐ者、それぞれの「Je te veux」【町⽥樹×田中刑事「継承プロジェクト」インタビュー 第2回】

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2021.5.22

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PHOTO:高橋学

町田樹と田中刑事による「継承プロジェクト」。そのお披露目の場となったのは、5月1日から神奈川・KOSÉ新横浜スケートセンターで開催された「プリンスアイスワールド2021-2022「Brand New Story Ⅱ」~Moving On !~」だった。5月2日、会場でショーを鑑賞した町田に、田中の演技を観た感想を聞いた。

町田樹が語る「継承プロジェクト」の意義とは?【町⽥樹×田中刑事「継承プロジェクト」インタビュー 第1回】


――実際に観客の前で披露された田中選手の「Je te veux」はいかがでしたか?

新しい作品を披露するということは、本当に大変なことです。田中選手も足が震えるほど緊張したことでしょう。その状況でも彼は心と身体をしっかりコントロールし、演技をまとめ上げたと感じました。もちろん、踊りの部分ではまだまだ磨ける部分がたくさんありますが、たしかに作品を自分のものにしていました。

また、初日の公演では、音に対して早く動いてしまっている印象がありましたが、今日の公演(5月2日夜公演)ではそこが修正され、しっかり音を聴きながら演技していましたね。ただ、そのためにジャンプが少し乱れてしまうという問題もありますので、ゴールまではもう少しですね。


――ご自身の「Je te veux」との違いはありましたか?

'14年の当時、私は今の田中さんよりも若かったこともあってもっと動きがシャープでした。対して田中選手の演技では、ジェントルな柔らかい男性像が表現されていると感じました。

田中選手は物事に真摯に取り組みますし、託されたものに責任を持って最後まで全うする男気あふれるスケーターですので、そんな彼に私の作品を継承していただき、今とても幸せを感じています。


――「継承プロジェクト」の手応えはいかがですか?

もちろんあります。テレビ東京さんのYouTubeコンテンツで『継承プロジェクト』のドキュメンタリーが配信されていますが、そちらも大きな反響がありました。

これまでは多くの人がスケーターに注目して演技を観ていたと思うのですが、この『継承プロジェクト』をきっかけに、作品にコミットして演技を観る人も増えていくのではないかという期待があります。

従来のスケーターにコミットする鑑賞法に加え、『この作品を、彼が、彼女が演じたら、どんな世界を見せてくれるのだろう』という作品を中心にした鑑賞スタイルも盛り上がってくるのではないでしょうか。このように、〝観客がこれまでとは異なる角度でフィギュアスケートを観ることができる〟そのことだけでも『継承プロジェクト』をやって良かったと思います。


――実際にプロジェクトを進めていく中で想定と違ったことはありましたか?

田中選手が優秀でしたので、想定したどおりに物事が進みました。まだまだ100点はあげられませんが、それでもショーの前半でここまで仕上げてきているということに最大限の評価を贈りたいです。

また、田中選手からも『まだまだ、満足していない』『作品をより高みへ持っていきたい』という言葉が聞けました。とても意欲的に取り組んでくれていますので、田中選手にとってもいい成長の場になったのではないかと推測しています。


――町田さんの時とはスカーフの色が違っていましたが、これは意図的なものなのでしょうか?

スカーフだけではなく、いろいろと変更されています。例えば、私の時はシングルのコートでしたが田中選手はダブルのコートですし、帽子やシャツのデザインも、実は細部が少し違っています。

これについては制作者集団・Atelier t.e.r.mと私で、田中選手の相貌にぴったり合うように作り直しました。衣装制作に当たってチャコットさんも何度も調整をしてくださっています。

ほかにも違いがあります。私の時は音楽が鳴ってから動き出していたのですが、田中選手の場合はマッチを擦る動作をきっかけに音楽がかかるように変更しました。

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田中刑事の「Je te veux」


――それはどういった意図からですか?

その方が、観客が作品に没入しやすいと考えました。また、モニターに〝田中刑事〟という名前が出ている時はまだ田中選手は幕の内側で、幕が開くと彼はパリの男性として観客の前に出てくる。

このように〝素〟を一切見せないという工夫もしています。自分の時は、プログラムを演じることだけで精一杯でしたが(苦笑)、今回は俯瞰で観ていて『こうした方がいいな』という発見が、私にとってもたくさんありました。人が作品を育て、作品が人を育てる、そういった互恵関係を築くことは、『継承プロジェクト』における大事なコンセプトの1つです。


――順調なスタートを切った「継承プロジェクト」ですが、第2弾の構想はありますか?

構想はたくさんありますが、今のところまだ具体的な計画はありません。『乞うご期待!』としか、今は言えないですね(笑)。ただ、この『継承プロジェクト』は事前に演目を発表するという形式をとっています。

これまでのアイスショーでは、出演者が決まっていても〝何の演目を滑るか〟は発表されないのが通例でした。でも、バレエやダンスの公演では事前に何を上演するのかが分かるのが普通なんです。なので、第2弾が決まりましたら、『どの演目を、いつ、どこで、誰が滑るのか』ということは、きちんと発表させていただきます。


――事前に告知することの利点は何でしょうか?

まず何よりも、選手・演者側にプレッシャーがかかるんです(笑)。演目があらかじめ分かっていると、観客はイメージを膨らませて(会場に)来ますので、その想像を超える演技をしなければなりません。

そういった意味で、このプロジェクトは演者泣かせですね。ただ、これによって演じている側には、しっかりと作品をお客様に届けようという責任感が生まれます。その責任感はプレッシャーになる一方で、人を成長させる起爆剤にもなると思います。


――今後、「継承プロジェクト」がどのようになっていってほしいですか?

まず、なぜ私がこのプロジェクトを実現できたかというと、私が自分自身で振り付けをしたプログラムだからです。フィギュアスケートのプログラムは振付師に著作権があります。なので、フィリップ・ミルズ先生に振り付けていただき、私が滑った『交響曲第9番』や『エデンの東』に関しては、私は誰かに継承する権利を持っていません。

『継承プロジェクト』は振付師が主導となるプロジェクトですので、これをきっかけに、世界中の振付師たちにこのような仕組みや考え方が普及していくことが願いです。


――町田さんにとって「プリンスアイスワールド」は大切なアイスショーだと思いますが、「継承プロジェクト」をこの舞台で実現できたことをどう感じますか?

ここ最近は、解説者としてTV放送の時だけ〝援護射撃〟をしていましたが、こうして『継承プロジェクト』を通じて、わずかですが公演そのものに再び関われるようになりました。本当に嬉しく思っています。

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PHOTO:高橋学


【プリンスアイスワールド】
5月30日(日)午後2時 BSテレ東で放送

【継承プロジェクトドキュメンタリー】
テレビ東京では、5月22日(土)夜10時30分から、「追跡!LIVE SPORTSウォッチャー」の中のコーナー「Humanウォッチャー」で、町田樹が自身の作品「Je te veux」を田中刑事に継承するまでを追ったドキュメンタリーを放送します。

■SPORTSウォッチャー
テレビ東京 :5月22日(土)夜10時30分
BSテレ東:5月22日(土)深夜1時