バスケットボール界の革命児・富樫勇樹 「カズになれ」167センチのスターが欲しかったもの

そこに秘められたドラマをあなたはまだ知らない
日本のバスケットボールを前進させ続ける革命児、富樫勇樹(27歳)。常識を超えた存在感が、そこにはある。
身長はリーグでもっとも低い167センチ。その体格で2メートル級の大男たちとなぜやり合えるのか。
Bリーグでは日本人選手初となる年俸1億円越えを果たし、日本代表でも中心選手。富樫のゲームメイクで八村塁や渡辺雄太が躍動するのだ。
45年ぶりの出場となる東京オリンピック。その快挙は富樫がいてこそだった。
ひとつだけ足りないもの
だが満ち足りた選手生活にはひとつだけ足りないものがある。リーグ優勝にどうしても届かず、ここ最近は二年連続決勝で涙を飲んだ。
あの悔しさ、あの屈辱を胸に三度目の決勝へ。
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この日、幕を開けたファイナルは宇都宮ブレックスとの戦い。最大3戦で、先に2勝したほうが年間チャンピオンとなる。富樫率いるジェッツは初戦をものにし、初優勝に王手をかけた。
富樫はコートの主役だった。
ポイントガードと呼ばれるポジションは、攻撃を組み立てラストパスを出す。チームの浮き沈みはポイントガードに掛かっていると言っていい。167センチという身長はBリーグの平均190センチに遠く及ばない。
それでいて富樫がやっていけるのは広い視野と判断力、正確なボールコントロールがあるからだ。
さらに富樫には他のポイントガードに比べて抜きに出た武器がある。それが「得点力」。
これには日本人初のNBA選手、ポイントガードの先輩でもある田臥勇太も舌を巻く。
「三浦知良、カズになれ」
富樫は新潟県の出身で、父はバスケの指導者だった。だから幼いころからバスケットボールとともに育った。その異質な力はベテラン指導者も感じていた。
中学で全国制覇を果たした富樫は、その人から人生の指針となる言葉を贈られる。
「三浦知良、カズになれ」
カズこと日本サッカー界のキング三浦知良は15歳で単身ブラジルに渡った。Jリーグの成功も、日本代表の今もそれがあって生まれた。
カズと同じ15歳、富樫はアメリカに渡る。バスケの名門校に留学し、言葉にも困る中、日本人でもやれるという道を切り拓いた。
その後、日本でプロデビューし21歳のとき再び渡米し、NBAにも挑戦した。
だが恵まれた競技人生には深く刻まれた屈辱がひとつある。二年連続、決勝で敗れたBリーグ。三度目の正直を狙う今年、勝てば優勝となるファイナル二戦目。
二度目の優勝を狙う宇都宮ブレックスは、初戦で敗れた反省をもとにゲームメイクを修正してきた。リバウンドに積極的にからみ千葉ジェッツの形にさせない。これで1勝1敗。
伝説として刻まれるであろう名勝負の舞台はこうして整った。
優勝を懸けた最終戦
迎えた最終戦。勝ったほうが優勝という決戦は5千人近い観客を集めた。
名勝負がスターを生むのか。スターがいるから名勝負が生まれるのか。手の内を知り尽くした両チーム。想像を超える接戦となった。
まずは開始わずか4分で富樫が2つ目のファウル。これがドラマの前半を演出することになるファウル5つで試合には出られなくなるため、一旦ベンチに。
第2クォーターを終え35対35。
迎えた第3クォーター、流れは宇都宮に傾きかける。するとここでジェッツはボールを奪われそのまま行けば決められていた場面。その流れを嫌った富樫はあえてファウルを犯し試合を止めた。これは司令塔として勝負どころを見極めての戦略的判断。
そのまま富樫は再びベンチに。この決断が仲間を導く。
攻撃力は宇都宮のほうが上だったかもしれない。しかし千葉は要所で粘りを見せ、相手を波に乗せない。なんと第3クォーターも同点のまま終えた。
勝ったほうが優勝する大一番、最終第4クォーター、残り7分19秒。3点を追う千葉ジェッツは富樫がコートに戻り空気を変える。
待ち望んだ瞬間
勝負の潮目。それを見極め、そこで全力を出せるのがスターなのかもしれない。
ここが勝負。仲間も呼応する。気がつけば得点は相手を上回り、逆にリード。待ち望むその瞬間が近づく。
第3クォーターまで同点という前代未聞の頂上決戦。勝負を分けたのは最後の7分だった。千葉ジェッツ、初優勝。
時代が大きく動く時、そこには必ずスターがいる。この日集まったおよそ5千人の観客は新たな伝説の目撃者になった。
伝説の勝負に輝き、伝説の勝負を輝かせた男。
富樫勇樹の次の使命は日本のバスケをもっとおもしろくすることだ。