【マイルCS】グランアレグリア 極上の切れ味で魅せた衝撃のラストラン

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2021.11.21

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2021マイルCS グランアレグリアが連覇 写真:東京スポーツ/アフロ

ラストダンスに酔いしれて~第38回マイルCS回顧

歴史に名を残す牝馬のラストランは、勝つか負けるかがはっきりしている。

アーモンドアイのように華々しく勝利を収めることもあれば、ウオッカのように異国でまさかの大敗を喫し、突然ターフを去ることもある。

牡馬と比べるとピークが短いとされる牝馬ゆえに、引退レースはセンシティブに扱わなければならないというのが競馬の格言ともされた。

今年のマイルCSはそんな稀代の名牝、グランアレグリアのラストランとして大きな注目を集めていた。ここまでGI5勝、史上初となる古馬芝マイルGI全制覇という大記録を打ち立てたマイルの女王が史上6頭目の連覇が懸かるこの舞台を最後にターフから去る......

競馬ファンが大いに注目する一戦となり、その注目度は例年以上のものとなった。

だが、レースの日が近づけば近づくほど、中2週という間隔が詰まったローテーションへの不安に夏に行った喉の手術の後遺症など、グランアレグリアに対する不安要素が口々に語られるようになった。

思えば5歳になったグランアレグリアの今年の成績は4戦1勝。距離の壁を超えるために挑んだ2000mのGI2戦で敗れるのは仕方がないにしても、連覇が懸かった安田記念はダノンキングリーに届かずの2着に終わるなど、昨年よりもインパクトが薄れたのは事実。

それだけに先述の不安材料が囁かれ、新たな勢力に屈するのでは?という声も日に日に目立っていった。

そうして迎えたレース当日。グランアレグリアは単勝1.7倍という支持を得て1番人気に推された。一見、ダントツの支持を得たように映るが、春のマイルGI2戦よりも若干高かったように、ラストランの中にどこか一抹の不安を感じていた者がいたようにも思える。

そんな不安はレースに入ってからすぐに出た。スタートではカテドラルだけが出遅れたように見えたが、実は彼女もさほど出脚が良くなく、後方から4~5頭目という位置取りに。前走の天皇賞(秋)で軽快に先行した姿とは似ても似つかぬ走りを見て、不安に思ったファンも多かったことだろう。

最内枠を利して逃げたホウオウアマゾンが記録した前半3ハロンの時計はここ20年のマイルCSでも最も遅い35秒6。開催が進み、ただでさえ馬場が荒れ出した芝コースのコンディションを考えると、この位置では間に合わない。

ダノンキングリーの激走に屈した安田記念と同じようにあと一歩届かずに終わる――そんなシナリオを描いた者もいたことだろう。

だが、グランアレグリアも鞍上のクリストフ・ルメールも妙に冷静だった。スローな流れに慌てる様子は一切なく、むしろしっかりと折り合って今まで以上にスムーズに走っていた。

2000mのGIに挑戦したことが意外な形で生かされる形になったが、ルメールはレース後「後ろからになったけれど、後方から行く馬なので気にしなかった」と語ったように、この馬の末脚を信じて乗っていたことが伺える。

そして迎えた直線。外に持ち出していたグランアレグリアの前を遮るものは何もなかった。あとは思う存分走るだけ。ルメールが手綱をしごくと一歩、また一歩とスピードを上げていった。

残り200m。ここでルメールは初めて、グランアレグリアに右鞭を入れた。すると彼女はこの合図をキッカケに猛スパート。

前を行くインディチャンプをあっという間に捕らえて先頭に立つと、迫りくるシュネルマイスター、ダノンザキッドらの3歳馬たちを振り切りゴールへ。ちなみに上がり3ハロンの時計は自身のベスト記録とほぼ遜色がない32秒7。これ以上ないくらいまでに完璧なSwan Songが仁川のターフに轟いた。

グランアレグリアのラストランは史上6頭目となるマイルCSの2連覇を果たしただけでなく、自身のGI6勝目に獲得賞金10億円超えを達成。さらに来年2月で定年となる藤沢和雄に6度目のマイルCS制覇の勲章を与えるといった記録づくめの勝利となった。

「ラストランなので、本当のグランアレグリアの姿を見せたかった」とインタビューで答えたルメール。

距離の壁に挑んでは跳ね返された大阪杯、天皇賞(秋)での悔しさ、そしてまさかの2着に終わった安田記念の無念をすべて帳消しにするかのような走りに満足したのか、その表情はどこか穏やかに見えたが、「グランアレグリアは自身にとって、どんな馬だったか?」という質問に対し、真剣な顔でこう答えた。

「最初から特別な馬。2歳からトップレベルで毎回すごく良い競馬をしてくれた。ファンも多い馬で、これから寂しくなりますね」

思えば、ルメールはグランアレグリアのデビュー戦で手綱を取ったのをはじめ、全15戦中13戦で騎乗した。

天賦の才とも言えた圧倒的なスピードを武器にして走った3歳時、折り合いを学び爆発的な末脚を武器にタイトルを積み重ねた4歳時、そして走りに円熟味を増し、圧倒的な力でねじ伏せるようになった5歳と、すべての場面で彼がグランアレグリアの近くにいた。今回のマイルCSはまさに、これ以上ないくらいのラストダンスだった。

ちなみにラストダンスとはダンスパーティーで最後の曲が演奏された際、最愛のパートナーとペアを組んでダンスを踊ることを指す。そう考えれば、マイルCSでラストランを迎えるグランアレグリアが最愛のパートナー、ルメールとタッグを組んで最高のラストダンスを踊るのは必然だったと言えるだろう。


■文/福嶌弘