【ジャパンC】コントレイルV!府中のターフに描いた鮮やかすぎる飛行機雲 ~翼は永遠に~

その他

2021.11.29

aflo_175445325.jpg
第41回ジャパンカップ制したコントレイルと福永祐一騎手 写真:日刊スポーツ/アフロ

翼は永遠に~第41回ジャパンカップ回顧

 かつて、これほどまでに「負けられない引退レース」を走った馬はいただろうか。

 レース後に引退式を行うスターホースが増えた昨今、肝心のレースで負けたら格好がつかないものだが、コントレイルの場合はさらに三冠馬としての意地とプライドがそこに乗っかっていた。

 年明け緒戦の大阪杯は道悪馬場に脚を取られ、同級生の牝馬レイパパレの初戴冠を許し、休養明けで臨んだ天皇賞(秋)はベストな条件だったにもかかわらず、1つ下の皐月賞馬エフフォーリアを捕まえられずに2着。

【ジャパンC 全着順】三冠馬コントレイルが有終V!ディープの最高傑作へ GI・5勝目を挙げて引退

この秋で引退することが決まっているため、残されたチャンスは引退レースとなるジャパンCのみとなった。

この一戦で結果を出さなければ、古馬になってからも走った三冠馬としては史上初めて古馬GI制覇なしのまま現役を去るという不名誉な成績になってしまう。

いくら無敗で三冠を制したとはいえ、同級生にしか勝てなかったとなってしまったら三冠馬としての沽券に関わる。だからこそ、引退レースとなるジャパンCはなんとしてでも勝たなければならない――

コントレイル陣営は皆、そう思っていたことだろう。

 ところが、肝心のコントレイル。パドックを見ると外目を元気よく歩いているのはいいが、まるで元気が有り余っているかのような周回を披露し、時には首を振ってイレ込んでいるかのようなしぐさも見せた。

三冠が掛かった菊花賞、ラストランまであと2戦となった天皇賞(秋)の時のような悲壮感溢れる周回と比べると、どこか吹っ切れた?と言わんばかりのパドックだったように思う。

 しかし、これが本来のコントレイルの姿なのかもしれない。

というのも、引退式の時に語っていた関係者によると、幼少期はコントロールするのが大変だったほど気性の強い馬だったという。それがデビューから2年かけて、あれだけしっかり折り合いをつけて走れるようになり、ついには3000mの菊花賞すら克服できる馬に成長した。もしかするとパドックでのしぐさは、最後にちょっとだけおどけてみたということなのかも。

 菊花賞以降、どこか悲壮感を漂わせながら周回していた馬がいつになく堂々と周回している。この時点で今年のジャパンCの結果はもう見えていたのかもしれない。

戦前は史上初となるダービー馬4頭の競演ということで話題を集めたが、コントレイルを除く3頭のダービー馬でダービー以外のGIを勝っている馬はゼロ。それどころかコントレイル以外にGIを複数勝っている馬は外国馬のジャパンのみ。それも2年前のことで近走はGIで勝ちあぐねている。冷静に見ると、コントレイルが普通に走れば勝てないメンバーではなかったのだ。

だからだろう。ファンもまたコントレイルを支持した。単勝オッズ1.6倍の1番人気。ここまで3連敗したがけっぷちの馬とは思えないような圧倒的な支持を受け、コントレイルは最後のレースに臨んだ。

そのレースはというと、コントレイルは五分のスタートを切って中団から追走。菊花賞で死闘を演じたアリストテレスが先手を奪って作ったペースは1000mで1分2秒2というかなりスローなもの。

この流れに我慢できないとばかりに、それまで最後方を走っていたキセキが向こう正面過ぎから加速して一気に先頭を奪うと、そこから5ハロン連続で11秒台という締まった流れに。そして最後の直線では昨年同様、キセキが大きなリードを保ちながら先頭に立っていた。

この時、コントレイルの目には何が映っていただろうか。

前を行くキセキを捕まえに行くのも昨年と一緒なら、自分の位置取りもほぼ同じ。しかも自身より先にキセキを捕まえて先頭に立ったのは昨年のアーモンドアイと同じ勝負服、同じ騎手が騎乗したオーソリティという状況。

完全にデジャヴとも言える光景だが......

そこにいたのは1年前の彼ではない。4歳の秋を迎え、競走馬として成熟したコントレイルが自身の名前同様、まっすぐな軌道の飛行機雲を空に描くかのように飛んできた。

外から真一文字に伸びてきたコントレイルは残り200mの時点で前を行くオーソリティを捕らえて先頭に立つと、それを差そうと迫ってくる1つ下のダービー馬シャフリヤールを置き去りにするかのようにスピードを上げていく。

気が付けばその差はたった数秒の間にあっという間に広がり、気が付けば2着オーソリティに2馬身差をつけて堂々のゴール。「これが三冠馬の走りだ!」と言わんばかりで、圧倒的な実力を誇示するかのような走りに集まったファンは惜しみない拍手を送った。

 ゴール直後、コントレイルの鞍上・福永祐一は目を潤ませながら大観衆の拍手に応えていた。レース前からあったとてつもない重圧から解放されたことによる安堵の涙かと思いきや、その涙はコントレイルと過ごした幸せな時間を惜しむものだった。

「(コントレイルは)自分の騎手人生で最高の経験をさせてくれた。もうこんな馬に出会えないんじゃないかって言うくらいに」とインタビューで相棒へのねぎらいの言葉を惜しみなく続けた福永は目を潤ませながらこう続けた。

「これから数年後、今度はコントレイルの子供が競馬場に戻ってきます。僕自身も楽しみにしているし、また競馬の歴史を塗り替えるような子供を残してくれると思う」

......たとえ引退レースとなったジャパンCを終えても、コントレイルの物語はまだまだ終わらない。今はただ、その続きとなる4年後を楽しみに待っていたい。


■文/福嶌弘