【神騎乗4選】衝撃のレース連発!GIの大舞台で見せた”名手”というべき手綱さばき
競馬界には「馬7:騎手3」という格言がある。
レースの結果を左右するものとして馬の実力が7割、騎手の実力が3割と言われているが、時に騎手の腕が最大限に生かされて勝利、好走したといういわゆる"神騎乗"と呼ばれるレースも存在する。
そんな騎手のスゴ技をテレビ東京スポーツYouTubeチャンネル「競馬大好きママ のスナック美馬女 #3神騎乗」の動画内で数多く紹介されていたが、惜しくも動画内で紹介されなかった騎手たちの神騎乗レースをここでは紹介。
■内田博幸&ゴールドシップ(2012年 第72回皐月賞)
ゴールドシップ 写真:日刊スポーツ/アフロ
2012年の皐月賞でゴールドシップに騎乗した内田博幸。
皐月賞当日の中山競馬場は前日の不良から稍重に回復したとはいえ、馬場は水分を多く含んでいるというコンディション。
当然ながら内側の馬場が荒れていたのでほとんどの馬は内側を避けて、馬場の中央を通ることがほとんど。それはメインの皐月賞で騎乗したほとんどの騎手たちもそう考えていた。ところが、その荒れた馬場をあえて選んだのゴールドシップに騎乗していた内田博幸だった。
縦長の展開となったレースでゴールドシップは最後方に位置取り、残り800mを過ぎる時点でロングスパートを敢行。
1番人気に推されていたグランデッツァをはじめほとんどの馬が馬場の中央から外へ進路を取る中、内田博幸とゴールドシップはガラ空きとなった内側へ向かって突き進んでいった。
いくら馬場が良くても、中団から外を回った馬たちには距離ロスが生じたが、最短距離を走ったゴールドシップはその分、ポジションを上げることに成功。
3コーナーを過ぎた時点では17番手にいたゴールドシップを4コーナーから最後の直線に入るころには6番手にまで押し上げていた。
これで勢いづいたゴールドシップはそのまま直線でも豪快に伸びて、外から迫ってきたワールドエースに2馬身半差をつけて先頭でゴール。クラシック1冠目を見事にもぎ取った。
ちなみにこの時の内田博幸とゴールドシップの3コーナーから4コーナーまでの動きは後に「ゴルシワープ」と称され、今なお語り継がれている。
■武豊&キタサンブラック(2017年 第156回天皇賞・秋)
2017年の天皇賞秋をキタサンブラックが優勝 天皇賞春秋連覇 写真:中原義史/アフロ
馬主が歌手の北島三郎ということで話題になったキタサンブラック。
現役時代にはGIで7勝を記録した名馬だが、中でも自身6度目のGI制覇となった2017年の天皇賞(秋)は武豊の"神騎乗"として名高いレースでもある。
この日の東京競馬場はあいにくの雨模様。
朝から降りしきる雨によって馬場状態は当然ながら不良。後ろから動いてはまず届かないという状態になっていた。
その中で1番人気にキタサンブラックだったが、スタート直後にまさかの出遅れ。
スタートから先行して持ち前のスタミナを生かして粘りこむというレーススタイルの馬としては、勝利は絶望的な位置取りとなってしまった。
ところが鞍上の武豊はこの出遅れに焦ることなく、内から徐々にポジションを上げていくことを選択。
馬場が悪くとも最短距離を走れつつ競馬場の構造上、水はけが最もいい内ラチ沿いを走ることでキタサンブラックは3コーナーに入るころには5番手にまで押し上げていた。
勝負どころとなったこの場面、武豊はここでも馬場の悪い内側を走ることを選択。
ロスがないコーナリングが功を奏し、4コーナーを過ぎたころにはキタサンブラックは2番手にまで上昇。ここまでくると今度はキタサンブラックの武器であるスタミナが活きる展開に。
降りしきる雨をものともせずに直線で伸びたキタサンブラックは先頭に立つと、後から迫ってきたサトノクラウンをクビ差振り切ってゴール。GI 6勝目を飾るとともに天皇賞春秋連覇を達成した。
■C.スミヨン&ラッキーライラック(2019年 第44回エリザベス女王杯)
2019エリザベス女王杯 クリストフ・スミヨン騎手騎乗のラッキーライラックが優勝 写真:山根英一/アフロ
フランスの名手として名高いクリストフ・スミヨンの神騎乗。
世界トップクラスの腕を誇るトップジョッキーで日本にもしばしば短期免許で遠征にやってきてはファンを魅了する騎乗を見せているが、日本で見せた彼の神騎乗を挙げるとすれば、やはり2019年のエリザベス女王杯だろうか。
無敗で阪神JFを制し2歳女王に君臨したラッキーライラックだが、桜花賞以降は勝ち星を挙げることができず、このエリザベス女王杯まで7連敗。
春のヴィクトリアマイルでは1番人気に支持されるも4着に敗れるというまさにどん底の状態にいた。
そんな実力馬の復活を願って初コンビを組むことになったスミヨンはこのレースでラッキーライラックとともに絶好のスタートを切ると、すぐにインコースの中団に付けて、前を行く1つ下の世代のオークス馬ラヴズオンリーユー、秋華賞を制したばかりのクロノジェネシスらを見ながら脚を溜めた。
1000mの通過が1分2秒8というややスローな流れを追走しつつ、直線を迎えたラッキーライラックは最後の直線に入ってもインコースに張り付いたまま。
前を行くクロコスミアに外からラヴズオンリーユー、センテリュオらが猛追する中、内でジッとしていたラッキーライラックはスミヨンの鞭にすぐさま反応。
一途なまでにこだわってきた最内をまっすぐに駆け上がってきた。
馬群に揉まれ、進路を取れなくなる危険性を考えると、外に持ち出したくなる場面だったがスミヨンは最後まで最短距離を走れるインコースを選択。
これが功を奏したか、ラッキーライラックはきれいに馬群を捌いて抜け出し、残り100mのところで逃げるクロコスミアを捕えて先頭でゴール。
1年8ヵ月ぶりに勝利の美酒に酔いしれた。
ちなみにスミヨンのこの騎乗が利いたか、ラッキーライラックはこの後、引退までにGIタイトルを2つ積み重ね、GI4勝を記録してターフに別れを告げた。
もしあの時、スミヨンに出会っていなかったらその後の競走成績はどうなっていただろうか。
■福永祐一&ワグネリアン(2018年 第 85回日本ダービー)
2018年の日本ダービーをワグネリアンが優勝 福永祐一悲願のダービー制覇 写真:伊藤 康夫/アフロ
かつて「天才」と称された父・洋一と同じく、騎手の道を志した福永祐一。
父は1977年の皐月賞でハードバージに騎乗した際、曲芸師のようなスゴ技でインコースを捌いて勝利したという伝説を持つが、2018年のダービーで見せた福永の騎乗もまた、それに負けず劣らずのものだった。
皐月賞で1番人気に支持されながら7着に大敗したワグネリアンに騎乗した福永だったが、この日は先手が取りづらい8枠17番からのスタートに。
ところがゲートが開くと、福永はワグネリアンを4番手に付けて先行させるという意外なレース運びに。
道中の折り合いをキッチリとつけた状態で迎えた直線ではあらかじめ外に出していたことで前がふさがれるということもなく、反対にワグネリアンよりも内側にいた1番人気のダノンプレミアム、2番人気馬ブラストワンピースらの進路をふさぐ形で追い出しを開始。
これにより、外に持ち出してスパートをかけたいブラストワンピースはワグネリアンを先に行かせてから外に出すというロスが生じたためにスパートが遅れてしまう。
ダノンプレミアムに至ってはインコースから動くことができずラストスパートすらかけられないという不完全燃焼のレースに。
図らずして、福永の神騎乗に見事にハマった形になってしまった。
一方のワグネリアンは自身の進路をふさがれることなく、直線ではしっかりとスパートを打ち、最後は皐月賞馬エポカドーロを半馬身だけ振り切り勝利。
福永は19回目の挑戦でダービージョッキーの栄冠に輝いた。
父・洋一ですら勝てなかったダービーを制したことで何かが変わったのかこの年以降、福永はコントレイル、シャフリヤールでもダービーを勝利。
2022年は前人未到となるダービー3連覇への期待がかかっている。
......と、いずれ劣らぬ名手による神騎乗を4つ選んでみた。どれも2010年代のGIレースでのものなので記憶に残っているファンも多いだろう。これからも旗手たちの神騎乗が生まれる日を心待ちにしたい。
■文/福嶌弘