クロフネをダートの怪物にした馬!? “アグネスデジタル” 競馬界の歴史を変えうる世紀の大英断
2001香港カップをアグネスデジタルが勝利 写真:ロイター/アフロ
テレビ東京スポーツYouTubeチャンネルの配信限定競馬バラエティ「競馬大好きママのスナック美馬女 #6イチオシ前編」。
競馬好きのメンバーが当時のレース映像とともに当時の思い出を熱く振り返るという内容の第6回目前編。その中でカンニング竹山が推したのはクロフネの「衝撃レコード2連発」。
春のクラシックを終え、路線変更でダートの武蔵野S(GIII)に出走した際、初ダートにもかかわらず2着馬に9馬身差をつけて圧勝。
そして、続くジャパンCダート(GI)でも国内外の強豪相手に7馬身差をつけて楽勝。どちらもレコードタイムでの勝利で、競馬歴の長いカンニング竹山をして「ダートでここまで強かったのはあまりいなかった」と言わしめるほどだった。
動画内でも言及されていたが、実はクロフネは当初、秋の目標を芝の天皇賞(秋)に設定していたという。
しかし、秋天の直前になって当時2枠しかなかった外国産馬への出走権が賞金順で別の馬に移ることが判明し、やむなくダート路線へ舵を切ったという逸話がある。
クロフネから秋天の出走権を奪う形になってしまったのはアグネスデジタル。
言うなれば、クロフネをダートの怪物にする隠れたサポートをした馬だが...... いったいどんな馬だったのだろうか?
アグネスデジタルは父にクラフティプロスペクターを持つ、クロフネの1つ上の世代の外国産馬。
彼の世代までは外国産馬にクラシック出走権がなかったため、アグネスデジタルは2歳9月の阪神ダート1400mの新馬戦でデビュー。
2戦目で勝ち上がり、年末には川崎で行われる交流競走の全日本3歳優駿(GII)で重賞初制覇を飾るなど、ここまで6戦3勝。勝ち鞍はすべてダートでのもので、唯一の着外に終わったレースは芝で行われたもみじS(8着)と、パワーが魅力の父の産駒らしくダートで高い適性を見せていた。
当時の外国産馬らしく、3歳の春は「マル外ダービー」と称されたNHKマイルC(GI)を目標に調整を進められたが、アグネスデジタルはヒヤシンスS、クリスタルC、ニュージーランドTと3戦すべて3着。本番のNHKマイルCでは4番人気の支持を集めたものの、イーグルカフェの7着に完敗。
この後、名古屋競馬の交流重賞である名古屋優駿(GIII)を制して、大井で開催されたジャパンダートダービー(GI)に出走した。
これまでダートでは一度も馬券圏内を外していない無類の安定感を武器に1番人気の支持を受けたものの、初の2000mが堪えたのか、アグネスデジタルは直線で全く伸びずに14着に惨敗。
秋はダート路線を歩みユニコーンS1着、武蔵野S2着と一定の成績を収めていた。
アグネスデジタルに大きな注目が集まったのはマイルCS(GI)。
ここまで芝のレースは未勝利どころか2回しか経験がないというのを不安視され、18頭中13番人気という人気薄だったものの、直線では爆発的な末脚を見せて1番人気のダイタクリーヴァを交わして見事に勝利。芝初勝利がGIという大仕事を成し遂げたのだった。
これで本格的に芝路線へ転向するかと思われたが......
明け4歳となった2001年、アグネスデジタルの上半期の成績はすべて芝のレースに出走して3戦未勝利。
秋には再びダート路線へ舵を戻して日本テレビ盃(GII)、南部杯(GI)と地方競馬の交流重賞を立て続けに制した。
この時点でのアグネスデジタルの成績は20戦して8勝。
うち7勝はダートでのものだっただけに天皇賞・秋(GI)に出走はしないと思われていたが、南部杯を制したことで獲得賞金がクロフネを上回り、秋天への出走が可能になったため、アグネスデジタルは急遽参戦することになった。
アグネスデジタルによる秋天の電撃参戦は当時の競馬ファンからは賛否両論が噴出。
「(秋天出走予定だった)クロフネの邪魔をするな」とばかりに強い口調で非難する声もあったほどだったが、いざフタを開けてみたら、クロフネはダート初参戦となった武蔵野Sで先述したように驚異のハイパフォーマンスを見せて圧勝。秋天前日の府中に大きな衝撃が走った。
2001年のジャパンカップダートをクロフネが圧勝 写真:日刊スポーツ/アフロ
そしてアグネスデジタルはというと、急遽参戦することになった天皇賞(秋)でなんと、テイエムオペラオーを外から差し切って突き抜けるという大金星。
レース前の雑音を自らの走りで封じて見せた。
ちなみに秋天制覇後のアグネスデジタルはというと、返す刀で香港C(G1)を制するなど、2003年に引退するまでに国内外でGIを何と6勝をマーク。芝GI4勝、ダートGI2勝と馬場を問わないマルチな活躍を見せたのだった。
もし、アグネスデジタルが天皇賞・秋へ出走しなかったら、クロフネが出走して、当時無敵を誇ったテイエムオペラオーとの勝負が見られただろうが、一方でクロフネのダートでの強さはわからずじまいだったかもしれない。
クロフネを父に持つ現役馬のソダシが芝ダート問わない活躍をすることもなかったかもしれない。
クロフネの仔 白毛馬ソダシがヴィクトリアマイルで復活優勝 写真:日刊スポーツ/アフロ
また、アグネスデジタル自身、芝のレースに見切りをつけダートでしか走らなかったらGIタイトルを6つも獲得することもなかったかもしれない。
今思えば、アグネスデジタルの秋天出走は競馬界の歴史を変える可能性があった世紀の大英断だったと言えるだろう。
■文/福嶌弘