【日本ダービー みどころ】誰もが胸を焦がす “競馬最大の祭典”
2022皐月賞 ジオグリフが優勝 写真:日刊スポーツ/アフロ
ダービーは祭りだ。
生涯一度しか走れないクラシック、その中でもダービーはすべてのホースマンたちが夢見る特別なレース。
今年も7522頭の3歳馬の中から選ばれし18頭が出走し、東京競馬場のターフを駆け抜け、2分30秒後には世代を代表する1頭のヒーローが生まれる。
そんな特別なレースだからか、ダービーの日は朝から大いに盛り上がる。
そしてダービーを終えると......馬券の的中云々を問わず、それまでの熱狂や興奮から醒めてどこかホッとした気持ちになっている自分がいる。それはまるで祭りの後のような気持ちと言える。
特にここ2年、コロナ禍だったこともありダービー当日にファンが競馬場に入れなかっただけに、久しぶりに現地でダービーを楽しむ方も多いことだろう。
そんなファンにとってもダービーはやっぱり祭りと言える。人馬が織りなす2分30秒の祭典を今年も大いに楽しみ、盛り上がりたい。
さて、そんな今年のダービーだが、いつにも増して混戦模様を呈している。
今年に入ってからというもの3歳牡馬戦線の重賞は1番人気馬が[1・3・2・7]と不振を極めただけでなく、毎回のように勝ち馬が入れ替わる。
3歳になってから重賞を複数回勝った馬はアーリントンC、NHKマイルCを連勝したダノンスコーピオンしかいないという有様だった。
だからと言って、決して弱い世代ではないのは過去2年よりも断然速い時計で決着した皐月賞のレース振りを見れば明らか。
毎回のように重賞勝ち馬が入れ替わり、1番人気がアテにならないのは言い替えると、それだけ各馬の能力が拮抗しているということ。
つまり、今年のダービーは近年でも稀に見るハイレベルな決着が期待できると言えるだろう。それだけに今年のダービーは盛り上がることは間違いない。
そんなダービーの主役の座に就くことになりそうなのが、皐月賞2着のイクイノックスだ。
父はGI7勝を挙げた名馬・キタサンブラック。
GI勝利後には馬主の北島三郎氏による「まつり」の大合唱が定番となっていたが、その初年度産駒である彼はデビュー当時から大物候補と騒がれた大器。
後の2歳女王サークルオブライフとともに走ったデビュー戦では好位追走から直線で突き放すというレース運びを見せて2着馬に6馬身差をつける圧勝を見せた。
続く東京スポーツ2歳Sでは後方で脚を溜めて直線で差すという、デビュー戦とは異なるレースを見せながら上り3ハロン32秒9という驚異的な切れ味を見せて各馬をなで斬り重賞初制覇。父・キタサンブラックにも重賞タイトルをプレゼントして見せた。
圧倒的な強さを見せたイクイノックスが次に出走したのはなんと今年の春の皐月賞。特にアクシデントに見舞われたわけでもなく、狙いすましたローテーションということでクラシック第1冠目に挑戦した。
5ヵ月ぶりの実戦となるイクイノックスだったが、この日の馬体重はプラス10キロ。
フルゲートの大外枠からのスタートという決して恵まれた条件ではなかったが、早めにポジションを取りに行くと、4コーナーでは3番手に付け、直線では早めに先頭に立つというまさかの展開に。
仕掛けが早かった分、最後の最後でステイブルメイトのジオグリフに差し切られて2着に敗れたが、久々のレースとしては上々の結果を出して見せた。
叩き2戦目となるダービーならば体調面がさらに上向いてくるのは必至で、直線が長い分、自慢の末脚もフルに生かせることだろう。果たして父が掴めなかったダービーのタイトルを息子が掴むことができるだろうか。
今年のダービーには記録がかかっている男がいる。前人未到となるダービー3連覇という大記録を目指して挑むのがジオグリフと福永祐一だ。
ダートのスプリントGIを3勝したというドレフォンの初年度産駒としてデビューしたジオグリフだが、6月の東京開催で早々とデビューすると鋭い切れ味を見せて楽勝。
続く札幌2歳Sでも出遅れながらも3角でマクるという古馬顔負けのレースを見せて重賞初制覇。
その後2戦停滞し、共同通信杯2着から迎えた皐月賞では先に抜け出したイクイノックスを直線でねじ伏せるがごとく勝利。一気に世代の頂点に君臨した。
このレースが初タッグとなった福永祐一だったが、レース後のインタビューを見ると特に驚いた様子もなくむしろ「この馬の素質を考えれば当然」というくらいに落ち着いていたのが印象に残った。
もしかするとこの男にとって皐月賞はもはやただの通過点、最初からダービーが目標だったのかもしれない。コントレイル、シャフリヤールで祭りの主役を務めてきた男が、今年も祭りを取り仕切るのだろうか。
福永祐一が3度目のダービー制覇を目指すのならば、ドウデュースに乗る武豊は史上最多となるダービー6勝目を狙って参戦する。
ユタカにとってのダービーはかつて「天才ユタカでもなかなか勝てないレース」とされたが、スペシャルウィークで挑んだ10回目の挑戦で勝利すると、以降はアドマイヤベガ、タニノギムレット、ディープインパクト、そしてキズナと名馬とともに勝ち星を積み重ね、気が付けば史上最多の5勝をマークしていた。
今年のパートナーであるドウデュースはダービー同様にユタカが長らく勝てなかった朝日杯FSを勝利した馬。
差し届かなかった皐月賞でさえ上がり最速の時計を記録しての3着と内容は決して悪くない。2歳王者が府中の長い直線を味方に付けて逆襲に挑む。
......と、今年のダービーの有力馬は挙げればキリがないほど出てくる。果たして5月29日、大観衆が迎える中で祭りの主役となるのはどの馬だろうか。
■文/福嶌弘