「正直、柔道をしたくないと思う日もあった」葛藤していた重量級の女王・女子78㎏超級 素根輝が復活を遂げる日【柔道GS東京】

柔道

2022.12.3

素根輝 写真:築田純_アフロ.jpg
素根輝 写真:築田純_アフロ

「東京オリンピックは1年延期もあって、その間苦しい時間を過ごした。そこで目標だった金メダルを獲れたので、パリオリンピックに向けての覚悟がすぐには決まらなかったですね」

グランドスラム東京2022に向けての抱負を聞こうとすると、女子78㎏超級の大本命と言われているにもかかわらず素根輝(パーク24)は意外な言葉を口にした。

威勢のいい発言を期待していたが、素根は葛藤していた。それは東京オリンピックまでの涙と汗と努力が尋常でなかったことの証でもある。

「オリンピックに出るということはすごく覚悟がいること。苦しい思いをたくさん乗り越えないとその舞台には辿り着けない。そういう道程を自分が再び乗り越えることができるのかと不安がよぎりました」

さらに素根は「正直、柔道をしたくないと思う日もたくさんありました」と打ち明けた。

「自分となかなか向き合えないというか、そういう時間がたくさんあったので、本気でパリを目指すならどこかで気持ちを切り換えないといけないと思っていました」

もう一度モチベーションをあげるきっかけとなったのは、今年3月に行なったヒザの手術だった。「初めて手術しなければならないほどのケガをしてしまって┄。初めての手術で何もわからないので、また戻ってこれるのかという不安もありました」

手術から2カ月はリハビリに励んだ。素根は「手術した翌日には足が上がらないほど筋力が落ちていた」と振り返る。「歩くのにも時間がかかったので、『本当に大丈夫か?』と不安になりました」

そもそも素根は練習をたくさんすることで自信を深めるタイプ。練習すらできない時間を過ごすことは精神修行以外なにものでもなかった。

それでも、やれることはリハビリしかない。素根は腹を据えて回復するためのステップに打ち込んだ。結果的に柔道から離れる時間が長かったことが逆にプラスとなった。

「自分の階級で他の選手が勝っている姿を見て、なんか悔しいという気持ちが芽生えてきた。それでパリに向け、『もう一度頑張っていこう』という気持ちになりました。もしちゃんと(リハビリを)達成できたら、すごく自分が成長できる。また強くなったとまわりに思ってもらえるんじゃないかと思うことができた」

オリンピック金メダリストになったことで、素根は追う者から追われる者になった。今大会でも今年のグランドスラムハンガリーを制した冨田若春(コマツ)や講道館杯を制した秋場麻優(ALSOK)、児玉ひかる(東海大)がその背中を追いかける。

さらに東京オリンピックで7位のハン・ミジン(韓国)、さらには2021年世界ジュニア選手権優勝のハイメ・コラリー(フランス)らが″打倒・素根″を狙う。素根も今まで以上に苦しい闘いになることは十分承知している。

「勝ち続けるということは、まわりの選手にも研究されるということ。常に上にいるということは難しいけど、自分自身と向き合って乗り越えたい。この大会はパリに向け、すごく大事な大会になるので、自分と向き合って乗り越えたい」

精神的に一回り大きくなった姿を見せてくれるか。


(スポーツライター 布施鋼治)