【フェブラリーS】ペプチドナイル 自然体の走りで新ダート王を襲名

その他

2024.2.24

aflo_244355858.jpg
2024 フェブラリーS (G1) ペプチドナイルが優勝 写真:日刊スポーツ/アフロ

「気合いの入っている馬が多いな」――今年のフェブラリーSのパドックを見て、筆者は最初にそう感じた。

昨年のJRAダートGⅠを完全制覇したレモンポップやドバイWCを制したウシュバテソーロといった現役ダート馬のトップホースたちがいないためか、今年のフェブラリーSは戦前からどの馬にもチャンスがあると目されていた。

それだけに「勝ちたい!」という思いが強く出過ぎていた馬が普段より多いように思えた。パドックでどこかせわしなく周回する馬、返し馬で激しい発汗がある馬、大観衆を前にイレ込んでしまった馬などレース前から闘志を燃やし過ぎている馬が多く見られた。

そんな中、「みんな、どうしてそんなに気負っているの?」と言わんばかりにゆっくりと周回している馬がいた。パドックでも内側を歩き、返し馬でも特に目立った様子は見られないその馬こそ、ペプチドナイルだった。

ここまで19戦7勝。昨夏には大沼S、マリーンS、ベテルギウスSなどのオープンクラスのレースで3勝を挙げたものの、重賞はこれまでに3度走って勝つどころか、掲示板に入ったのも1度きり。

しかも東京ダート1600mを走るのもこれが初めてということも相まって16頭中11番人気という低評価。レースが始まるまで特に目立つ存在ではなかった。

そんなペプチドナイルには藤岡佑介という強い味方がいた。ここまでに3度騎乗して2勝を挙げているだけでなく、勝った2戦は上がり3ハロンでいずれも最速の時計を記録。

中でもマリーンSでは逃げたにもかかわらず上がり3ハロンは36秒1という速さ。「いい脚を長く使える」というこの馬の持ち味を熟知している男が鞍上にいるのだから、仕掛けどころにはなんの不安もない。

実際、レースもそうなった。戦前から逃げると予想されていたドンフランキーが外から好スタートを切って先手を取りに行くと、ややイレ込み気味だったウィルソンテソーロが2番手。

そのすぐ後ろにドゥラエレーデ、さらに内からスルスルとイグナイターが上昇。そのすぐ後ろに1番人気のオメガギネスが付けるという形で先団グループが形成されていった。

ドンフランキーが速いペースで逃げたため、前半3ハロンの時計は33秒9とここ10年で最も速い時計に。

しかも、逃げるドンフランキーを追いかけるウィルソンテソーロとドゥラエレーデら後続の2番手集団は固まってポジションを争ったため、数字以上に速い流れになっていた。

そんな激流と言っていい流れの中、ペプチドナイルはどこにいたかというと、なんとドゥラエレーデのすぐ後ろの4~5番手。

あまりに速いペースなのでこのまま追走すると直線で失速した前走の東海Sの二の舞になることも考えられる。それでも藤岡佑介とペプチドナイルはこの流れの中に併せた追走を見せた。

実はこれこそ、藤岡佑介が語る「いい脚を長く使える」ペプチドナイルの強みを生かすのにピッタリな流れ。

先行しても速い上がりでまとめられる馬だからこそ、前に付けてセーフティーリードを取る展開になれば、後続を振り切ってゴールできる――そう考えたからこそ、藤岡とペプチドナイルはポジションを下げることなく、このハイペースを追走したのだろう。

そして迎えた直線。彼らのこの判断が正解だったということを証明してみせた。

4コーナーを回って最後の直線に入った瞬間、先頭に立ったのは最内枠から抜け出してきたイグナイター。兵庫の夢、2年連続NARグランプリ年度代表馬の意地が彼を奮い立たせ、25年ぶりとなる地方馬の制覇へと前進していった。

そのイグナイターに襲い掛かるはずのドゥラエレーデ、ウィルソンテソーロは2番手に付けていたにもかかわらず伸びる様子がない。

すぐ後ろにいた1番人気のオメガギネスは進路を求めて外に出して追い出されたが、こちらも伸びるどころか沈む一方。前半の速いペースを追走したことが仇になってしまった。

そんな中でペプチドナイルはウィルソンテソーロを外から交わすように伸びてきた。ジワジワと伸びていく末脚は次第に前を行くイグナイターを残り300m付近で捕まえて先頭に立つと、あとはゴールに向けてひた走るばかり。

先行馬たちが作った速いペースにピタリとあわせるかのように、外から飛んで来たのは差し馬たち。

中でも先に動いたタガノビューティー、初ダートとは思えない末脚で飛んできたガイアフォース、そして武豊とともに後方でじっと我慢していたセキフウが抜け出したペプチドナイルに襲い掛かる。

だが、それでも先に抜け出したペプチドナイルの脚は止まらない。上がり3ハロン37秒5は掲示板に乗った馬の中では最も遅い時計だが、直線で後続に付けたセーフティーリードをそのまま守る形で粘りこんでそのままゴール。

ガイアフォースとセキフウ、タガノビューティーが熾烈な2着馬争いをする1馬身1/4ほど前でペプチドナイルは先頭でゴール。単勝11番人気馬のまさかの激走に東京競馬場はどよめきだった。

だが、その後スタンドから聞こえたのは「おめでとう」の声。馬と管理する武英智調教師にとっては初めて、そして藤岡佑介にとっては6年ぶりとなるGⅠ制覇だったからこそ、ファンは拍手と歓声で大波乱を演出した勝者を迎え入れたのだ。

気負わず、あくまで自然体で走ったことが、ペプチドナイルが大金星を掴む要因となったのは間違いない。レース後のインタビューでも藤岡佑介は「想定以上にいい位置が取れ、楽に先頭に立てた」と語ったようにこの馬に展開がハマったようにも感じられる。

だからこそ、次の大舞台でペプチドナイルと藤岡佑介のコンビをもう一度見たい。

この日いなかったレモンポップやウシュバテソーロらはもちろん、まだ見ぬ世界の強豪にどう立ち向かっていくのか......楽しみなコンビがまた、冬の府中に現れた。


■文/福嶌弘