今村聖奈騎手が語る「注目される存在としての苦悩」

今村聖奈 ©Masanori Miyahara
今春のオークスで、JRA所属の女性騎手として史上初のGI&クラシック制覇という偉業を達成した今村聖奈騎手(22)。
相棒のジュウリョクピエロは体調が整わず秋華賞回避を決めたが、無事であれば同馬とのコンビは、今秋のGI戦線を盛り上げてくれることだろう。
その今村聖奈騎手をはじめとして中央競馬の現役女性騎手6人の他、地方競馬の現役女性騎手や女性調教師など、総勢17人の女性ホースマンに競馬への情熱や仕事の流儀、思考法、メンタル術などを聞いたインタビュー集『馬とともに自分らしく 競馬を拓く女性たちの情熱と流儀』(マイクロマガジン社刊)が2026年10月19日に発売される。
今回はその中の今村聖奈騎手へのインタビューを一部抜粋してお届けする。
──中央競馬の騎手は現在、男性が120人を超え、女性が10人にも満たないという状況。まだまだ男性偏重の世界ともいえる中で、結果を出し続けることはたいへんなことかと思います。そもそもそういった世界に足を踏み入れようと思ったきっかけはなんだったんでしょうか?
【今村】騎手をやっていた父の影響ですね。小さいころからパパっ子で、競馬と触れ合う機会が多かったんです。物心がついたときから週末はずっと競馬中継が流れていましたし、母と一緒に父を応援に行ったりもしていて、競馬が身近な環境でした。
乗馬も自然と始めたんですが、最初は騎手というよりは調教助手を目指していました。そのころは父も騎手を引退して調教助手をしていたので、その影響を受けました。
──初めは騎手志望ではなかったんですね。心境の変化があったのはいつごろでしょうか。
【今村】小学校6年生の3月ですね。新しく栗東の乗馬苑に転任されてきた先生が、すごく親身になって私の将来について考えてくれました。その先生が「馬術の道でオリンピックを目指すのか、騎手の道で大レースを目指すのか、どちらか選びなさい」と言ってくれて。
馬術だと大学の推薦が必要だし、騎手だと体重管理が必要ですから、どちらも厳しい道だと思ったのですが、私は競馬がすごく好きだったので「騎手になりたいです」と答えました。
競馬関係の知り合いが多かったのもありますが、馬術関係の知り合いがいなかったことでイメージがつきにくかったという点はあるかもしれません。騎手の男女比とかも特に気にしていなかったですね。
──進路選びでは、知り合いの有無やご家庭の理解度は大きく影響しますよね。厳しい道と思いながら「競馬がすごく好きだった」というのが後押しになったとのこと。競馬が好きになったというのもご家庭の影響が大きそうですね。
【今村】小さいころは武豊さんを応援していたので、家にある競馬新聞を見ながら「今日は何勝くらいしそうかな」と考えたりしていました。あと、父が引退して飯田厩舎の調教助手になったころに、タイミングよく、厩舎に(オークスなどの大レースを制した) メイショウマンボというスターが登場してくれました。
父の現役終盤は、父が競馬に出ないかぎりはなかなか競馬を観なくなっていたのですが、職種の変更を機に父が東京競馬場に行ったりテレビに映ったりするようになったことが、改めて競馬に興味を持つきっかけになりました。
──乗馬の練習や、その後の競馬学校での騎乗訓練など、騎手を目指す方は当然ながら馬とのかかわり合いも多いかと思います。競馬がお好きだったとのことですが、馬そのものもお好きだったんでしょうか?
【今村】大好きですね。馬と接する時間がとても好きです。競馬学校のときから、騎乗以外だと馬の手入れをする時間がいちばん好きだと言っていたほどです。自分の中でのストレスの発散法なのか、リラックス効果があるのか、理由はわからないんですが馬と触れ合うと癒されますね。
馬って、すごく魅力的な存在なんです。表現が合っているかわかりませんが、1頭1頭、すごく人間味を感じるというか。それぞれ性格も違いますし、顔も違います。そんな個性あふれる馬たちと働くことにはやりがいを感じますね。
一時期はつらく感じることもあった競馬ですが、最近はまた「馬に乗るのも好きだな」って思えるようになりました。
──子どものころからずっと馬好きとして育ってきた今村さんでも、手放しで「馬に乗るのが好き」と思えない時期もあったということですね。
【今村】デビューしてからの5年間で、良い時期も悪い時期もありました。つらいな、と感じる時期が長かったというのも事実です。ただ、いまはそういったことを乗り越えて、楽しいと感じられるようになりました。それでもつらいことがあったときは、馬はとてもやさしい動物なので癒してもらっています。
──今村さんは2022年3月5日にデビューし、その翌週で早くも初勝利。さらに同年6月には、それまでの女性騎手最長記録を更新する7週連続勝利を達成されました。順風満帆な滑り出しだったかと思いますが、ご本人ならではの苦労もあったのでしょうか。
【今村】そうですね。騎手になると同時に、急に社会人1年目として世に放たれたわけで、目の前のことに必死でした。思っている以上にメディアの人も注目してくださったこともあって、いろいろな声もすごく聞こえるようになってきました。毎週、何週連続勝利とか、デビュー何勝目とか......。
それもあって『この馬で勝てなかったら記録が途切れてしまうかもしれない』といった余計なことをゲート裏で考えるようになってしまいました。すごく張り詰めていた時期でしたね。それでも競馬は毎週やってくるし、毎週違うコメントを出すのも難しく感じたり、メディアとのつき合い方にも悩んだ時期でした。
──当時はいまよりも女性騎手が珍しかったですからね。確かに、多くのメディアが今村さんを取り上げていました。
【今村】私が言ったつもりのないことも、見出しで大きく書かれたりしまして......。
実際の発言ではなくても紙面に大きく載ることに、焦りや驚きもありましたし、『この成績でこう言っていたら、絶対調子乗ってるって思われるじゃん』という恐怖や不安もありました。でもまだ1年目の新人ですし、『おかしいので、変えてください』とも言い出しにくくて......。
当時は知らない番号からいきなり電話が来て『取材させてくれ』と言われることも多く、怖いなと感じることもありました。いまはそういったことはなくなりましたが、3年目以降ですかね。自分らしい態度というか、適度な距離感でメディア対応ができるようになったと思います。
──競馬界だと、メディア以外にもいろいろなおつき合いがあると思います。たとえば普段から馬を育てている厩舎スタッフの方々も多くは男性で、ベテランも多くいらっしゃる環境ですが、そういった面では難しさなどありましたか。
【今村】いえ、そこはハードルを感じませんでした。私の場合、小さいころから父が厩舎に連れて行ってくれたりしていたので、そのころからの知り合いがとても多いんです。だからみなさんかわいがってくださって、「あんなに小さかったのに、こんなに生意気になって」と言われたりします(笑)。
そういうところはすごく得しているな、と感じていますね。あとは物怖じしない性格なのもよかったと思います。厩舎スタッフの方々とはプライベートでも交流があって、ご飯を食べに行ったりしていますよ。
──馬を送り出す側と、レースで任される側とで立場も違う中、そういう交流があるのは心強いですね。やはり騎乗する際も厩務員さんたちの顔は浮かびますか。
【今村】いまは1日6頭とか7頭とかの騎乗依頼をいただいています。しかし、厩務員さんは1頭の馬のために、1カ月前、あるいはもっと長い年月をかけて、そのレースを目指してさまざまな努力をされてきています。
馬のためにがんばるのももちろんですが、周囲の人たちの生活もかかっているというのを、依頼される側として強く意識しています。だからこそレースでは丁寧に、少しでも納得してもらえるような競馬を心がけています。
■今村聖奈騎手プロフィール
2003年11月28日生まれ。滋賀県出身。2022年3月に栗東・寺島良厩舎所属で騎手デビュー。17戦目で初勝利を飾ると、同年7月にはCBC賞で重賞初制覇。2026年5月にはオークスを勝利し、JRA女性騎手として初のGI・クラシック制覇を成し遂げた。
■馬とともに自分らしく 競馬を拓く女性たちの情熱と流儀

現在、女性ホースマンの躍進は世界的な潮流で、日本競馬界においても女性の進出が進み、騎手に限らず、調教師、厩務員、調教助手、生産者、獣医師、競馬メディアなどなど、さまざまな分野で女性が活躍をしています。
本書では競馬という厳しい世界に飛び込み、道を切り拓いてきた女性ホースマン17人に直接取材。インタビュー形式で競馬への情熱や仕事の流儀、思考法、メンタル術、ライフスタイルなどを語っていただきました。
編著:マイクロマガジン競馬編集部(netkeiba協力)
出版社:マイクロマガジン社
発売日:2026年10月
価格:1,980円(税込)
https://tvtokyo.tv/4i5l3hS