【宝塚記念 みどころ】新しい時代の到来を告げるグランプリ 上半期の締めくくり

2020 宝塚記念(GI)クロノジェネシス 圧勝 写真:日刊スポーツ/アフロ
いつの頃からだろう。牝馬がこんなに強くなったのは。
今年の宝塚記念の出走馬を見て、ふいに微笑んでしまった。もともと牝馬が強いレースだとはいえ、その牝馬が上位人気を独占するとは、いったい誰が予想しただろうか。
GI9勝という金字塔を打ち立てたアーモンドアイは現役を去り、無敗で牝馬三冠を成し遂げたデアリングタクトも故障で療養中。現在の短距離界を席巻し続けているグランアレグリアも安田記念2着を最後に休養入りしたばかり。
【宝塚記念】クロノジェネシスが2.1倍で1番人気、無敗馬レイパパレは3.4倍で2番人気 前日最終オッズ
昨今の日本競馬界を代表する牝馬たちは軒並み出ていないというのに、宝塚記念の前売りオッズを見ると、牝馬が上位人気を独占。
ちなみに中距離以上の距離で行われる古馬混合GIで牝馬が1~3番人気までを独占したケースは1986年以降、ただの一度もないという超レアケースでもある。
決して牡馬が弱いわけではなく、牝馬が強くなったことの現れと言えるだろう。この10年を振り返ってもウオッカにダイワスカーレット、ブエナビスタ、ジェンティルドンナ、そしてアーモンドアイ...。
GI戦線で輝きを放った牝馬が増えてきた。数年に一度しか現れない、珍しいケースだったのに今やそれが競馬界の日常に。時代は確実に変わったといえるだろう。
そんな新しい時代の象徴とも言える今年の宝塚記念、主役となるのはクロノジェネシスだろう。
デビューから堅実に走り、掲示板を外したことはただの一度もないという安定感がウリの彼女。そのソツのないレース運びが災いしてか、3歳時はクラシックでも惜敗するシーンが目立ったが、古馬になってから本格化。
雨の中行われた京都記念で先輩牡馬を粉砕すると、大阪杯ではラッキーライラックに次ぐ2着で牝馬ワンツーを達成。そして、この馬が芯の強さを見せたのは、ちょうど1年前のこのレースだった。
中団で控えていた彼女は3角過ぎ、何かが解き放たれたかのように加速し、気が付けば4コーナーを回る時にはすでに先頭に立っていた。
それまでソツのない優等生のようなレースとは全く別の破天荒なマクリを見せた彼女は直線でただ1頭突き抜けて春のグランプリをもぎ取り、どこかひ弱に映ったそれまでの自身と訣別してみせた。
その後、秋緒戦となった天皇賞(秋)ではアーモンドアイと真っ向からぶつかって0.1秒差の3着。ファン投票1位の支持を受けて臨んだ有馬記念は先に抜け出したフィエールマンを力でねじ伏せて春秋グランプリ制覇を達成した。
そして、今年も日本代表として臨んだドバイシーマクラシックでは直線、激しい叩き合いの末にミシュリフに敗れたが、わずかクビ差の2着。
勝負所で自ら動き、並んでくる馬がいれば力と力の勝負に持ち込む牡馬以上の勝負根性を見せる彼女が春のグランプリ連覇に挑む。
だが、60回を超える宝塚記念の歴史を振り返ると、過去に連覇を達成した馬はゴールドシップただ1頭。この事実はグランプリ連覇の難しさを物語っている。
しかも今回、主戦の北村友一は落馬負傷で騎乗できず、クロノジェネシスはキャリア15戦目にして初めて北村以外の騎手と組むことに。
当代随一の乗り役、クリストフ・ルメールが鞍上を務めるとはいえ、初タッグでどうなるか...... 今のところは未知数だ。
もし、クロノジェネシスを破る馬がいるとすれば、その大役を担えるのはレイパパレだろうか。

2021 大阪杯(GI)レイパパレが圧勝 写真:スポーツニッポン/アフロ
3歳1月デビューも、体質の弱さが災いして3歳時はクラシックとは無縁の存在。しかし年末のチャレンジCで先輩牡馬たちを蹴散らして重賞初制覇を飾ると、明け4歳緒戦となった大阪杯では軽やかに逃げ、直線では無敗の三冠馬コントレイルに短距離女王グランアレグリアが道悪馬場で伸びあぐむ中、涼しい顔をしたまま無傷の6連勝でGI初制覇。
同期の三冠馬を破った後は先輩牝馬クロノジェネシスを破り、無敗の7連勝でタイトルを積み重ねるか。
宝塚記念は悲願のGI初制覇が叶う、ドラマチックなレースという側面もある。今年の出走馬でそんなドラマが最も似合う馬はカレンブーケドールをおいて他にいないだろう。
3歳時のオークスで11番人気ながらあわやの2着に入って以来、秋華賞、ジャパンCと3戦連続2着。その間に走った重賞も2着3着のオンパレード。距離が長すぎると思われた天皇賞(春)でさえ4角2番手から粘りこんで3着に入るなど、いつでもどんな条件でもひたむきに走っては馬券圏内をにぎわせた。
だが、そんな彼女も2年前のスイートピーSが最後の勝利に。もう銀メダルはいらない。欲しいのはピカピカに輝く金メダルだけ。誰よりも勝利に飢えた彼女が春のグランプリで大きな星を今まさにつかもうとしている。
春のグランプリ連覇という記録に挑むオンナに、無敗記録を伸ばそうとするオンナ、そして悲願のGI制覇を果たしたいオンナ......今年の宝塚記念はこの3頭の牝馬から目が離せなくなりそうだ。
■文/福嶌弘