【スプリンターズS】ピクシーナイト 鞍上だけが知っていた、誰もが驚く急成長

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2021.10.4


2021スプリンターズS ピクシーナイトが優勝 写真:日刊スポーツ/アフロ

ライバルたちを脱帽させる完璧なまでの横綱相撲のレース振り

 まさかこれほど強いとは――

レース直後、百戦錬磨の古馬を相手に突き抜けたピクシーナイトに驚かされたファンも多いことだろう。

2007年のアストンマーチャン以来、14年ぶりとなる3歳馬による短距離王の座に就いたピクシーナイトだが、その成長ぶりには驚かされることばかりだったように思う。

 社台グループ期待の種牡馬、モーリスのファーストクロップとしてデビューしたとはいえ、一族にはGI馬どころか重賞勝ち馬すら皆無。

ノーザンファームで生産された馬の中では比較的地味なファミリーからピクシーナイトが生まれたわけだが、この馬に対して鞍上の福永祐一はデビュー前から「GIを勝てる馬」と並々ならぬ期待をかけていた。

 三冠騎手の期待通り、ピクシーナイトはデビュー戦を快勝。

3歳年明け緒戦となったシンザン記念では好スタートから生かして主導権を握り、後続に並ばせることなく逃げ切って重賞初勝利。

レース後、鞍上を務めた福永も「GIを狙える」と、当初から抱いていた期待を確信に変えたように満足げに語っていたのが今でも印象深い。

 しかし、ピクシーナイトはその後アーリントンC4着、NHKマイルC12着と伸び悩む。

シンザン記念の結果を受けてか、いずれも逃げの手を打ち直線早々と捕まってしまうというレースを繰り返した。

見どころなく敗れたこの2戦で見切りを付けられてもおかしくなかったが、それでも福永は「スプリントならば」という期待をピクシーナイトにかけていた。

思えばピクシーナイトの母父は若き日の福永が鞍上を務めたキングヘイロー。

世界的な良血として話題になり、GIを約束された素質馬だったが、結局、自身の手ではそのタイトルをつかむことができなかった。

そんな心残りがあったからこそ、かつての愛馬の血を持つピクシーナイトにはどこか特別な感情を抱いていたのかもしれない。

 その結果、ピクシーナイトは続くCBC賞で高速馬場に対応する2着、そしてスプリンターズSの前哨戦として挑んだセントウルSではレシステンシア相手にタイム差なしの2着に。

「実践の中で経験を積むのは大変なことだけれど、この馬はしっかりと対応してくれている」とレース前のインタビューでも愛馬への並々ならぬ信頼を寄せていた。

外からは見えないこの馬の急成長ぶりをもしかしたら福永は手綱を通じて感じ取っていたのかもしれない。

 迎えたレース当日。この日の中山は開幕最終日ながら内側の馬場の状態が良く、そこを通った先行馬がよく伸びるというコンディションに。

実際、土曜日からの芝レースでは先行した内枠の馬たちが軒並み馬券圏内に食い込んでいた。

 戦前の下馬評では昨年もレースを引っ張ったビアンフェとモズスーパーフレアが今年も逃げ、その後ろに有力馬のレシステンシアらが構えると予想されたため、先行勢には不利に映ったが、実際はその2頭が逃げたとはいえ、過度にペースを上げることはなく前半600mのタイムは昨年よりも0.5秒も遅い33秒3。

このペースなら前に付けた馬たちが流れに乗ってレースを有利に進められる。

 ピクシーナイトはこの流れをレシステンシアと並び3番手で追走するという絶好の位置取りに。

そのすぐ後ろには1番人気のダノンスマッシュが付け、さらに後方には切れ味鋭いジャンダルムが控えるという状況だったが、3コーナーを過ぎてピクシーナイトが内に進路を取ったところで勝負があったように思えた。

それくらいに完璧な位置取り、レース運びをここまでのキャリアわずか7戦の馬がして見せたのだから恐れ入る。

 果たして、ピクシーナイトは最後の直線を2番手で迎えると、前を行く厩舎の先輩モズスーパーフレアを捕まえ先頭に。

迫りくるレシステンシアやダノンスマッシュといったGIホースたちを向こうに回して中山の急坂を駆け上がり、最後には2着のレシステンシア相手に2馬身の差をつけてゴールするというまさに横綱相撲のレース振り。

強い馬でなければ決してできない堂々たる内容で14年ぶりとなる3歳馬によるスプリンターズS制覇を果たした。

 枠に馬場、そして展開とすべてがこの馬に向いたような印象さえ受けたが、それでもここまで強いレースを見せる馬はごくわずか。

2着に敗れたレシステンシアの鞍上、クリストフ・ルメールが「仕方ない。相手が悪かった」と完敗を認めるまでの強さをピクシーナイトは満天下に見せ付けたと言える。

ひと夏を越え、誰もが想像もしていなかった成長を果たし、どこかひ弱に映る若駒は逞しさを備えた王者になったということだろうか。

「想像を超える走りをしてくれた」と、レース後に福永インタビューでこう答えた。

返し馬ではまだバランスが取れていないというようにまだまだ未完成な部分を残しつつ、抜群のスピードを見せるレース振りはやはり一流馬のそれ。

デビュー前からその才能を見いだし、すべてのレースで手綱を取り、一戦ずつレースを教えてきたことでたぐいまれな才能が花開いたのだから、福永にとっても特別な1勝になったことだろう。

最後に福永は「この先、いろんな選択肢が見えてきた」と語ったが、もしかするとピクシーナイトの活躍の場はスプリントのみでなく、父モーリスのようにさらなる広がりを見せるのかもしれない。


■文/福嶌弘