【凱旋門賞回顧】愚直に走った先に見えたもの 大レースに求められた”タフさ”

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2021.10.4

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    第100回凱旋門賞 Photo by Scoop Dyga/Icon Sport via Getty Images

    「タフ(困難)なレースだった」――

    今年の凱旋門賞を見た直後、真っ先に浮かんだのがこの言葉だった。レース時には止んでいたとはいえ、雨が降ったことで道悪馬場になり、ただでさえ力の要るロンシャンの馬場は普段以上にパワーが要求されることに。

    こうなると日本馬クロノジェネシス、ディープボンドには厳しいコンディションになったといわざるを得ない。

     だからだろうか、クロノジェネシスの鞍上、オイシン・マーフィーはゲートを出た直後からクロノジェネシスなかなか馬群に入れず、外へ外へと逃がすようにレースを進めた。

    少しでも馬場の良いところを走ろうという思いからか、それとも馬群に揉まれ泥をかぶるのを避けるためかは定かではないが、彼女が馬群の一団に加わったのはスタートから50秒が経過したころだった。

     今年の英ダービー馬で人気の一角を占めたアダイヤーが逃げ、クロノジェネシスが2番手につけるという展開で流れた前半戦。他に人気となっていたハリケーンレーンもスノーフォールも中団よりやや後ろに位置取り、さらにその後ろにフォワ賞を勝って臨んだディープボンドという具合に馬群はひとかたまりに。

    各馬のレース振りを見るとまるで、先に動いたものから脱落すると言わんばかりの走り。仕掛けどころはまだ先と考えたのか、道悪馬場に対してロスなく走ることに重きを置いたのか、ロンシャン名物のフォルスストレートから直線入り口まで、14頭は誰も仕掛けることなく最後の直線へと向かっていった。

    この時点で先頭に立ったのは逃げたアダイヤー、そして2番手はクロノジェネシスという状況で各馬が追い出しにかかっている。

    これまでのレース振りを考えたら、クロノジェネシスにとってはおあつらえ向きの流れ、直線でスパートをかけて突き放す展開に思えたが、いざ追われてみるとクロノジェネシスのスピードは上がらない。

    初めて背負った斤量58キロが堪えたか、それとも国内とは比べ物にならない道悪馬場が影響したか、彼女の本来の走りとはほど遠いもの。

    まるで脚に絡みつくかのようなロンシャンの芝に脚を取られて、彼女は伸びを欠いた。

    クロノジェネシスが苦しむ中、台頭してきたのがインを突いたタルナワとハリケーンレーン。前者のタルナワは昨年のヴェルメイユ賞、オペラ賞でロンシャンの地を経験したコース巧者で、3歳馬ハリケーンレーンは菊花賞のモデルとなったセントレジャーの勝ち馬であり、パリ大賞でロンシャンは経験済み。

    この2頭が逃げたアダイヤーを交わしていく姿を見た時はやはりコース経験の差がモノを言うように思えたが......その2頭を外から交わした馬がいた。ドイツのトルカータータッソである。

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    第100回目の凱旋門賞はドイツのトルカータータッソが優勝 Photo by Scoop Dyga/Icon Sport via Getty Images

    ここまで10戦4勝。ドイツで最も権威のあるGI、バーデン大賞を制するなどその実力は確かなものがあったが、鞍上のルネ・ピーチュレクも管理するマルセル・ヴァイス調教師も国際レースでの実績はほぼ皆無。

    おまけに父アドラーフルークもドイツ土着の血統で国際的には超の付くマイナー種牡馬。特に取り立てるところがないと判断されたか、人気は14頭中13番人気。日本での単勝オッズは110.5倍という伏兵中の伏兵だった。

    そんなトルカータータッソの凱旋門賞における立ち回りはというと、とにかく我慢の一言に尽きる。

    スタートから中団やや前目、馬群の外側へ位置すると直線に入ってから各馬とともに仕掛けられるとそこからじわじわと伸び始め、ゴールまで残り200mというところで先頭争いに加わった。

    そこから最内を突いたタルナワ、真ん中から抜け出してきたハリケーンレーンに馬体を合わせるようにトルカータータッソは外から迫り、ゴール直前でタルワナに3/4馬身差をつけて差し切りゴール。

    2011年のデインドリーム以来となる史上3頭目のドイツ調教馬による勝利をつかんで見せた。

     否、差し切ったというよりも先に抜け出した2頭がバテたところを交わしたという表現がしっくりくる。どの馬も苦しんだ道悪馬場を前にしても不満を言わず、ただ愚直にガムシャラに走った結果、トルカータータッソは栄冠を掴んだ。

    100回目という節目を迎えた凱旋門賞はレース史上に残る大波乱で幕を閉じた。

     2着は先輩牝馬の意地を見せたタルナワが入り、3着にはスタミナにものを言わせたハリケーンレーン。そして直線早々と捕まったように見えたアダイヤーがそこから3馬身差の4着に留まったという結果を見ると、何よりもロンシャンの道悪馬場への対応力が問われたことが伺える。

    日本の不良馬場とは比べ物にならないほどのコンディションの中を走ったクロノジェネシスは7着、ディープボンドは最下位14着とそれぞれ沈んだが、この馬場状態を考えたら致し方ない。

    今年の凱旋門賞は100回目という伝統あるレースらしく、やはり「タフなレースだった」といわざるを得ない。

    ちなみにタフ(tough)には「困難」という意味のほかに「頑固」「しぶとい」「頑丈」といった意味がある。これらの表現、思えばすべてドイツ人の国民性に当てはまるものばかり。そう考えれば、単勝13番人気の超伏兵・トルカータータッソの激走も納得いくことだろう。


    ■文/福嶌弘


    第100回 凱旋門賞(G1)全着順

    着順 馬名(性齢)調教国・騎手
    1着 トルカータータッソ(牡4)独・R.ピーヒュレク
    2着 タルナワ(牝5)愛・C.スミヨン
    3着 ハリケーンレーン(牡3)英・J.ドイル
    4着 アダイヤー(牡3)英・W.ビュイック
    5着 シリウェイ(牡3)仏・F.ブロンデル
    6着 スノーフォール(牝3)愛・R.ムーア
    7着 クロノジェネシス(牝5)日・O.マーフィー
    8着 バブルギフト(牡3)仏・G.モッセ
    9着 アレンカー(牡3)英・T.マーカンド
    10着 モジョスター(牡3)英・R.ライアン
    11着 ブルーム(牡5)愛・武豊
    12着 ラービアー(牝4)仏・C.デムーロ
    13着 ベイビーライダー(牡3)仏・I.メンディザバル
    14着 ディープボンド(牡4)日・M.バルザローナ
    取消 ラブ(牝4)愛・L.デットーリ