【菊花賞】見てたか、オヤジ!鮮やかな逃げ、堂々たるレース振りに見た父の姿

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2021.10.25

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    2021菊花賞 タイトルホルダーが優勝 写真:東京スポーツ/アフロ

    見てたか、オヤジたち!~第82回菊花賞回顧~

    「おおっ、飛ばしてるなぁ! タイトルホルダー」......

    ケレン味なく逃げる彼の姿を見て、そんなことを思ったファンも少なくないだろう。

    弥生賞を逃げ切り、皐月賞でも2着に入ったとはいえ、どちらも「誰もハナに行かないのなら......」という感じで先頭に立って、スローに落として粘りこんだ感じだったので、自分からハナを主張して逃げるレース運びをするとはいささか驚いた。

     驚いたと言えば、この馬の前走、セントライト記念の結果だろうか。

    確勝を期した一戦で菊花賞に付けて弾みを付けたかったところで、タイトルホルダーはまさかのブービーとなる13着に大敗。掴みかけていたタイトルがスルリと手から離れていくような感覚を味わった。

     だが、この大敗が却って彼のためになった。なまじ好位に付けて流れに乗って抜け出そうというレース運びがこの馬には合わないとはっきりわかっただけに本番では腹を括れた。

    勝つためには逃げるしかない――

    そんな思いが鞍上の横山武史騎手にはあったのだろう。好スタートからガシガシと手綱を追って先頭を奪う姿に確固たる意志を感じた。

     タイトルホルダーが先頭に立ったとき、後ろの17頭は「しめしめ」と思ったことだろう。なにせ菊花賞で逃げて勝った馬は20年以上現れていない。

    姉に菊花賞5着に入ったメロディーレーンがいるとはいえ、この馬自身は2000mを超えたダービーでもセントライト記念でも馬券圏外に敗れている。

    それだけに、いくら道中で軽快に逃げていても直線に入れば捕まるはず...... そう考えていた陣営が多かったからこそ、実際に2000mを過ぎたところまで1番人気馬レッドジェネシスをはじめとした有力馬たちは後方に控えたままだった。

    逃げていたタイトルホルダーも3コーナーに入るところでリードが3/4馬身程度に縮まっていた。

    このままいけば直線ではあっさりと捕まる――

    誰もがそう思ったことだろう。途中からマクるように上がっていったセファーラジエルとの差はもうわずか。さらに後ろにいる有力馬たちに至っては直線に入るなり、タイトルホルダーを目指しスパートをかけてきた。

     タイトルホルダーにとってはもう万事休すかと思われたが......タイトルホルダーはここで息を吹き返した。例年の京都競馬場ではなく、阪神の内回りコースで行われたことが功を奏したか、直線を向いたところでリードを再び広げていく。

    後ろから牝馬のディヴァインラヴやオーソクレースらが猛然と追い込んできても、その差は縮むどころかむしろ広がっていくばかり。

    3角過ぎに差を縮められた際に脚を溜めたことで持ち味の粘り強さが活きたか、後ろでオーソクレース、ディヴァインラヴ、ステラヴェローチェが2着争いをしている中で、タイトルホルダーはと言えば涼しい顔をして独走。

    気が付けば2着馬に5馬身の差をつけて楽勝、馬名通りにGIタイトルを獲得した。

    「前走がひどい競馬になってしまったので、リベンジしたい思いがあった」と、レース後に語ったのは鞍上の横山武史騎手。

    セントライト記念の大敗のリベンジをという思いから、この馬が最も得意とする逃げの手に出ての積極策で見事に勝利につなげ、23年ぶりとなる菊花賞での逃げ切り勝ちを果たした。

     ちなみに23年前、菊花賞で逃げ切り勝ちを果たしたのはセイウンスカイ。くしくも鞍上は横山武史騎手の父、横山典弘騎手だった。

    後方から猛然と迫ってきたスペシャルウィークに影すら踏ませない逃げ切り勝ちはまるで今日のタイトルホルダーと瓜二つ。ついでに言えばゴール直後に左手を高々と挙げる横山武史騎手の姿も父・典弘と全く同じものだった。

     その姿はまるで「見てたか、オヤジ!」と、現地にいた父に言わんばかりのガッツポーズ。

    騎乗馬こそ違えど、自身は皐月賞とともに今年の牡馬クラシックで二冠達成。未来の競馬界を支える存在として、成長ぶりを大きくアピールしたように思う。

    そして......もう1人、「見てたか、オヤジ!」と言いたかった者がいた。他でもない、菊花賞を制したタイトルホルダーである。

    タイトルホルダーの父、ドゥラメンテは今年の3歳がファーストクロップだった新鋭種牡馬。初年度から孝行息子が重賞を制したことで期待が高まったが、8月31日に急性大腸炎のためまさかの急逝。わずか9歳にしてこの世を去ってしまったのだ。

    それだけに息子タイトルホルダーが出走するセントライト記念当日、「天国の父のために餞の勝利を」といった類のコメントがSNS上で飛び交ったのは記憶に新しい。

     今思えば、タイトルホルダーのセントライト記念大敗の敗因はここにあったのかもしれない。レース前から見えないプレッシャーが彼を包み込んでいたことで思い通りのレースができなかった。鞍上曰く「真面目に走りすぎる馬」だからこそ、デリケートな面があったのかもしれない。

     だからこそ、今日はどうしても勝ちたかっただろう。菊花賞はクラシック三冠制覇を目前にした父が骨折のため出走できなかったレース。

    そんな因縁のレースを息子が制した。種牡馬になった亡き父に捧げる初のGI制覇は親子合わせてのクラシック三冠制覇になるというものでもある

    菊花賞のゴール直後、鞍上の横山武史は人差し指を立てて天を指し、首筋をポンポンと叩いて相棒の走りを心から称えた。

     その姿を現地から、そして天国から見た2人の"オヤジ"はどう思ったのだろうか。


    ■文/福嶌弘

    第82回菊花賞(GI)着順
    10月24日(日)4回阪神6日 発走時刻:15時40分

    着順 馬名(性齢 騎手)人気
    1着 タイトルホルダー(牡3 横山武史)4
    2着 オーソクレース(牡3 C.ルメール)3
    3着 ディヴァインラヴ(牝3 福永祐一)6
    4着 ステラヴェローチェ(牡3 吉田隼人)2
    5着 ディープモンスター(牡3 武豊)7
    6着 ヴェローチェオロ(牡3 幸英明)12
    7着 アリーヴォ(牡3 M.デムーロ)11
    8着 エアサージュ(牡3 藤岡佑介)10
    9着 アサマノイタズラ(牡3 田辺裕信)5
    10着 ヴィクティファルス(牡3 池添謙一)8
    11着 セファーラジエル(牡3 鮫島克駿)17
    12着 ロードトゥフェイム(牡3 丹内祐次)15
    13着 レッドジェネシス(牡3 川田将雅)1
    14着 モンテディオ(牡3 横山和生)13
    15着 グラティアス(牡3 松山弘平)14
    16着 ヴァイスメテオール(牡3 丸山元気)9
    17着 ノースザワールド(牡3 和田竜二)18
    18着 ワールドリバイバル(牡3 津村明秀)16

    ※結果・オッズ等は主催者発表のものと照合してください。