【NHKマイルC】勝利の女神はダノンスコーピオンに微笑んだ 単勝オッズに現れなかった真の実力

2022NHKマイルカップ ダノンスコーピオンが優勝 写真:日刊スポーツ/アフロ
第27回NHKマイルC 回顧
「意外と人気にならないなぁ......」オッズ板を見た際、こんなつぶやきをしたことがある競馬ファンは多いことだろう。反対に「こんなに人気になるんだ!?」と驚くこともしばしばだが。
馬券を買うキャリアが長くなってきた競馬ファンは馬券を買う際、自分なりにオッズを予想して買うという方がほとんどだろう。金曜に枠順が出た際、自分なりに1番人気馬を仮定して、それぞれ序列をつけていく。
特に今年のNHKマイルCのように戦前から混戦模様と評されたレースではそうした人気を考える時点でワクワクしてくるものである。
そんな「自分が考えた人気予想」と「現実の人気」を見比べて、大きなズレがあった時......馬券を買うか否かで迷うことになる。筆者の場合、今年のNHKマイルCに出走する馬たちの人気をこう予想していた。
1番人気 セリフォス 単勝3~4倍想定
2番人気 ダノンスコーピオン 単勝4~5倍想定
3番人気 ジャングロorマテンロウオリオン 単勝7倍想定
朝日杯FS以来とはいえ、当時2着だった上にこの時敗れたドウデュースが皐月賞3着に入るなど、強い相手とばかり戦ってきて結果を出しているセリフォスが1番人気になりそうなのは簡単に予想がついたし、レベルが高いと評判になったアーリントンCを制したダノンスコーピオンもこれくらいの人気にはなるはず。
そしてニュージーランドTを勝ったジャングロは鞍上・武豊の人気も相まって3番人気をマテンロウオリオンと争うだろう......と、金曜夜の時点ではこう予想していた。
ところが、レース直前の実際の人気はこうだった。
1番人気 セリフォス 単勝3.9倍
2番人気 インダストリア 単勝4.0倍
3番人気 マテンロウオリオン 単勝6.8倍
......セリフォスの1番人気は予想通り、マテンロウオリオンの人気にも納得はしたけれど、意外だったのが2番人気。弥生賞5着のインダストリアが1番人気に肉厚するオッズに推されたのも驚いたが、それ以上にダノンスコーピオンが7.1倍の4番人気にまで落ちていたのが、いささか信じられなかった。
いったいダノンスコーピオンの何が、嫌われてしまったのか――
今回の舞台である東京競馬場で走った際に大敗した(共同通信杯7着)のがよくなかったのか、それとも過去10年[0・1・1・8]と勝ち星を挙げていない大外18番に入ったことか、はたまた...... とパドックを見ながら思いつく限り考えてみたが、やはりダノンスコーピオンが4番人気というのはわからなかった。
しかし、オッズとはファンが作るいわゆる水物。実力馬が前走で大敗を喫しただけでトコトン下がることもあれば、デビュー前の2歳馬が調教で目立つ時計を出していなくても良血ぶりが評価されて人気になるなんてことはよくある話だ。
一方、ダノンスコーピオンはというとパドックで堂々と周回。自身の人気などみじんも気にすることなく悠然と歩き、返し馬でも力強いフットワークを見せていた。
ここまで堂々とした立ち振る舞いを見ると、むしろゲート入りが最後でいい大外枠に入れたよかったのでは?と思わせるほど。GIの大舞台で見せたこのメンタルの強さには恐れ入る。
そしてレースがスタート。
ゲートに突進してしまったジャングロ、ゲートが開いた瞬間にそっぽを向いていたマテンロウオリオンが出遅れる中でハナを争ったのはトウシンマカオとキングエルメス。
そのすぐ後ろにセリフォスが付けるという展開になった。ダノンスコーピオンはこれらの馬を見ながら7~8番手という中団に構えるといういつも通りのレース運びを見せていた。
前を行く馬たちが作ったペースは前半3ハロンで34秒1。
この10年では3番目に速いタイムだったためか、直線に入るころには先行馬たちはすでに青息吐息に。トウシンマカオらは残り200mの時点までは踏ん張ってはいたが、内から来たセリフォス、そして外から差してきたダノンスコーピオンが先頭を争うように。
ちょうど半年前の朝日杯FSの思い出させるような光景となったが、前半に先行馬を追いかけていた分、セリフォスの脚が止まると後はダノンスコーピオンが優勢に。これで勝負ありか!と思われた瞬間、外からマテンロウオリオンとカワキタレブリーが突っ込んできた。
だが、勝利の女神はダノンスコーピオンに微笑んだ。馬場の三分どころというこの日の東京芝コースで最も伸びる場所を通ったダノンスコーピオンは猛追してきたマテンロウオリオンらをクビ差振り切ってGI初制覇を果たした。
鞍上の川田将雅にとって、師匠にあたる安田隆行調教師の管理馬でのGI勝利は格別のものとなったことだろう。レース後のインタビューでも「師匠の馬で勝ててよかった」と喜びの言葉を口にし、さらにこの馬の成長に期待するコメントを残した。
戦前こそ「主役不在の混戦」と称されていたが、終わってみれば4番人気馬と3番人気馬の決着で上位人気4頭が掲示板に入った。
競馬ファンの見る目の鋭さが実証されたかのようなレースだったが、その中でも波乱を起こしたのがシンガリ18番人気ながら3着に突っ込んできたカワキタレブリー。彼の激走により3連単は153万馬券という大波乱の決着となった。
単勝オッズや人気はファンが作る水物。それだけに決して、その馬の真の実力を表すものではないというのを自らの走りで示したのは、ダノンスコーピオンだけでなかったのかもしれない。
■文/福嶌弘