【凱旋門賞】ブルーストッキングが優勝 道悪馬場への適性を信じ、追加登録で勝利を掴む シンエンペラーは12着

2024年凱旋門賞 ブルーストッキングが優勝 PHOTO:Getty Images
決断の先にあった栄冠 ~第103回凱旋門賞回顧~
「残念でしたが、仕方がない」――
レース後のインタビューで、シンエンペラーの馬主である藤田晋氏は言葉を絞り出すようにこう述べた。その様子からは悔しさがにじみ出ていた。
「近年で稀に見る混戦模様」と評されていた今年の凱旋門賞。どの馬にもチャンスがあるということで、今年の日本からの遠征馬であるシンエンペラーも有力馬の1頭として数えられていた。
ここまでGI勝ちこそないが、ホープフルS2着に日本ダービー3着という実績を持ち、前走の愛チャンピオンSでは本調子でないにもかかわらず3着に健闘。
4年前に凱旋門賞を制したソットサスの全弟というプロフィールを考えると、日本競馬界にとっての悲願である凱旋門賞制覇に最も近づけるかと思われたが......現実はそう甘くはなかった。
戦前から道悪での開催となると予想されていたように、重馬場での開催となったレースはスタート直後からポジションの探り合いが行われ、欧州特有の駆け引きによって愛ダービー馬のロスアンゼルスが逃げさせられる形でハナを切ることに。
その後にヴェルメイユ賞を制したブルーストッキング、1番人気に支持されたソジーらが続いていく形となった。
シンエンペラーはと言うと、ソジーに並ぶ形で5~6番手という位置取りに。
中団よりやや前目から流れに乗るという絶好の位置取りとなり、その後ろには武豊を鞍上に迎えたアイルランドのアルリファーが虎視眈々と外から迫ってくるという様子だった。
前半の1000mの通過タイムは1分7秒台。馬場のことを考えてもかなりゆったりとした流れになったためか、馬群に大きな動きがないままロンシャン競馬場名物であるフォルスストレートに突入する。
楽なペースでロスアンゼルスが逃げる中、人気のソジーがそれを捕らえようとポジションを上げていき、それを見る形でシンエンペラーは進路を確保するために外へと進出。
武豊が乗るアルリファーもシンエンペラー動揺に外へと進路を求めていった。
迎えた最後の直線。まだまだ与力たっぷりに逃げるロスアンゼルスを追いかけ、最終コーナーを回ってすぐに仕掛けたシンエンペラーが外から猛追していくが、日本とは大きく異なる道悪馬場に脚を取られてしまい、思うように前に進めない。
気が付けば、後続から来る馬たちにも並ばれてしまい、いつしか馬群の中に飲まれてしまった。
そんな中で先頭に立ったのはイギリスのブルーストッキング。終始2番手に付けて流れに乗っていた彼女は直線を向いてすぐに仕掛けられると、残り300mの時点でロスアンゼルスを捕らえて先頭に。
道悪馬場をものともせずにロッサ・ライアン騎手の鞭に応えて一歩、また一歩とストライドを伸ばし、後続との差を広げていく。
そのブルーストッキングを目がけてソジーが追い込んできたが、それ以上の脚を見せてやって来たのがフランスの3歳牝馬アヴァンチュールだった。
先行した馬たちばかりが上位にいる中、アヴァンチュールは唯一中団から追い込んでくると、道悪馬場で伸びきれないソジーを尻目に逃げたロスアンゼルスを捕まえて2番手に上がっていったが......
それでも1馬身近いセーフティリードを取ったブルーストッキングが最後まで粘り、そのままゴール。競馬発祥の地とされるイギリスの所属馬が2年ぶりに世界最高峰のレースを制してみせた。
勝ったブルーストッキングは2番手、そしてスタートから逃げたロスアンゼルスが3着に粘るなど、前にいる馬同士の決着となった中、シンエンペラーは12着。
武豊を背に挑んだアルリファーは11着といずれも完敗。道悪馬場に苦しめられ、さらにスローな流れだったことも中団にいた2頭には流れが合わなかった。
凱旋門賞馬となったブルーストッキングは3歳時にはビッグタイトルに恵まれず、今年に入ってからプリティホリーS、ヴェルメイユ賞とGⅠで2勝を飾ったばかりの新鋭。
今回の凱旋門賞に出走するにあたり、12万ユーロ(約1920万円)もの追加登録料を支払っての参戦となったことでも話題となった。
牡馬相手のGⅠで勝ち星がなかったとはいえ、道悪馬場を得意とする彼女にとって今回の馬場は願ってもない舞台。
陣営も彼女の道悪適性をわかっていたからこそ高額な追加登録料を支払っても勝負になると踏んだのだろう。まさにブルーストッキング陣営の決断が今回の勝利を手繰り寄せたと言っても過言ではないだろう。
一方、「欧州の馬場にも対応できる」と判断して挑んだシンエンペラーは残念ながら今回は結果を出せなかったが、まだ3歳の彼にとって、そして鞍上の坂井瑠星にとっても大きな経験となったはず。
そしてシンエンペラーを凱旋門賞に挑戦させた藤田氏はレース後に行われたインタビューで最後にこう答えてくれた。
「(ロンシャン競馬場は)素晴らしい雰囲気で、いい経験になった。また来たいと思った」
......彼をはじめ、日本のホースマンから挑戦する心が消えない限り、日本馬の凱旋門賞制覇は決して遠くはないはずだ。
■文/福嶌弘