【有馬記念】レガレイラ 向かい風の中で見せた不屈の闘志にグランプリの女神が微笑んだ
2024.12.27
有馬記念を制したレガレイラ(c)SANKEI
「風がすごい。馬がフラフラしちゃうし、前にいると大変」――
有馬記念当日、5レースに騎乗したクリストフ・ルメールはこんなコメントを残していた。
この日の中山競馬場は快晴ながら、午前中から強い北風が吹くというコンディション。直線に入れば向かい風となるだけにどのレースでも上がり3ハロンの時計はかかりがち。
実際に有馬記念前に行われた芝のレース5戦中、4戦の上がり3ハロンの最速時計は35秒台。
34秒台の時計を出した馬は10レースのオルフェーヴルCで2頭いただけという状況だった。
そんな強い風が吹き荒れた今年の有馬記念に臨んだレガレイラはレース前、何を感じただろうか――
思えばこの1年、彼女には常に逆風が吹いていたように思う。
さかのぼること1年前。ホープフルSで先に抜け出したシンエンペラーを捕らえて快勝。出世レースとして名高いこのレースを牝馬として初めて制した彼女には明るい未来が待っていたはずだった。
その抜群のキレ味は牡馬相手にも通用するとして、2024年の年明け早々、3歳になってからの彼女は皐月賞を目指すと発表されるほどだった。
だが、才女レガレイラに待っていたのは苦難の道だった。
ホープフルS以来の実戦となった皐月賞は主戦のルメールが骨折のアクシデントに見舞われたため急遽、北村宏司とのタッグで臨むことになったが、スタートで他馬と接触する不利があり上手く位置を取れず、直線で猛然と追い上げるも6着止まり。
続くダービーはルメールとのコンビが復活するもダノンデサイルの前に屈して5着。春のクラシックは無冠に終わった。
巻き返しを狙い、秋は牝馬路線へと矛先を向けたが、ローズSで5着に敗れると、万全の体調で臨んだエリザベス女王杯でも5着。
3歳になってからの4戦中3戦で上がり3ハロンの時計はメンバー最速を記録するなど切れ味ある末脚を見せるも、勝つどころか掲示板に入るのがやっとという成績に。
気が付けばレガレイラはホープフルSを最後に勝ち星から遠ざかり、有馬記念にエントリーするも、獲得賞金順では19番目と本来なら出走すらできない状況だったが... ファン投票によってギリギリ出走権を得るほどだった。
走れども走れども結果が出せず、まるで逆風の中でもがいていた彼女にとって、もしかするとこの日の中山の北風はそよ風くらいにしか感じなかったのかもしれない。
強い北風が吹いている中で迎えた今年の有馬記念。1番人気のアーバンシックとプログノーシスが出遅れる中、先頭を伺ったのは横山和生とベラジオオペラ。
戦前から逃げるのではと思われていたこのコンビがすんなりとハナに行くかと思われたが、これに押して押して先頭を奪いに行ったのがダノンデサイルだった。
これが有馬記念30回目の騎乗となるベテラン・横山典弘は向かい風に当たることを気にせずにダービー馬にキャリア初の逃げを打たせるという大胆なレース運びを選択した。
横山典弘・和生親子の騎乗馬2頭がペースを作る中、3番手集団にいたのがレガレイラだった。
今年に入ってから最も前に付けてのレースとなったが、「二の足もよくて、道中はスムーズなポジションとリズムで走れた」とレース後に鞍上の戸崎圭太が振り返っていたように、いつになくスムーズに走れていた。この日が初タッグとなったからこそ、レガレイラの新しい一面を引き出せたのかもしれない。
1000mの通過タイムは62秒9というスローペースになり、馬群はひと固まりのままでバックストレッチを通過。
この流れを考えてか、外から動いて行ったのがシャフリヤールだった。
有馬記念では不利とされている大外枠である8枠16番からのスタートとなったが、クリスチャン・デムーロの勝負勘が冴え渡り、一気に仕掛けてロングスパートを打ちはじめると、そのまま大外からマクるように上がっていった。
そうして迎えた最後の直線。逃げるダノンデサイルにベラジオオペラ、ディープボンド、ハヤヤッコらが追いすがる。
インコースをうまく突いて3番手まで押し上げてきたレガレイラと外から猛然と追いかけてきたシャフリヤールが馬体を併せて伸びて、内で懸命に粘るダノンデサイルに襲い掛かった。
ゴールまで残り100mを過ぎたころ、逃げたダノンデサイルを捕らえたレガレイラとシャフリヤールの2頭が抜け出したが、叩き合いはまだ続いていた。
戸崎の右鞭がレガレイラのストライドを広げれば、クリスチャン・デムーロは左鞭を入れて、シャフリヤールを叱咤激励する。
この1年、逆風にさらされ続けた3歳牝馬と2年以上勝ち星から遠ざかっているかつてのダービー馬、向かい風の中で見せた激しい叩き合いは日本競馬の歴史に深く刻まれることだろう。
そんな世紀の激闘を制したのは内にいたレガレイラだった。
ゴール直前、ほんの数センチだけ先着して、1960年のスターロッチ以来、64年ぶりとなる3歳牝馬のグランプリ制覇を成し遂げてみせた。
「3歳牝馬で有馬記念を勝てて、今後ますます楽しみになったと思います」と、レース後のインタビューで戸崎はレガレイラの健闘をこう称えた。この1年、常に逆風の中でもがいていた彼女は向かい風が吹き荒れる最後の直線でも懸命に伸び、3歳年上のダービー馬・シャフリヤールの叩き合いを制した。
諦めなければ、必ず道は開ける――グランプリの女神はレガレイラの不屈の闘志に微笑んだ。
■文/福嶌弘
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