トルシエが明かす「日本はワールドカップを獲る準備ができている」フランス代表の強さと日本代表の進化
【動画】FOOT×BRAIN+ #727|https://youtu.be/GH_a9H9TEnY
これまで「日本サッカーが強くなるためにできることのすべて」をコンセプトに2011年4月に始まった『FOOT×BRAIN』。
番組開始から15年目を迎え、2025年4月に『FOOT×BRAIN+』として新たなコンセプトで生まれ変わった。
日本代表・遠藤航が公言した「ワールドカップ優勝」。FOOT×BRAIN+は「日本がW杯で優勝するためにできることのすべて」をテーマに掲げ、より深く、より徹底的に日本サッカーの可能性を探っていく。
今回の「FOOT×BRAIN+」では、元日本代表監督フィリップ・トルシエ氏とその通訳を務めたフローラン・ダバディ氏が番組初登場。
「日本は今、本当に良いポジションにいる」。かつて日本代表を率いたトルシエが確信を込めて語った。

スタジオには、どこか緊張した空気が流れていた。
トルシエ氏といえば多くの日本人にとって「怖い監督」の印象が強いが本人は温和な表情を見せながら語り始めた。
「私には二つの顔があります。職業上、監督としては要求が厳しく、パフォーマンスを追求しなければならない。そのため、ある種の態度を示さなければいけません」
一方で、シャワーを浴びた後の「フィリップ・トルシエ」は全く違う人物だという。
「日本の文化を理解し、箸で食べ、社会に溶け込む努力をする。この平和で癒しに満ちた世界で融合することは、私にとって大きな喜びです」


通訳のダバディ氏も、当時の関係性を振り返る。
「私たちは一日中サッカーの話をしているので、フィリップがどんなメッセージを伝えたいか事前にわかっていました。雰囲気で訳すことが多く、雑誌の編集者のようにカットして、わかりやすくしていましたね」

1998年からの日本サッカー革命を目撃
トルシエ氏が日本代表監督に就任したのは1998年。当時の日本サッカーを、彼はどう見ていたのか。
「当時の日本は、非常にフィジカルで運動量の多いサッカーでした。選手たちはピッチで『死ぬ』ほど全力を尽くしていた。しかし、それは私が考えるサッカーとは違っていました。この運動量重視の姿勢を、より生産的なプレースタイルに変える必要があったのです」
トルシエは日本を去った後も、日本サッカーの進化を見続けてきた。
当時は中田英寿、稲本潤一、小野伸二といった限られた選手だけが海外でプレーしていたが、「今では100%の代表選手が海外でプレーしている」と驚きを隠さない。
「彼らは海外で経験を積み、国際的な環境に慣れ、競争の激しさを知っています。これこそが最大の進化です」

多文化国家フランスの「秩序を壊す」強さ
番組では「ライバル国を知る」シリーズの第3弾として、フランス代表の強さの秘密に迫った。
FIFAランキング3位、2度のワールドカップ優勝を誇る強豪国。その根幹にあるのは何なのか。
トルシエは迷わず答えた。「多文化性です」
フランスは過去の植民地政策により、多くの移民を受け入れてきた。現在、国民のおよそ10人に1人が国外にルーツを持つ。特にアフリカ系移民が人口の半数を占める。

「アフリカ系の選手たちは、組織の中で規律を守りながらも、個人の判断や創造性で『小さな混乱』を生み出します。私はこれを『秩序を壊すこと』と呼んでいます」
一方、日本については「より構造化され、予測しやすいチーム」と分析。
「それは相手にとって分析しやすいという欠点にもなり得ます」と指摘した。
栄光と挫折―フランス代表の光と影
フランス代表の歴史は決して順風満帆ではなかった。
1998年の自国開催ワールドカップでジダンが2ゴールを決めて初優勝を果たした後、2002年と2010年のワールドカップではグループステージ敗退という屈辱を味わっている。
興味深いことに、トルシエ自身が2002年大会後のフランス代表監督候補に挙がっていたという。

「当時、フランス代表監督の候補として私とドメネクが挙がっていました。最終的にドメネクが選ばれましたが」
ドメネクは就任後、前任のエメ・ジャケが築いた選手との親密な関係を一変させ、より厳格な規律を重視するスタイルに変更した。
「エメ・ジャケは選手との距離を縮め、人間関係を重視していました。しかしドメネクは組織を完全に変えようとした」
この変化は当初、選手たちの反発を招いた。慣れ親しんだ環境から、いきなり冷徹な上下関係へのシフトは簡単ではなかった。
ダバディはこの状況を日本と重ね合わせて語る。
「これは日本代表でザッケローニ監督からハリルホジッチ監督への変化と似ていました。親しみやすい関係から厳格な規律への転換。しかし、ハリルホジッチ監督が教えたデュエルや球際の強さなどが、後の西野監督時代の2018年ワールドカップでの活躍につながったのです」

デシャンが築いた新たな統合
そして2012年、フランス代表を再び頂点へと導く人物が現れた。現監督のディディエ・デシャンだ。
「デシャンは選手時代にフランス代表のキャプテンを務めた高いレベルの選手でした。彼は疑う余地のないオーラと権威を持っています。選手たちにとって『お兄さん』のような存在でありながら、同時に組織や基本戦術において非常に厳格です」
トルシエによると、デシャンは前任者たちの良い部分を統合した監督だという。
人間関係の重要性を理解しながらも、戦術的な規律を決して妥協しない。
この絶妙なバランスが、2018年ロシアワールドカップでの2度目の優勝をもたらした。

日本がフランスを破る可能性
番組終盤に最も注目すべき質問が投げかけられた。
「日本がワールドカップでフランスを破る可能性はあるのか?」
トルシエの答えは明確だった。
「カタールワールドカップでドイツとスペインを破った日本なら、すべてが可能です。今の日本は才能、規律、野心を兼ね備えています。私は日本を強く支持します」
フランスの強固な守備陣― コナテ、ランズレ、テオ・エルナンデスといった世界屈指のディフェンダーたちを相手に、日本の攻撃陣がどう立ち向かうか。

トルシエは久保建英や三笘薫ら日本が誇るオフェンス選手たちの名前を挙げ、「彼らこそがフランス守備を切り崩す鍵となる」と期待を込めた。
1998年から日本サッカーの発展を見続けてきたトルシエの目には、現在の日本代表がかつてないほど世界に近づいているように映る。
「日本は本当に良いポジションにいます。フランスが長年かけて築き上げた育成システムを参考にしながら、子供たちを最高の環境で育成する体制を整えています」
多文化共生によって「予測不可能性」を武器とするフランス、そして規律と戦術的完成度を追求する日本。
異なるアプローチで頂点を目指す両国の激突は、近い将来必ず実現するだろう。
そのとき、トルシエが日本に植えた種子と、その後20年以上にわたる進化の成果が、真の意味で試されることになる。
「日本はワールドカップを獲る準備ができている」―
元日本代表監督からの最高の贈り物が、この言葉だった。
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