
伊藤美誠 Photo:Itaru Chiba
女子日本のエース・伊藤美誠(スターツ)の「世界卓球2021ヒューストン」が終わった。
個人戦で行われた大会は現地時間11月29日に閉幕。伊藤は女子シングルスでベスト8、女子ダブルスは約2年半ぶりのペア復活となった早田ひな(日本生命)と決勝へ勝ち進み、銀メダルを獲得した。
「中国を倒して金メダル」が目標だった伊藤にとって満足できる結果とは言えない。とりわけ前回大会にあたる世界卓球2019ハンガリー決勝で負けた因縁の相手、孫穎莎/王曼イクペア(中国)に再び敗れた悔しさは隠せない。
準決勝で世界ランク1位の陳夢と銭天一のペアを破ったものの、「中国人選手に勝って決勝まで上がることができたことは自信になりました。ただ決勝で勝たないと、優勝以外は意味がない」と言い切った。
涙声で「自分の卓球を見失うシーンが多い」
いかにして中国に勝つか。そこに照準を絞り日夜練習を積む伊藤は、水谷隼(木下グループ)とペアを組んだ東京オリンピックの混合ダブルスで世界最強の許キン/劉詩ブン(中国)ペアを倒し金メダルに輝いた。
ところが、あれから約3カ月半後の世界卓球2021ヒューストンでは迷路に迷い込んでしまったようだ。
女子シングルス準々決勝で中国の王芸迪に敗れた直後には、「自分の卓球がわからなくなるときがあって、試合をやっていて苦しいみたいな、そういう感じがある」と胸の内を明かしている。
伊藤の試合を振り返ってみると、初戦の2回戦でアカシェワ(カザフスタン)にストレート勝ち。日本人同士の対戦となった3回戦はラリーに強い芝田沙季(ミキハウス)の猛攻を受けフルゲームに追い込まれたが何とか勝ち切った。
そして4回戦もタイの成長株スターシニーとの競り合いを制したものの、得意のサーブが何本か浮いてフリックレシーブされるなど、ゲームカウント2-4というスコア以上の辛勝だった。
「最終的に勝っても、あんまり勝っている感じがしなかった」と伊藤の表情は曇りがち。唯一、王芸迪との試合では少しだけ勝機を見出せたようだが、そのうち涙声になってこう続けた。
「(試合中の)調整の仕方が下手くそなのか。練習はやり込めているから自信を持って試合に出られるはずなのに、試合に入ると自分の卓球を見失うシーンが多くて。どうしてそうなっちゃうのかわからないし、どうやったら良くなるかもわからない。本当に(卓球は)難しいなって、最近すごく思います」

持ち味が発揮されなかった世界卓球2021
伊藤の強化の足跡をたどると、まず2016年リオデジャネイロオリンピックの翌年、ラリー戦に強くミスの少ない中国人選手に対抗するためフォアハンドとフットワークの強化に乗り出した。
その結果、彼女の特長であるバック表(ラケットのバック面に表ソフトと呼ばれるラバーを貼っている)が苦手とするバック側深くに来たボールに対し、素早く回り込んでフォアハンドで強打する技術を身につけた。
さらに東京オリンピックの代表争いが激しくなった2019年には著しくブロック力が向上。この頃「無敗の女になる」と宣言した彼女は、どんなに追い込まれた展開でも相手より1球多く返して凌いで勝つ「負けない卓球」を確立していった。
だが、これらの技術が奏功するのは本来の彼女の武器が前提にあってこそ。
例えばそれは多彩なサーブ・レシーブであり、表ソフトの特性を生かしたバックハンドのダブルストップ(相手が短くストップしてきたボールをストップで返す技術)やフリック(短く返ってきたボールを払うように打ち返す技術)などの台上プレーで先手を取ってこそなのだ。
世界卓球2021ヒューストンでは、そうした伊藤の持ち味がいまひとつ発揮されないまま真っ向からラリー勝負に挑んでしまった感がある。それは本人も認めている。
「今大会は自分が出来ることよりも、大会に向けて取り組んできたことで戦おうとしました。でもそれが自分を追い詰めたというか......。確かにラリーになっても大丈夫という自信は大事だし、やれることが広くなるのも大事なんですけど、やっぱり自分はサーブからの3球目。点数を取れるのはむしろそこしかないなと今回感じました」
自分らしさは「勝ちに行く卓球」
伊藤が取り組んできたこと。それは中国人選手に対し「相手に打たれるばかりじゃなく自分からも攻めていって、相手がミスしないように入れてきたときにまた自分が攻める。そうやって何本でも攻めながらラリーができるように準備をしてきた」と本人は説明する。
だが、ラリー主体のプレーは「やっぱり合わない」とも。そこには、ラリー力を磨くのは間違いではなく、場面によってはラリーで粘ることも必要だが、ゲーム序盤からラリー勝負に行くことはないという自戒が込められている。
これと同じような感想を持ったのが日本卓球協会の宮崎義仁強化本部長だ。
「(特に最初の3試合)サービスを横回転系で出すからストップレシーブはほとんど返ってこなくて、長いレシーブが返って来て長いラリーになる。最初から中国の得意な長いラリーで勝負してしまっている。なぜ相手にストップさせて台上でパンパンと打っていくパターンに持っていかないのか? 自分の一番得意なところを封印して戦うような戦い方になってしまっていると感じます」
伊藤はこれまで得意なプレーを生かす一方で、苦手な技術をひとつひとつ潰すように底上げを図ってきた。だがその両立は高い次元になればなるほど緻密で難解。伊藤も実感を込めてこう話す。
「これだけ練習をやり込んで、ちょうどいいところが見つからないって、相当難しい。でも、今は中国人選手と同じスタイルで戦い過ぎていて私らしくない。バンって大爆発しない。負けない卓球はだいぶ出来るようになってきたので、もともとの自分の良さである『勝ちに行く卓球』が必要だと感じています」
本日開幕した「WTTカップ・ファイナルズ2021」<12月4~7日>を欠場した伊藤の次戦は年明け「天皇杯・皇后杯2022年全日本選手権大会」<2022年1月24~30日>となる。
2019年以来、3年ぶりの女王奪還を目指す大一番で一際ブラッシュアップされたプレーが見られそうだ。
(文=高樹ミナ)

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