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Production Notes 】

■監督コメント

はじまりはこうだった。昨年の春、プロデューサーの利倉亮氏からプロットを手渡された。北海道の小樽を舞台にした流れ者のガラス職人とペットショップで働く若い女性のラブストーリー、利倉プロデューサーは犬の視点と何度も言う。長年、犬を飼ってたらしく、犬について熱く語ってくれる。幼少の頃から家畜の山羊や鶏は飼うがペットなんてもってのほかという農本主義の家庭に育った私はチンプンカンプンなのだ。しかし、利倉氏が犬に並々ならぬ愛情を注いでいることだけは分かった。何故か速攻で思いついた。犬が人間の男性になって女性に恋する話。

そしてイチからプロットを作り直した。

 脚本を作る過程でアメリカのアンダーグラウンド映画作家、スタン・ブラッケージが1960年代に作った『DOG STAR MAN』という、二十年前に見た実験映画を思い出した。コロラド山中の生活と宇宙が一挙にコマ撮りで展開するような叙事詩、その映画の中でシリウスという名の愛犬が死に、その死体が腐っていく過程が撮られたショットが今も記憶に残っていた。土に溶け込むように腐って行く死体、そして大犬座の星の名前、シリウス。土と宇宙が一気に相転移するようなイメージ、映画の方向が徐々に決まって行った。

 私は、役者さんを魅力的に撮りたいと、最近物凄く思っている。90年代の終わり、映画の中で死ということを常に考えていた。テーマについて考えていた。そして今、人間が確実に生きた、そこに存在した、そんな生の徴を映画に焼きつけたいという、シンプルな欲望が大きくなっている。幼稚園での庭のシーン、シローがハルカに「死んだ家族の人たちは幸せでしたか」と訊くと、ハルカが「多分、幸せ。幸せだったと思います」と答える。豊川悦司さんは「監督、ここで走っていいですか?」と尋ねてきた。「ハイ、構いませんよ」私はそう答えた。多分この時、私は豊川さんの真意を理解できていなかったように思う。井川遥さんの「幸せだったと思います」というセリフを受け、豊川さんは突然走りだした。「良かった。本当に良かった」そう言って。あー、犬だ。犬が喜んでいる。不覚にも私は思わず泣きそうになった。

 海辺でのハルカとシローの別れも想い出深い。「さようなら、ごきげんよう。明日も元気でごきげんよう」去って行くシローにハルカが絶叫する。何度かテストをしていくうちに井川さんは感情が入り過ぎてしまったためか、涙で溢れ、セリフも発語出来なくなってしまった。「休みますか?」そう訊くと、「いいえ、やります。やらして下さい」清々しくもきっぱりとした口調で井川さんは答えた。そして本番。映画中で最も好きな井川さんの表情がそこに残った。

 泉谷さんはシャイな人だ。荒ぶり悪役ぶるが心根は優しい。泉谷さんは御自身の撮影が全て終了してもしばらく現場にいた。「なんだ。これで、もう終わりかよ。使わないでもいいから何か撮ってくれ」笑いながらそう言った顔が忘れられない。「泉谷さんとだけはカラミ難いんですよ」そう言って火葬場のシーンに臨んでいたのは石橋凌さん、二人は何十年もの付き合いらしい。石橋さんが画面に登場すると非常に落ちつく。彼が裏から映画の主題を支えてくれたような気がする。犬のシローを主に演じた盲導犬のリタイア犬、ラブとのコミュニケーションのため、撮影前に足繁く盲導犬センターに通ってくれた。盲導犬と一緒に死体として地面に横たわるシーンでは一分近く息を止め続けてくれた。またも不覚にも、じっと動かない二つの死体を一分近くも撮影し続けてしまった。死体となり地面に横たわるラブと石橋さんを見続けていた
瞬間、死ねば土となる生き物、その頭上の宇宙では星、その感慨が一気に押し寄せた。


豊川悦司コメント

シローを演じていた時、「無垢なる存在」という言葉が常に頭の中にあった。
心掛けたことは、ただ走り続けることと、井川遥さんを愛し続けることだけだった。

それをシンプルに表現できれば、一匹の年老いた盲導犬に近づける気がした。
疲れることを知らず、走り続ける。愛されることを求めず、愛し続ける。
今の自分にはとてもできないことを、シローという役は僕に要求してきた。
かつてはお前もそうだったろうと、その犬は問いかけてきた。
どれだけ近づけたのかはわからないが、一生懸命走って、一生懸命愛してみた。
答えは、この映画を観てくれた人々が出してくれる。
そしてその人達も僕と同じ様に、いつのまにかできなくなってしまったものを思い出すに違いないと、確信している。


井川遥コメント

2001年の夏は私にとって忘れられないものになりました。2001年夏、私は生まれて初めて映画作りに参加しました。それも2本も。慣れない事の連続に毎日が驚きとショック、不安でいっぱいで振り返るとただただ必死に毎日を送っていたという感じでした。『DOG STAR』は2本立て続けに撮った映画の2本目、1本目の映画を撮り終えてすぐ間をあけずにスタートしました。正直に話すと、最初はかなりとまどいを感じました。もうすでにクランクインしている現場がどんなものか想像もつかないまま途中参加し、3日前まで撮っていた1本目の映画の役柄を引きずったまま現場に入りました。何だか自分のペースがつかめずに不安をかかえつつも感情的になるシーンを撮影し、監督には『もっとボロボロになって』と言われてもそこまでのテンションに持っていけない自分にいらだっていました。そんな時というのは冷静に自分を見ている自分がいなくて、それが『ボロボロになって』という監督の意図を理解できていなかったのではないかと思います。それが豊川さん演じるシローとの最後の別れのシーンで、『もう、今のこの瞬間じゃないと!』と感情がピークに達する感覚の瞬間があり、真っ白になって演じた時がありました。

映画が仕上がって試写会で『DOG STAR』を観た時、初めて監督から私が言われてきた事、『エンジンがかかるのが遅い』『感情のその瞬間の瞬発力』『集中力』そういったひとつひとつの事柄を冷静に理解する事が出来、そういう作業をして行く事がこれからの課題だと感じました。

映画を撮り終えてみて、今までの私にとって映画というのはただ『憧れ』であり、ただ『やってみたい』と漠然と考えていたに過ぎなかったと言うことに気づきました。それは映画を作っていく段階は井川遥という1人の人間が別の人格になるという事、そしてその人格と同じ感情を持つという事、そしてそれはつまり自分自身と向き合うことなのだと思います。その作業を積み重ね現場ではその役の人として立っている豊川さんに私も今後少しでも近づけたらいいなと思いました。


Puppy Walker】

パピーウォーカーについて・・・・・

盲導犬は、ブリーディングウォーカー(繁殖犬ボランティア)の協力の下で誕生し、生後約2ヶ月頃にパピーウォーカーと呼ばれる仔犬育成ボランティアの家庭に預けられます。そこで愛情たっぷりに育てられ、将来盲導犬になったときに求められる必要な社会性を身につけ、基本的なしつけを受けます。1才までパピーウォーカー宅で育てられた盲導犬の候補犬達は、その後訓練施設に入所し、2才くらいまで訓練を受け、適性があると判断された犬だけが最終的に盲導犬となります。

 盲導犬になってからは約8年間、犬が10才を迎える頃まで盲導犬ユーザー(使用者)と共に暮らし、眼の代わりとして働きます。10才くらいになり、引退の時期を迎えた盲導犬は、その後リタイアウォーカーと呼ばれるボランティア家庭に引き取られ、のんびりとした余生を送るのが一般的です。

 盲導犬は、パピーウォーカー、訓練士、ユーザー、リタイアウォーカーと、何度か主人を替えていくことになりますが、いつも人の愛情に接しており、人と仕事をすることが好きな犬なので、犬としては幸せな一生を送れるものと思います。今度盲導犬を見たときには、よく尻尾を振っていることを確認してみてください。

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