|
|

 |
鏡の前で、身づくろいを整えるひとりの女。無造作に肩まで伸びたブルネットの髪、淡いベージュの上っ張りにグレーの厚地のスカート姿の彼女は、決して美しいとはい
えない。そして、最後に耳に補聴器をつける。まるで、外界のありとあらゆる幸福を 一切、拒絶するかのような頑なさをその表情ににじませて。
彼女カルラ(エマニュエル・ドゥヴォス)は35歳独身、土地開発会社に働くOLである。彼女の日常は、もっぱら電話交換や書類整理、アポイントメントの確認といった雑務で忙殺されている。社員食堂でもファッション雑誌だけが友だちという、しかし孤独な彼女の胸中を慮るような者は、社内には誰もいない。
そんな得もいわれぬストレスと日々の仕事の重責からだろうか、ある日、カルラは抑 えきれない眩暈を覚え、仕事中に社長の目前で卒倒してしまう。
こうして、社長から「アシスタントを雇うように」と命じられたカルラは、職安で
「25歳の男性を」と求人広告する。「愛想が良く、背は高からず、そして手のきれいな」と、まるで新聞に恋人募集の広告を出すように。さらに彼女はいささか顔を赤らめながら、こう付け加えた「……感じのいい人を……」。もしかしたらそれは、年下の男を自由に扱き使いたいという、下心もどこかにあったのかもしれない。
カルラには唯一無二といってもいい女友達アニー(オリヴィア・ボナミ)がいた。アニーには夫と生まれたばかりの子どもが居る。彼女は我が子をベビーシッターよろしくカルラに押し付けて、ボーイフレンドとの不倫の逢びきに出かけてゆく。時には、カルラの部屋が情事の場となることも少なくなかった。アニーはセックスに関して能動的だ。彼女の大きく開かれたニットの胸の谷間を盗み見ながら、カルラは底知れぬある種の感情を抑えている。
そんな彼女の前に現われたのが、ポール・アンジェリ(ヴァンサン・カッセル)だ。
長身の痩身体躯に、ボサボサと粗雑な長髪、だらしなく口髭をたくわえ、さらに左手の袖からは十字架のタトゥーがのぞく。手だって、決して綺麗ではない。そんないか
にもアブナイ男を、しかしカルラは雇ってしまったのだ。最初はバイク便の男と見間違ってしまうくらい、求人広告の理想とは程遠い男。けれどそんな想像もしていなかった男の突然の登場に、カルラは言いしれぬ興味と好奇心を抱いたのだった。だからカルラは彼の正体が、刑務所から出所したばかりで、週一度の保護監察が義務づけられているケチのついたチンピラであることを知っても、さほど動揺することはない。その翌日から、カルラの仕事に対するポールへの厳しい指導が始まった。
|