日経スペシャル「ガイアの夜明け」 1月5日放送 第398回 新春拡大版 電気自動車ウォーズ ~ガソリンから電気へ 革命が始まる~
2009年――。世界の自動車メーカーは、歴史的な大動乱の波に巻き込まれた。 GM破たん、VWとスズキの提携、台頭する中国・インドのメーカー・・・。リーマンショックを引き金に、世界の自動車メーカーの勢力図は大きく様変わりを始めた。その本質は何か?ガソリンを燃料にした車の時代が終わり、新たな覇権争いが号砲を告げたのだ。地球環境保護、CO2削減が叫ばれる中、勝敗を決するカギとなるのが、電気自動車などCO2を出さない「エコカー」の開発競争だ。このエコカー開発の戦略の優劣が、メーカーの命運を決める。2010年――。エコカーの一角として注目を集め、世界的な普及が始まるのが、電気自動車だ。電池とモーターという、シンプルな構造で走る電気自動車をめぐり、大メーカ-・新興メーカ-が水面下で開発競争を展開している。そして、動力となる電池を製造するためのレアメタル、リチウムを獲得しようと、地球の津々浦々で世界の商人たちが走り回っている。なぜ、世界の自動車メーカーは「脱ガソリン」を選択しなければならないのか?世界の産業やエネルギー開発はこれからどう、変わっていくのか?そして大きな変革に直面した日本企業は、日本人はどう立ち向かっていくべきなのか?世界各地で始まった「電気自動車ウォーズ」を追跡。2010年、人類が経験する異次元の覇権争いの序章をドキュメントする。
アメリカ・シリコンバレー。ここで6年前に創業し、アメリカの電気自動車分野の先頭を走るベンチャー企業がある。名は「テスラ・モーターズ」。電気自動車スポーツカー「ロードスター」は最高時速200キロ、一回の充電で350キロ以上走行することができる。価格は1000万円。すでに500台が完売。注文は世界中からやってくる。工場はショールームの裏にあるガレージ。英メーカーから輸入した車体に、バッテリーシステムやモーターを組みつけるだけ。しかもそのバッテリーの中に入っているのは、ノートパソコンに使われている電池だ。スタッフは言う。「シリコンバレーのパソコン技術を詰め込んだ車さ」テスラを率いるのは、イーロン・マスク会長37歳。ネット決済システムのペーパルを創業し、後に売却して巨万の富を得た人物。テスラだけでなく、宇宙ビジネスも手掛ける異才だ。「時代は変わりつつある。ビッグ3にとって大きな課題は将来を認識し、適応し、迅速にすること。過去にしがみついていてはだめ。それができなければ自動車の聖地はシリコンバレーに移る可能性もある」意気軒昂な新興メーカーが2010年繰り出す新戦略、これに対し既存の自動車メーカーも着々と次世代戦略を進めていた。
「この車で新しい車の時代を開く」---来年後半に日米市場に投入する電気自動車「リーフ」を公開した日産カルロス・ゴーン社長。トヨタ、ホンダがハイブリッドをエコカーの本命とする中で日産は電気自動車を本命の旗に掲げた。2012年までに世界で30万台規模の量産体制を作ることを目標に置く。まさに、企業の浮沈をかけた大きな決断だった。現在、電気自動車の試作車はほぼ完成。今後は量産してもレベルを維持できるかの最終調整が続いている。ガソリン車と比べ、構造も部品も組み立て方も何もかもが異なる上、耐久性なども未知数だ。開発陣の苦闘が続く中、日産が描く将来図はクルマそのものだけではない。最大の課題がインフラ整備だ。駐車場や路面を走るたびに充電するシステムには、太陽光から電気を作り、充電するという構想もあり、エネルギーメーカーと共同で研究を進めている。こうした取り組みを進めるべく、横浜市をはじめ、米国や中国など約40の国や企業などとインフラ整備に関する契約の検討を進めている。また、電気自動車への関心がそれほど高くない国などに試作車を持ち込み、トップセールスを試みるなど、業界の基準を狙う動きも加速させている。電気自動車開発に舵を切った、巨大メーカー。新たな覇権争いの号砲が鳴った。
携帯電話やパソコンに使われるリチウムイオン電池。何度でも繰り返し充電できるこの電池の原料に使われるのがリチウムだ。リチウムの使用量は、一般的に携帯電話が5グラム、ノートパソコンは14グラム。ところが、電気自動車は約14キログラムと圧倒的に多い。リチウムはレアメタルの1つ。資源小国の日本は100%輸入に頼っている。一大生産地は南米。世界の埋蔵量を見るとボリビアに47.3%、チリに26.3%眠っている。日本の輸入はチリから79.1%。現在、日本のリチウム生産は南米経由がほとんどだが、ここにきて、「脱南米」として急速に注目を集めているのが中国だ。東京のマンションの1室にオフィスを構える、上海弘塩貿易。山本哲也社長(51歳)と長男の識鎮さん(24歳)と親子2人で切り盛りするレアメタル専門の貿易会社だ。マグネシウムやリチウム、インジウムなど20種類を扱う。年商はまだ3000万円程度。かつては、中古車ディーラーで働いていた山本さん。この会社が中国で中古車の輸出を始めるのに合わせて中国に渡った。そこで異業種への転嫁を図るべく、鉱物資源の会社に乗り出したのだった。中国奥地には、知られざるリチウム資源が眠る大地がある。山本さんは中国企業とタッグを組んで、日本の大企業を相手に大きなビジネスをもくろんでいた。新たなマネーが動き出すのか?電気自動車ブームで踊る“リチウム商人”を追跡した。
日本と同じく資源に乏しい、北欧の小国・デンマーク。ここに世界中の企業が 訪問し、注目している世界初のある「実証実験」が進行中だ。それはバルト海に浮かぶ、デンマーク領・ボルンホルム島。島は人口4万人。淡路島と同じくらいの島だ。ここに、ところ狭しと並ぶ風力発電機。デンマークは、電力供給の20%を風力発電でまかなう。この島にも30基の風力発電機が配置され33%もの消費電力を賄う。この島で行われている実験。それは2011年までに全島のエネルギーすべてを「風力」でまかなうという、壮大な実験だ。その際、大きな役割を果たすのが、風力発電機もさることながら、「電気自動車」なのだという。北欧の小国で始まった、世界初の実験。それは、電気自動車の開発だけに留まらない、大きなエネルギー革命の可能性を秘める。CO2の25%削減を掲げる日本。デンマークの取り組みは、将来取り組むべきヒントを示している。