丸山城志郎と阿部一二三。運命的なライバル物語の最終章、東京オリンピックを賭けた最後の戦いまでの記録

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2020.12.21


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そこに秘められたドラマをあなたはまだ知らない

男には妻がいる。支え続けてくれた妻に勝利を見せたい。

男には妹がいる。一緒にオリンピックに出て一緒に勝ちたい。

丸山城志郎と阿部一二三。
東京オリンピックを賭けた最後の戦いへ挑む、両者の足取りを追った。

【試合動画】丸山城志郎 対 阿部一二三|東京2020オリンピック柔道男子66kg級日本代表内定選手決定戦

兄妹同時金メダルを目指す、阿部一二三

オリンピックイヤーの幕開け、そのはずだった今年1月。初詣に出向いた阿部一二三の隣には同じく柔道選手、妹の阿部詩がいた。
目指す伝説、東京オリンピックの兄妹同時金メダルへ、願いはひとつだった。

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ライバルの前、一度は崖っ淵に追い込まれた代表争い。負ければ終わりという去年11月の直接対決で阿部は執念の勝利。66キロ級の代表争いを白紙に戻した。

得意の背負い投げはすさまじいまでの威力を誇る。上昇気流に乗ったのは3年前。当時二十歳の阿部は初めての世界選手権を勝ち抜く。金メダルとともに、東京オリンピックの星という呼び名を手にした。

妹も世界選手権の覇者。東京での兄妹同時金メダルが達成されれば、まさに伝説となる。

二十歳の夏に初めて世界王者になり翌年連覇した阿部。だが、あと一歩に苦しみもがいた時期もある。
期待の新鋭と認められ、リオを目指した高校時代。しかし夢は破れる。66キロ級、日本代表に選ばれたのは自分ではなかった。高校柔道界では無敵だったが代表選考は勝ち抜けなかった。

この時、運命的なライバル物語が既に始まっていたことを阿部はまだ知らなかった。
リオへの道が閉ざされた試合。この試合で阿部に巴投げを決めた選手こそ、東京への切符を争う丸山城志郎だった。

3年後、運命は再び交錯する。
世界選手権を連覇した阿部は3ヶ月後の国際大会で丸山と対戦。阿部の黄金時代は固まったと見られていたが、ここで再び3年前と同じ、丸山得意の巴投げで阿部は破れ、絶対王者の称号は失われる。

追われる側だった阿部は丸山に3連敗。東京オリンピックへの争いで、追う側に回る。
ついに逆転した二人の立場。

丸山城志郎、我慢と忍耐を貫いた柔道人生

阿部の黄金時代。その輝きに隠れていた男・丸山城志郎。これまでも我慢と忍耐を貫いた柔道人生だった。

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子供のころは先を行く兄に何をしても負けの連続。強い自分を夢見続けながら、食らいつくしか道はなかった。

大怪我も経験している。二十歳、試合中に左膝のじん帯を断絶し選手生命の危機に立たされ1年以上畳を離れた。だが丸山は諦めなかった。過酷なリハビリを乗り越え、奇跡の復活を遂げ「さぁこれから!」という時、阿部一二三が現れたのだ。

悔し涙を流した数は数えきれない。
「俺は2位になるために畳に戻ってきたのか?」
そう思ったことすらあった。しかし、ある出来事が心の炎を再び燃え上がらせてくれた。

それは結婚。遠距離恋愛を実らせ2年前にゴールイン。孤独な戦いが一人の戦いではなくなった。
妻と二人三脚で挑んだ世界選手権。東京オリンピックの代表選考に大きく影響するこの大会で、丸山は宿敵阿部を下し悲願の世界選手権初優勝を遂げた。

自分はもう2番目の男じゃない。東京オリンピックまであと一つ。
だが大一番を前に、体は悲鳴を挙げていた。世界選手権で痛めた右膝から痛みが引かない。

去年11月、迎えたグランドスラム。今だから明かせるが膝の怪我は重く一時は欠場も頭をよぎったほどだった。振り返れば、そう思ったことが、隙につながったのかもしれない。ここで丸山は敗れてしまった。

こうして2020年に持ち越された代表争い。どちらが出ても東京オリンピックの金メダル最有力候補であることは間違いない。

運命の12月13日

丸山城志郎と阿部一二三。
あの日から交わり始めた2本の糸。運命は二人に交互に微笑んできた。勝つのは一人。

オリンピックへの切符は一枚しかない。

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12月13日、講道館大道場で行われた丸山城志郎と阿部一二三の直接対決は、24分という長丁場の末、阿部が優勢勝ちを収め、五輪代表に内定した。

試合後、丸山は潔く敗北を認めた上で、「まだ俺の柔道人生は終わっていない」と前を向いた。

一方勝った阿部は「すごく長かったと思うけど、1シーンも忘れられない闘いになりました」と涙を流していた。