【第2弾】ビラス・ボアス監督と林舞輝がサッカー最先端戦術論<戦術的ピリオダイゼーション>について語る

サッカー

2021.1.22

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世界有数の監督と知られ、長友佑都と酒井宏樹が所属する、フランス・マルセイユの監督を務めるアンドレ・ビアス・ボアス(43)に、日本のテレビ局として初の単独インタビュー。

聞き手はアンドレ・ビラス・ボアスと同じく、世界最高の監督とも言われているジョゼ・モウリーニョのもとで指導者としての知識を学ぶなど、日本サッカー界期待の指導者、林舞輝氏(26)。

2人の対談、第2弾は超貴重!ここでしか聞けない戦術論。互いにサッカー最先端理論・戦術的ピリオダイゼーションを熟知し、その2人だからこそ話せるチーム作りや戦術を語った。

※この対談は昨年の12月に行われたものです。アンドレ・ビラス・ボアスを「AVB」、林舞輝を「林」と省略します。



対談の前に...予習

・戦術的ピリオダイゼーションとは

1980年ポルトガルのヴィトール・フラーデが提唱。サッカーを学問として捉えた先鋭的な理論で、従来のフィジカルコンディショニングのためのピリオダイゼーションに、各チームのプレー原則やゲームモデルなどの戦術的要素を組み込んだ「意思決定」の統一による「チームシンクロ」を目指すトレーニングメゾット。

・ゲームモデルとは

戦術的ピリオダイゼーションを理解する上で最も重要かつ選手がいかなる状況、いかなる瞬間でも全員が同じようにその状況を解決するための模型のこと。例えるなら「試合」という大きな建築を建てる上での設計図であり、模型のこと。

・プレー原則とは

選手がゲームモデルを理解し表現できるように可能な限りクリアでよりわかりやすいコンセプトとして噛み砕いたもの。「攻撃」・「守備」・「攻→守の切り替え」・「守→攻の切り替え」の各局面に、ゲームモデルに基づいた「行動規範」を選手に与えること。

参考文献:林舞輝著【「サッカー」とは何か】戦術的ピリオダイゼーションVSバルセロナ構造主義、欧州最先端をリードする二大トレーニング理論

アンドレ・ビラス・ボアス氏と林舞輝氏の対談

林:僕も戦術的ピリオダイゼーションを学びたくてポルト大学に行ったので、そこを掘り下げたい。

AVB:大切なのは作戦やゲームプランを立てること。すなわちどういう意味かと言うと、システムは変わっていく可能性がありますが、選手がどのように動いてほしいのかはちゃんと確立していかないといけない。それはオフェンスもディフェンス、システムなど様々な要素がある。

すなわち自分なりのゲームプラン、ゲームモデルを作らなければならない。それをコーチとして書いていない、考えているけど書いていない人が多い。私はそれを正確に書き出すべきだと思います。

そうすればチームとしてどういう動きをさせたいのかハッキリする。それによってトレーニングメニューも組みやすい。トレーニングもトレーニングのためにやるべきではなく、勝つためのトレーニングをすべきです。

その次が戦略、これは私が一番楽しんでいるところ。敵がどう動くか分析し、それに対してどうするか。

例えば、相手のセンターバックがどういう動きをしていたかを分析する。一番パスを出している相手はどこなのか、もし一番パスを出している相手がサイドバックならプレッシャーをかける基準点になる。

それが非常に上手く行ったのが12/12のモナコ戦(〇2-1)。ASモナコのプレスは3枚のフォワード、次に3枚のミッドフィルダー。実際には1人のフォワード側に付くので、4人のフォワードになる。

そこに2人のミッドフィルダーを含む6人のプレスがかかってくる。我々はその6人のプレスを、相手CBと前に出てくる中盤の間のスペースに落とす中距離のロングパスを出すことで無効化できた。

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相手のプレッシャーに対して、我々の前線(FW)へのロングパスまたはショートパスで即座に対応できた。だからこそ前半15分で2点取ることができた。大事なのは試合のプレー原則やゲームモデルを確立すること

林:ゲームモデルやプレー原則について2つ質問があります。

1つはポルトガルやイングランド、今はフランスでやられていますけれど、ゲームモデルやプレー原則は国やチームごとで変えているのか。もしくはどの国・どのチームに行っても変えていないことは?

AVB:ポルトやチェルシーはポゼッションが強いのでポゼッション型4-3-3のシステム。トッテナムではカウンター攻撃でトランジションを重視、ゼニトでもFWが非常にスピードが速いのでトランジション重視になりました。マルセイユでもトランジション重視。

なぜかと言うと、リーグ全体がトランジション重視。カウンター攻撃に対してトランジション。

マルセイユで初めてダイヤモンド型の4-4-2をやりました。このシステムが機能したことがよく分かりましたので、それに対してゲームモデルやプレー原則を解析しなければならない。ダイヤモンド型の4人に合ったゲームモデルやプレー原則が必要になる。

林:例えば僕もダイヤモンド型の4-4-2をやったことがあるのですけれど、その時は昨季のシャルケ04(ドイツ)の4-4-2の映像を見ました。ダイヤモンド型の4-4-2で試合をしていた。

なので、参考にしているチームを探したりしたのか、もしくはモウリーニョのFCポルトは4-4-2のダイヤモンド型でやっていたり、もしくはモウリーニョのインテルも4-4-2のダイヤモンド型でやっていたり、昔の経験に基づいてやっているのですか?

AVB:動きとしては4-4-2はどのチームでも共通の動きがあるので攻撃においてサイドバックが攻撃に参加するべきだし、またMFがサイドのディフェンスをする必要がある。

ダイヤモンドの形を様々な形に動かして迅速にシステムをチェックし、スタッフとともに検討しました。インターナショナルウィークがあったので十分な時間がなかったので、15日間でそのためのトレーニングも行いました。

参考にするのはもちろんおっしゃったような他のチーム。でも今ヨーロッパでダイヤモンド型の4-4-2のチームは多くはない。その中でドイツのチームやオーストリアのレッドブル・ザルツブルク、ここにはジェシー・マーシュ監督がいるので、非常に参考になります。

※オーストリア・RBザルツブルグ監督 ジェシー・マーシュ。ハーランド(ドルトムント)や南野拓実(リバプール)を指導。将来を嘱望されるアメリカ人指導者。

AVB:あとはヴォルフスブルクもあります。ドイツやオーストリアで4-4-2のシステムを取っているチーム参考にしてみてください。

その上で自分達と同じシステムのチームと比較してみる。その中で同じプレー原則なのかどうかを見てみる。そこでプレー原則の確認の意味合いが強く、長所を意識する。しかしそれだけではなく、大切なのはなにが弱点か検討すること。

林:ダイヤモンド型の4-4-2をやろうとしたきっかけは?プレー原則やゲームモデルを達成するためにこのダイナミクスがいいと思ったのか、選手の個性を見てこれが合うと思ったのか。

AVB:後者です。それはチーム事情というか一人一人の選手を見て判断した。

なぜかというと、その時のチーム事情でウィンガーが出場停止を受けて何試合か出れなかった。あと、その時中盤の2選手の獲得が大きかった。戦い方として強いウィングを持つより非常に濃い中盤の選手が増えてきて、真ん中を強くするという意味合いでダイヤモンド型にしました。



林:ゲームモデルについてどうしても、もう一個だけ聞きたくて。

ゼニトやマルセイユにいる時、国内では自分たちが有利でボールを持てる。だけど、チャンピオンズリーグに出たらゼニトより格上の相手がくる。マルセイユも国内では格上なはずなのに、チャンピオンズリーグではマンチェスターシティのようなさらに格上の相手とやらなければいけない。

そういう時にゲームモデルを変えるのか、それとも変えないのか。なぜかというと、日本代表も同じようにアジアでは格上という立場で、相手は低いブロックで設定して守備的でディフェンダーの枚数を増やしている。

だけどW杯では日本は格下になる、全く違う戦い方をしなければならない。それはゼニトでも国内では強いけれどヨーロッパでは弱い立場になる。全く別の戦い方をしなければいけない、日本代表も同じようになっている。

AVB:ゼニトでチャンピオンズリーグでポゼッションのFCバルセロナと戦う。その中で調節しなければならないものはある。ゲームモデルやプレー原則も柔軟なものでなければならない。

例えば、マルセイユでは昨年、4-3-3でアグレッシブに非常にプレッシャーをかけて戦いました。ですがチャンピオンズリーグでは低いブロック、狭いスペースで戦うことを要求される。プレシーズンマッチでバイエルン・ミュンヘン(●0-1)と対戦。負けましたが非常に良い試合でした。

(今季チャンピオンズリーグで同じグループの)マンチェスター・シティやヨーロッパの強豪に対して国内と同じようにやってしまうと当然負けてしまう。少ないスペース、低いブロックで戦えるようにしないといけない。

林:ゲームモデルやプレー原則は相手によって変えるべきではない?

AVB:そうですね。

システムとかは試合によって構造的な考えとして変えていきます。チームとしてプレー原則に基づいて何をしたいか、どういうディフェンスをしたいか考え方は相手によって変えるべきではない。

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対談を終えた林舞輝氏の感想

ゲームモデルと相手に対する戦略とか、CLと国内リーグではレベルが違う中、どうやりくりするのかというところは、考えていたアイデアとすごく似ていたし、そうだよね。って思ったところがあったと同時に、逆に学んだところも多かった。

ビラス・ボアスがこんなに話したのは初めて。4-4-2のダイヤモンドをなんでやったのかとか、選手によって変えるんだとか、そうだよな~って。変えたことないんですよね、ゲームモデル。

自分でやってみて、その感覚もよくわかった。自信というか、なんで4-4-2のダイヤモンドに変えたのかなって想像できて、それが合ってて。

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例えば、僕がゼニトでチャンピオンズリーグ出た時に国内だったら無敵だけれど、海外に行ったら格下です。みたいな時に、どうやってチーム作るかなと考えた時、アイデアが一致したので。

例えばシステムとかは変えるかもしれないけれど、ゲームモデルやプレー原則とかは意思決定基準は変えない。

その中でどういう風にするか、相手と噛み合わせてとういう戦術・システムを選択するのかは良い意味で予想してきた答えが返ってきたし、それは自信というかそうだよなって思った。

4-4-2のダイヤモンドにした時はいろんな試合を見たって言ってましたけれど、そうだよなって。ドイツは4-4-2が多いとか。

昨年シャルケ04とヴォルフスブルクの試合を見た。ライプツィヒとかザルツブルクは運動量が凄すぎてこれは無理だなと。シャルケ04は4-4-2のダイヤモンドのシステムを使って負けていた。

要はさっき何が弱点か、システムの弱点を見つけろって言ってましたけれど、そういった4-4-2のダイヤモンドを使って上手くいっていないチームを見ると、こうやったらうまくいかないよなっていうのがすごく見えるからそれを参考にしていた。



【第3弾はアンドレ・ビラス・ボアスと林舞輝の<指導者としてのルーツ>に迫ります!】