【天皇賞・春】ジャスティンパレスが優勝!新時代到来を告げる漆黒の王者

第167回 天皇賞・春をジャスティンパレスが優勝 写真:東京スポーツ/アフロ
「新しい京都での天皇賞ですから、勝つことができて本当にうれしいです」――優勝騎手インタビューでクリストフ・ルメールはどこか感慨深そうな表情を浮かべながらそう答えた。
改修前の京都競馬場で行われた3年前の天皇賞(春)は新型コロナウイルス感染症対策で無観客開催での一戦に。この時のルメールはフィエールマンを駆り、スティッフェリオとの激闘を制して連覇を飾ったが、歓声が上がらない無人のスタンドに少しばかり寂しさを覚えたのかもしれない。
あれから3年。京都競馬場のリニューアル工事が完了し、3年ぶりに春の盾が淀に戻ってきた。そして生まれ変わった京都競馬場で行われる天皇賞(春)を一目見ようと、大勢のファンが競馬場に帰ってきた。パドックに集まった鈴なりの観客たちを見て、ルメールは何を思っただろうか。
そんなルメールが今年の天皇賞(春)でタッグを組んだのは、ジャスティンパレスだった。
デビュー時から手綱を取って2連勝を飾り、クリスチャン・デムーロとタッグを組んだホープフルSでは2着とクラシック候補生として期待されたホープだったが、3歳春の皐月賞、ダービーともに9着に惨敗。
秋になってからは鮫島克駿の手綱で神戸新聞杯を制し、菊花賞でも3着に食い込み盛り返したが、トム・マーカンドと挑んだ有馬記念では7着止まり。2歳時のような輝きは取り戻せないでいた。
だが、有馬記念を終えてからのジャスティンパレスは冬を越えると急成長。450キロそこそこという小柄な馬体は逞しくなり、4歳緒戦となった阪神大賞典は有馬記念当時からプラス16キロの472キロとなっていた。
2歳時とはまるで別馬というほど、立派になったジャスティンパレスと久々にタッグを組んでこのレースを制したルメールは「大人になってパワーアップした」と、ジャスティンパレスの成長ぶりに目を細めた。
「長い距離でトップレベルになれる」と、インタビューで語っていた通り、阪神大賞典の勝利でルメールは天皇賞(春)制覇を強く意識したに違いない。絶対王者であるタイトルホルダーのいる天皇賞(春)を。
新装された京都競馬場で最初に行われるためか、久々にメンバーが揃った印象があった今年の天皇賞(春)。史上6頭目の連覇がかかるタイトルホルダーに充実一途の4歳馬がどう立ち向かうかというのが戦前の下馬評で、単勝オッズもタイトルホルダーが1番人気に支持され、2~4番人気を4歳馬が占めるという構図になった。
その4歳馬たちの中で最も人気を集めたのがジャスティンパレスだった。菊花賞で先着を許したアスクビクターモアやGⅠで2度2着に入っているボルドグフーシュよりも人気に推されたのは少々驚いたが、パドックで成長著しい彼の馬体を見たファンたちは彼を支持した。
実際、大勢のファンが集まったためイレ込み気味でパドックを周回する馬も多い中、堂々と闊歩していたのは王者の風格を漂わせて周回するタイトルホルダーとこの馬だけだった。
迎えたレースではいつものようにタイトルホルダーが指定席の先頭に立とうとするところに外からアフリカンゴールドが押し寄せ、先頭を奪うという意外な展開に。
普段と違う位置取りを余儀なくされたタイトルホルダーだったが、ホームストレッチから2周目に入るところで先頭を奪い返したが、悠然と構える様子のいつもとは違い、どこか窮屈そうに走っているようにも見えた。
一方のジャスティンパレスはというと、中団の7~8番手を追走。これまでルメールが手綱を取った3戦はいずれも2~3番手から早めに抜け出すという形で結果を残していたが、今回はこのレース2年連続2着のディープボンドを見るような形に。
長くいい脚を使えるというこの馬の武器を生かすべく、仕掛けどころを待っているようにも見えた。
そして京都名物である3コーナーの上り坂に差し掛かった時、スタンドが大きくどよめいた。それまで先頭を走っていたタイトルホルダーが失速し、先頭をアイアンバローズらに譲ってしまったのだ。
史上6頭目となる春天連覇を目指していたタイトルホルダーの突然の失速はファンだけでなく一緒に走っている16頭の人馬にも大きな衝撃となったはず。
レース後の診断では右前肢の跛行が判明し、幸い命に別状はなかったが......単勝1.7倍に支持された絶対王者はゴールを迎えることなく、競走中止というレースを終えてしまった。
このアクシデントで悲鳴が上がった京都競馬場。迎えた最後の直線、先頭に立ったのはディープボンドだった。
思えば3年前の菊花賞でも4コーナーを先頭で回り、ここ2年の天皇賞(春)でも2着に入った当代屈指のスタミナを誇る6歳馬が悲願の春天制覇に向けてひた走るが、それを外から差してきた馬がいた。
ルメールとジャスティンパレスだった。
直線を向いてすぐに先頭に立ったディープボンドを外から並ぶ間もなく差して先頭に立つと、あとは後続馬たちの追撃を受けるといわんばかりの走りに。「長くいい脚が使える馬」というルメールの評価を証明するかのように一歩、また一歩と脚を伸ばしていく。
最後の力を振り絞らんとばかりにディープボンドが粘り、外から猛然とシルヴァーソニックが追いかけてきたが、グングンと力強く疾走するジャスティンパレスには届くことはなく、そのままゴール。眩いばかりの光を放った上り調子の4歳馬、ジャスティンパレスが天皇賞(春)を制した。
京都競馬場改修前、最後に行われた天皇賞(春)を制して以来、3年ぶりに春の盾を掴んだルメールはレース後のインタビューでジャスティンパレスをこう評してマイクを置いた。
「長距離でのスーパーホースになりました!」
これから新たな名勝負を紡ぎ出していくであろう、京都競馬場で最初に行われた天皇賞(春)を制したジャスティンパレス。その漆黒の馬体で今後、多くのビッグタイトルを手にすることだろう。
■文/福嶌弘