能代工業高校バスケットボール部 バスケ界に燦然と輝くその名が消える日、一時代の終わりを見届ける

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2021.3.9




そこに秘められたドラマをあなたはまだ知らない

「必勝不敗」

世に「最強」は数あれど、こと高校バスケットボール界においてこの学校こそ「最強」と呼ぶにふさわしい。

秋田県立能代工業高校バスケットボール部。

秋田の北部、冬の寒さも厳しい人口5万人にも満たない小さな町から生まれた栄光の金字塔。手に入れたタイトル数は実に58。部員たちは、この「能代工業」の名を汚さぬよう「常勝」という名のバトンを繋いできた。

だが、その名が、今年度をもって消える事に...。能代西高校と統合し、2021年4月から「能代科学技術高校」へと生まれ変わる為だ。常勝軍団の象徴ともいうべき学校名が消える。その歴史の節目を見届けたい。我々の取材はこうして始まった。

能代工業を率いるのは、就任3年目の小野秀二ヘッドコーチ。ここ最近は県予選で敗退するほど低迷していたチームを全国優勝が狙えるレベルにまで押し戻した。

伝説のOB・田臥勇太

能代工業の原点とは一体、何なのだろう。それを語るに相応しい人物がいる。高校時代無敵の強さを誇った能代工業OB、田臥勇太だ。

田臥「やっぱりボールに泥臭く執着すること。自分が小さかったってこともあるかもしれないけど、これはアメリカに行ってもずっと誰にも負けたくなかった」



日本人初のNBAプレイヤーとなり、40歳となった今も衰えを知らない田臥。泥臭く、ボールに執着する能代の伝統は今でも身体に染みついているという。

【動画】名門・能代工業バスケットボール部 最後の冬に密着/Humanウォッチャー

この日は公式戦のユニフォームが配られた。だが例年とは様子が違う。

高校バスケには3つの全国大会がある。今年度はインターハイ、国体がコロナの影響により中止。ウインターカップの開催も危ぶまれていたのだ。

全国大会が一つもない・・・。不安を抱きながらも、モチベーションを切らすまいとひたすら練習に打ち込んできた。そんな彼らに、吉報が届く。「能代工業」として出場できる最後の舞台が決まったのだ。

能代には8番という数字がとりわけ重要視される伝統がある。歴代のエースガードがつけてきた番号で、もちろんあの田臥もつけていた。

チームの鍵を握るガード・大石隼

今年、その栄誉ある8番を引き継いだのは大石隼。チーム一の小柄だが、スピードとパスセンスが光るガードだ。チームの鍵を握る大石。だが、全国への登竜門、ウインターカップの県予選で我々は意外なシーンを目撃する。



初戦、エース番号をつけた大石がベンチに。代わりにガードとして出場していたのは2年生だった。だが、ここに能代工業の目指す所がある。レベルに差がある相手と戦う事が多い県予選。点差が開き易い展開の中で、同じポジションのライバルを競わせる事により、チームに刺激を与えていたのだ。泥臭く、ボールに執着する能代のスタイルを忘れないために。

さらに、小野ヘッドコーチの激しい檄が飛ぶ。「また言い訳~!謙虚さがないよ」謙虚さがない、そう指摘した相手は途中出場した大石だった。

高すぎる要求、それはガードというポジションがいかに重要であるかを知ってもらいたかったからだ。

県予選を制し、ついに全国への切符を手にした能代工業。3年間の集大成へ、彼らは「能代工業」の名を背負って戦う最後の舞台に臨んだ。

その歴史にピリオド

迎えた決戦の日。選手たちは、バスで8時間かけて東京へとやってきた。大会はトーナメントで行われるため、負けた瞬間に「能代工業」の名が...消える。

ついにティップオフ。相手は九州の強豪。決意を持って臨む大石が、チームに流れを呼び込む。大石を起点に走るバスケを展開した能代工業。11点のリードを奪って、前半を終えた。



だが後半、勝利への呪縛が徐々に能代工業をむしばんで行く。大石がボールを奪われ、失点を許してしまった。更にミスは続く。大石からのパスが通らない。

その後、司令塔大石が必死でチームを立て直し、試合は第3クォーターを終え、能代工業が12点のリード。

迎えた第4クォーター。この10分を耐え抜けば初戦を突破できる。だが、能代工業の名のもとに戦う最後の大会。その終わりを伸ばしたいと思えば思うほど、プレッシャーが選手たちに重くのしかかってゆく。気がつけば残り2分で相手に逆転を許してしまった。

泥臭く、ボールに執着、そのスタイルは貫いた。だが彼らの戦いは・・・終わった。バスケ界に燦然と輝くその名、「能代工業」。その歴史に、ピリオドが打たれた。

人目をはばからず涙を流す、司令塔・大石。



慰めはしない。「必勝不敗」が能代工業の部訓だから。しかし恥じる必要もない。目標に向かい努力し続けてきた日々を知っているから。

一つの時代が終わり、また新たな時代が始まる。決して無駄では無い。情熱を持って取り組んできた道が自らの、そして次の世代の道しるべとなる。