【安田記念】春のマイル王者・ダノンキングリー『信じていれば”いつか”はやってくる』

安田記念 ダノンギングリーが優勝 写真:日刊スポーツ/アフロ
~第71回安田記念回顧~ イメージ通りだった「いつもと違う」位置取り
「いつかはGIを勝てる」――
皐月賞やダービーで惜敗した馬はたいてい、このような評価を受ける。距離が延びれば、秋になれば、古馬になれば...... 惜敗した馬を慰めるように、その先の未来に期待する。いつかは競馬界を支えるようなスターホースになって欲しいと言わんばかりに。
実際、その「いつか」は意外とすぐにやってくることが多い。2011年以降の皐月賞とダービーで2着、3着に敗れた20頭のうち、後にGIを制した馬は全体の7割近い延べ13頭。中にはキタサンブラックのように競馬界を牽引する存在になった馬もいる。
だから、ダノンキングリーがGI初挑戦となった皐月賞で3着に敗れた際、誰もが「いつかはGIを勝てる」と思ったはず。ダービーで2着に惜敗した際も「秋になれば」「中距離戦になれば」と、この馬のことを高く評価するファンは多かった。
だが、そこからがダノンキングリーの苦難の道のりだった。ダービー以降の成績は[2・0・1・3]。勝った毎日王冠と中山記念はいずれも休み明けで先に見据えるGIのための叩き台となるGII。
本番のGIではなかなか勝てず、古馬になってからは着順そのものも悪くなり、得意条件なはずの天皇賞(秋)ではアーモンドアイ、クロノジェネシスの牝馬2強に続く3番人気に支持されながら最下位の12着。この後、ダノンキングリーは立て直しを図るべく、半年以上もの休養に入った。
7ヵ月ぶりにダノンキングリーが帰ってきたのは、前年7着に敗れた安田記念。かつては「GIを勝てる」と評された大器もこの日は14頭中8番人気と生涯でも最低の人気に。彼がもがいている間、同い年の桜花賞馬グランアレグリアはGIを4つも勝利。
この日も単勝1.5倍の断然人気に支持された。ダービーから2年の時が経つ間に2頭の距離は果てしなく広がってしまったように思えた。
だが、ダノンキングリーからはそんなことに卑屈になっている様子はみじんも感じられなかった。
7ヵ月ぶりの実戦にも関わらず、昨年と同じ456キロの黒鹿毛の馬体は艶やかに感じるほど美しく、闘志が漲っているようにも見えた。仕上がりだけならグランアレグリアどころか、出走馬の中で最もよく見えるほどだった。
スタート直後からダイワキャグニーとトーラスジェミニの2頭が引っ張り合う形となった今年の安田記念。
その後に同馬主の先輩、ダノンプレミアムやラウダシオンらが付けたが、ダノンキングリーの姿がない。いつもならこのくらいの位置に付けて流れに乗っているというのに、今日に限ってはそれよりも後ろ。中団やや後ろという位置取りでレースを進めた。
鞍上はこの日が初騎乗となる川田将雅騎手だけにダノンキングリーの持ち味を削いでしまっているようにも見えた。実際、ダノンキングリーは道中、口を割って折り合いを欠くシーンも見られ、とてもスムーズにレースができているようには見えなかった。
しかし、川田にとってこの位置取りも馬の反応も「計算通り」だった。レース前から「この馬でのレースのイメージはできている」と公言してはばからなかった。折り合いを欠いているようにも見えた道中も「リズムがよかった」と振り返った。
このコメントからも最初から中団やや後ろからレースするつもりで進めていたことは明らかだろう。ちなみにダノンキングリーが4角7番手以下でコーナーを回ったのは2年前の毎日王冠の時以来のことだった。
そして最後の直線、ダノンキングリーにとっての「いつか」がやってきた。
先行馬を見ながら外に持ち出し、隣にいた同い年のケイデンスコールとすぐ前にいた若武者シュネルマイスターと同時に追われたダノンキングリーはまっすぐに伸びた。
川田の右鞭を受けるたび、それに応えるように外から1頭、また1頭と先行する馬たちを捕まえていく。先に出たインディチャンプを2年前の毎日王冠の時と同じように交わし、残り100mを切ったところで先頭に立った。
あの時と違ったのは、内からグランアレグリアが迫ってきたこと。ヴィクトリアマイルの圧勝からの臨戦となったが、初めてとなる中2週での臨戦過程が響いたか、彼女が4コーナーを回ったのはダノンキングリーよりも後ろの11番手でのこと。
しかも馬群に包まれて外に出すにも出せないという絶体絶命となった状況から怒涛の末脚で伸びてきた。その姿はマイル界の絶対女王しての意地で走っているようにも見えた。
だが、ダノンキングリーは屈しなかった。今まで逃し続けたGIタイトルをもう逃すまいとばかりに内からのグランアレグリアの猛追をアタマ差凌いでゴール。7度目の挑戦にしてついにGIホースの仲間入りを果たした。
「もともと能力の高い馬。こういうメンバーで勝ち切れるのがこの馬本来の力」と、レース後に川田が語ったように、これが本来のダノンキングリーの実力。雌伏の時を過ごし、人知れずに牙を研いできたことがついに報われた。実力馬の復活でこの路線がますます盛り上がることだろう。
思えばダノンキングリーが惜敗し続けた春クラシックの2戦で、この馬の近くにいたのが川田だった。もしかすると、誰よりもダノンキングリーを高く評価していたのはこの男だったのかもしれない。
■文/福嶌弘