元フィギュアスケーター・町田樹 田中刑事と共に投じたフィギュア界への一石

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2021.6.8

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そこに秘められたドラマをあなたはまだ知らない

元フィギュアスケーター町田樹には肩書きが多い。

振付家であり、博士であり大学の先生でもある。フィギュアスケーターとしては数々の舞台を経験した。見栄えにとことんこだわり中継車に乗り込んできたことも。

芸術性の追求は大学院でも。課題として研究する中でフィギュアスケートには空白があると気付いた。

継承プロジェクト

フィギュアでは同じ振り付けを他の選手がすることはない。それに疑問を持った町田が立ち上げたのが「継承プロジェクト」だ。

【動画】#9『町田樹 × 田中刑事 - Je te veux - 同時再生』2人の演技を同時再生

たとえば羽生結弦の「SEIMEI」や高橋大輔の「道」などの名作と呼ばれる振り付け。これをアイスショーなどで同じ振り付けを他人が滑れることになれば、その作品は時代を超えて受け継がれることになる。

問題は滑る側。重圧の大きいプロジェクト初の滑り手は、田中刑事に決まった。実力は申し分ない。平昌オリンピック日本代表で、来年の北京オリンピックも狙っている。

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町田とは4学年離れた先輩後輩。田中が大役を引き受けたのは北京への挑戦も見越してだという。

記念すべきプロジェクト最初の作品は「ジュ・トゥ・ヴ」。町田が自ら振り付け、現役最後のシーズンにエキシビションで演じた。

描かれているのはパリを舞台にした恋模様。幸せだった二人が別れ、男性は悲しみにくれる。感情表現にフィギュアの技術を絡めた町田らしい作品だ。

未開拓の領域、表現力を求めて

発表の場は5週間後のショー。田中は怖かったに違いない。他人がかつて披露した同じ振り付けを滑るリスクは計り知れないからだ。もしも不出来に終われば、あいつは町田に及ばなかったと笑われるだろう。

田中にはオリンピアンとしての高い技術がある。だが町田の指導は、技術の範疇を超えていた。恋人の肩を抱くパリの街角。甘く寄り添う二人を滑りで表現しなければならない。セリフや字幕がなくてもドラマがわかる。それがフィギュアの力だと町田は信じている。

少年時代からの間柄。大会での成績はいつだって町田が上。町田は田中の憧れだった。

7年前、テレビで見たソチオリンピック。5位に入賞した町田の渾身の演技は田中を力づけた。

当面の目標は二大会連続のオリンピック出場。だが一昨年、代表になっていた世界選手権が中止となり、足踏み。気持ちがゆるんだ所に若手も台頭してきた。今年の世界選手権では18歳の鍵山が銀メダルを獲りブレイクする。26歳の田中は何かを上積みしなければ勝ち目は薄い。 だから継承プロジェクトに参加した。自分の未開拓の領域、表現力を求めて。

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町田の指導

身長172センチとこの世界では大柄な田中。ダイナミックな技に定評がある一方、物静かなタイプでアピール力が欠けてもいる。

町田の指導はそこを突いた。女性と一緒に歩く場面を繰り返しさらう。

かつて町田が演じたプログラムをどこまで吸収できるか。フィギュア界初の試みへ、この二人で先陣を切る。

町田樹が仕掛けたフィギュア界初の取り組み「継承プロジェクト」お披露目の日がやってきた。

田中は独自の世界を切り拓けるのか?継承プロジェクトは観客に受け入れてもらえるのか?

フィギュア界への一石

「ジュ・トゥ・ヴ」。パリの街に生まれて消えた恋の物語。

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しかし、演技冒頭で思わぬハプニングが。田中はリンクの端にぶつかりよろけてしまったのだ。動揺したのだろう。その後は余裕を失い、ぎくしゃくとした固い動きに。恋人たちの甘い雰囲気は出せずに終わった。

だが切り替えなければならない。公演は5日間、その間に少しでも良くしたい。

次の日から朝の特訓が日課になった。持ち前の技術をどう制御すればいいのか。

表現力は競技をする上でも重要な要素。これがきっと北京オリンピックにも繋がる。

迎えた最終日。キザな仕草と、弾むような動きと、初日とは一変していた。

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苦しんだ箇所。女性の肩を抱いて歩くシーン。小気味のいいステップが浮き立つ気持ちを伝える。クライマックスは別れを嘆く男の悲しみ。そしてフィナーレへ。その瞬間、客席はスタンディングオベーションで沸いた。

共に投じたフィギュア界への一石。

次は誰の作品に白羽の矢が立つのだろう?