【秋華賞】アカイトリノムスメ『私だって、アイドル』最後の一冠で叶えた「脇役」からの脱却

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2021.10.17

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    アカイトリノムスメと国枝栄調教師 写真:東京スポーツ/アフロ

    「本当なら、もっと注目されてもいいんだけど......」秋華賞のパドックでアカイトリノムスメを見た際、そんな感想を抱いた。

    桜花賞でもオークスでもそうだったが、内寄りにチャカ付き気味に歩いて厩務員に顔をこすりつけるのがアカイトリノムスメのパドックでの所作。

    その姿はまるで学芸会の舞台で登場シーンが近づいているのに、舞台袖でモジモジしている少女のよう。

    彼女と同じ金子真人オーナーが所有するソダシは単勝1.9倍というダントツの支持に応えるかのように堂々と周回しているというのに。

    思えばこの2頭、どちらも生まれた時から大きな注目を集めた。

    シラユキヒメから始まる白毛一族のもとに生まれた純白の女王ソダシに対し、アカイトリノムスメの両親はともに三冠馬という、血統で言えばソダシの一族を軽く上回る超良血ファミリーの生まれ。

    どちらも強烈な個性を持ったアイドル候補で、デビューの日をファンは心待ちにしていたことだろう。

    ところが、デビューから連戦連勝で阪神JFを勝利して2歳女王に輝いたソダシに対して、アカイトリノムスメの歩みはいささか地味なものに。

    2戦目の未勝利戦からトントン拍子で3連勝を飾ってクイーンCで重賞初制覇を飾っても、クラシック前の話題はソダシが独占。誰もがうらやむような超良血ファミリーの出身であるアカイトリノムスメはいつしか脇役に追いやられた。

    そうした印象と関係があったかは定かではないが、今春のアカイトリノムスメはクラシック制覇を目指す有力馬ながら、決まったパートナーがいなかった。

    桜花賞では過去に1度騎乗しただけの横山武史に乗り替わって4着止まり。ソダシが純白の桜花賞馬として輝く前では引き立て役になるのが精いっぱいだった。

    距離が延びる上に地元の関東圏でのレースということで打倒ソダシの筆頭格とされたオークスはテン乗りとなるクリストフ・ルメールが鞍上に。

    結果はユーバーレーベンに次ぐ2着と上々のものだったが、「ソダシが負けたレース」としてファンに記憶されたオークスでの好走はあまり印象に残るものではなかっただろう。

     そしてオークスからぶっつけで臨むことになった秋華賞、オークス時のパートナーだったルメールがファインルージュに騎乗するため、またもやアカイトリノムスメは乗り替わり。

    クイーンC制覇時の鞍上である戸崎圭太と8ヵ月ぶりのコンビとなったが、実力がある馬にも関わらず鞍上がコロコロと替わるというところに彼女への扱いの軽さを感じざるを得ない。

    本来なら、ソダシのように注目されるアイドルホースになってもいいはずなのに、気が付けば脇役のように扱われたアカイトリノムスメ。

    秋華賞のオッズでも2冠制覇を目指すソダシが単勝1.9倍という圧倒的な支持の1番人気となったのに対し、アカイトリノムスメは8.9倍の4番人気――

    だが、彼女は周囲の評価を理解していたのか、ソダシが堂々と周回していたパドックでいつものようしぐさを見せていた。

    しかし、パドックでの所作とは裏腹にアカイトリノムスメが内側に秘めた思いは誰よりも熱かったに違いない。父も母も負けなかったクラシックの舞台、最後のレースだけは絶対に勝ちたいという気持ちが今回の彼女のレース振りに現れていたように思う。

    レースはスタートからエイシンヒテンが飛ばし、ソダシが2番手につけるという展開に。これをマークする形でアールドヴィーヴルやアンドヴァラナウトらが付けた後ろにいたのがアカイトリノムスメ。

    普段ならなるべくソダシに近いところに付けて走っていたが、今日はソダシから敢えて離れて流れに乗っていた。

    「いつもと違う、ソダシを見ながらのレース運び」はアカイトリノムスメにとって新鮮なものだったはず。

    鞍上を務めた戸崎圭太もレース後に「いいポジションが取れたことで、いいリズムで走れた」と、久しぶりに乗った彼女の走りをこう評していた。

    生まれた牧場も馬主も同じだが、自分とはまったく違うキャラクターのアイドルを見ながら3コーナー過ぎ、彼女は静かにギアを上げた。

     そして迎えた直線。向かい風が吹く中、ソダシが前を行くエイシンヒテンを捕まえようとするところでアカイトリノムスメは外から翼を広げて飛んできた。

    その姿は11年前、淀のターフで外から羽ばたいた母アパパネの姿とうり二つ。史上初となる秋華賞の母娘制覇を成し遂げる走りを見せ、アカイトリノムスメは最後の1冠を手にした。

     レースを終え、ファンの前に戻ってきたアカイトリノムスメの表情を見ると、まるでこう言っているように見えた。

    「私だって、アイドルなんだよ!」と。

    ダントツの支持を集めたソダシが10着、そのソダシに唯一の土を付けたユーバーレーベンが13着に敗れたため、一見すると波乱の決着に映る今年の秋華賞。

    多くのファンにとっては「ソダシが負けたレース」として記憶されるだろうが、実際は違う。

    「アカイトリノムスメという新しいアイドルが生まれたレース」――

    これが今年の秋華賞である。


    ■文/福嶌弘

    第26回秋華賞(GI)着順
    着順 馬名(性齢)騎手 人気
    1着 アカイトリノムスメ(牝3)戸崎圭太 4
    2着 ファインルージュ(牝3)C.ルメール 2
    3着 アンドヴァラナウト(牝3)福永祐一 3
    4着 エイシンヒテン(牝3)松若風馬 10
    5着 スライリー(牝3)石川裕紀人 15
    6着 ステラリア(牝3)武豊 9
    7着 アールドヴィーヴル(牝3)松山弘平 6
    8着 アナザーリリック(牝3)津村明秀 8
    9着 ミスフィガロ(牝3)藤岡康太 12
    10着 ソダシ(牝3)吉田隼人 1
    11着 スルーセブンシーズ(牝3)大野拓弥 7
    12着 サルファーコスモス(牝3)川田将雅 11
    13着 ユーバーレーベン(牝3)M.デムーロ 5
    14着 エンスージアズム(牝3)岩田望来 16
    15着 クールキャット(牝3)和田竜二 13
    16着 ホウオウイクセル(牝3)丸田恭介 14

    ※結果・出馬表・オッズ等は主催者発表のものと照合してください。