【オークス】リバティアイランド 圧倒的な力で2冠制覇。 その視線の先に映るものとは

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2023.5.28

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    2023オークス リバティアイランドが優勝 写真:伊藤 康夫/アフロ


    「どこを見ているんだろう......」リバティアイランドがゴールした直後、筆者は彼女の視線の先が気になった。

    なんというか、どこか遠くを見ているように感じたからだ。

    勝ち時計の2分23秒1は過去10年で2番目に速いという好タイムで、2着のハーパーに付けた6馬身差は過去10年どころかグレード制導入後のオークスでは最大となる着差。

    そして単勝1.4倍というオッズも史上最高タイ記録の支持率......と記録を並べれば並べるほど、圧倒的な勝利だったことがよくわかり、次元が違う勝利だったのは間違いない。

    だが、そんな偉業を成し遂げたにもかかわらず、リバティアイランドも鞍上の川田将雅もゴール直後からどこか平然としている。

    オークス制覇、それも二冠を制した直後にもかかわらず、まるで条件戦を制した時のように。

    川田は大レースを制してもガッツポーズをしたり、喜びを全身で表現したりするタイプでないことは知られているが、それにしても今回はいつも以上に平然としていたし、リバティアイランドも大歓声で迎えたファンたちを前にしても落ち着いていた。

    きっと、川田もリバティアイランドもわかっていたのだろう。このレースで圧勝することを。

    戦前から「リバティアイランド1強」とされた今年のオークス。

    絶望的な位置取りから差し切って勝利を収めた桜花賞のレース振りやこれまでの走りを見れば見るほど、リバティアイランドに力で勝てる馬はいないと思われていたし、負けるとすればライバルたちが力でねじ伏せるのではなく、距離の壁や折り合い面の不安など彼女の内面にあたる部分にしか死角は見つけられなかった。

    だからこそ、オークスでのリバティアイランドの単勝オッズは自身、そしてオークスでも歴代最高タイとなる1.4倍に。

    2番人気のハーパーが8.8倍、3番人気以上の馬になると10倍以上のオッズになるというまさにリバティアイランド1強という下馬評が数字の上にも表れていた。

    そんな中で迎えたパドック。正直、リバティアイランドの雰囲気は特に目立つものではなかったように思う。

    馬体重は桜花賞時から増減がなく466キロのまま。外目を周回して調子は良さそうだったが、それ以外は特に目を引く要素はなく、むしろ打倒リバティアイランドを目指すハーパーやコナコーストといったライバルたちの馬体の方が黒光りして、雰囲気は良さそうに見えた。

    返し馬に入ってもそれは変わらない。コースに出た直後から元気よく走っていく馬たちが多い中でリバティアイランドのキャンターはというとどこかゆっくりとしたもの。

    フットワークそのものは大きいけれど、勢いよく駆けていくというよりも鞍上と息を合わせるようにどこかゆっくりと馬体をほぐしていくようにしてファンの前に現れたのが印象に残った。

    今思えばオークスを直前に控えているこの場面でも、川田とリバティアイランドはこのレースを勝つと確信していたのだろう。

    だから気負うこともない。いつものようにパドックを周回し、ゆっくりとした返し馬で馬体をほぐしていったのだ。

    ややバラついたスタートとなった今年のオークス。内枠を利してライトクオンタムが逃げの手を打ち、その直後をキミノナハマリア、ラヴェル、そして外から競り掛けていったイングランドアイズが付けるという展開になり、前半の1000mをちょうど1分で通過。

    昨年よりは少し速いが、近年のオークスにしては比較的ゆったりとした流れで進んでいった。

    その流れの中でリバティアイランドはと言うと、馬群の中団やや前目、6~7番手という位置取りに付けていた。

    勝ったとはいえギリギリの勝利になった桜花賞と同じ轍は踏まないとばかりにスタートからある程度位置を取りに行き、2走前の阪神JFの時と似た位置でレースを進めた。前を行く4頭から少し離れた位置に逃げると思われたゴールデンハインドがいたことで流れが掴みやすかったのかもしれない。

    東京競馬場名物である大ケヤキを通過してもその隊列は変わらないまま。前を行く馬たちは1000mを過ぎたあたりから1ハロン12秒0というタイムを精密に5ハロン連続で記録し続け、そのまま直線に入った。

    それまで逃げていたライトクオンタムが失速すると、すぐ後ろにいたラヴェルがこの時を待っていたかのように先頭に。

    後続馬たちはラヴェルを目がけて追い出しをかけていったが......リバティアイランドの末脚はこの時点で次元が違った。

    インコースに寄った形で3コーナーを回っていったが、4コーナーに入る当たりから前に馬がいない外へと進路を変更。

    この日の東京競馬場はインコースの馬場コンディションが良く、ここを通った馬が軒並み好成績を残していたが、川田とリバティアイランドはそんなトラックバイアスに目もくれず、外へと進路を取っていった。

    ラヴェルが先頭に立ち、リバティアイランドが追いかけるという展開は昨年10月のアルテミスSと全く同じ。

    この時はラヴェルを捕えきれずに初の黒星を喫したリバティアイランドだったが、あれから7ヵ月が経った今回、ラヴェルを残り200mのところで捕まえて先頭に立った。

    いつもよりも早く先頭に立った感じがしただけに、もしかすると伏兵に差されるのでは?という不安も一瞬よぎったが、リバティアイランドが我々に見せた光景は府中の直線をただひたすらに駆けていく自身の姿と必死で追いかけてくるライバルたちの姿だった。

    しかも、リバティアイランドは「もっともっと」とばかりに首を下げて走っていたが、ライバルたちは2400mという距離が影響したのか、首を上げて青息吐息で追いかけるのが精いっぱい。

    気が付けば、2馬身、3馬身......と着差だけがどんどん広がっていった。

    結局、リバティアイランドは独走状態のままでゴール。必死で追いすがったハーパーが2着に入ったが、その差は実に6馬身。まさに敵なし、圧倒的な力を見せて牝馬2冠を制してみせた。

    これだけ圧倒的なレースをしたにもかかわらず、冒頭に記したように平然とした様子がファンの前に戻ってきた川田はインタビューでこう答えた。

    「初の2400mでそのあたりもケアしながら乗りました。とてもいい動きでした。先々の戦いのためにも、しっかりと動かしたつもりです」

    ......もしかしたら、リバティアイランドはオークスのゴールだけでなく、その先にある未来を見つめていたのかもしれない。

    果たして彼女が見つめた未来はどんな光景が映っていたたのだろうか。


    ■文/福嶌弘