【凱旋門賞】世界中の競馬ファンを震撼させたフランスの英雄エースインパクト

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2023.10.2

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    2023 凱旋門賞 エースインパクトが無敗で優勝 写真:AP/アフロ


    青空の下での衝撃 ~第102回凱旋門賞回顧~

    エースインパクトに跨ったクリスチャン・デムーロがガッツポーズを見せてゴール板を通過した瞬間、ロンシャン競馬場に集まった現地のファンは歓喜の声を挙げ、中継を見ていた日本のファンはただただ驚かされた。

    近年では珍しく、澄み切った青空の下で行われた今年の凱旋門賞。日本では宝塚記念2着のスルーセブンシーズが参戦したことで注目を集めたが、現地フランスでは地元の3歳馬・エースインパクトに大きな期待が寄せられていた。

    年明けの1月にデビューして以来、ここまで5戦5勝。フランスダービーでは後方2番手からレースを進めて、直線では爆発的な末脚を見せて快勝。2着馬に3馬身半差をつけた上、シャンティイ競馬場の芝2100mのコースレコードを更新するという圧倒的な強さを見せて今年の3歳世代を牛耳る存在に。

    凱旋門賞に向けて挑んだ前哨戦、ギヨームドルナノ賞でも、エースインパクトはフランスダービーと同じく後方2番手から突き抜けて快勝。爆発的な瞬発力を見せる末脚は今年の出走馬の中でも最高レベルと称されるほどだった。

    日本のファンからすると、例年に比べてやや小粒な印象さえあった今年の凱旋門賞の出走メンバーだが、現地ではエースインパクトがどんなレースを見せるか......否、どうやって勝つかが最大の焦点。3年ぶりに地元フランス馬が凱旋門賞を制するか、その期待が高まっていたのは間違いない。

    スタート直後、確たる先行馬が不在でどの馬が逃げるかがわからない中でベイブリッジ、シムカミルらが前に位置しようとした中でハナを奪ったのはドイツからやってきた伏兵ミスターハリウッド。

    1馬身前後のリードを取っての逃げにベイブリッジ、シムカミル、そしてキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSを制した実力馬フクムが続くという形で前半1000mを通過して行った。

    この時、エースインパクトがいたのは後方から4頭目の外側。その隣にはスルーセブンシーズが付けていたため、日本の競馬ファンもその走りをよく見られたことだろう。

    ともに馬場が乾いたこの日のロンシャンのコンディションに合わせて末脚を爆発させるべく後方で脚を溜めることに徹していたが、スルーセブンシーズの鞍上クリストフ・ルメールがやや手綱を引いて前へと行きたがるパートナーを抑えていたのに対し、デムーロにはそうした様子は見られない。

    しっかりと折り合い、エースインパクトともに勝負の時を待っているようにも見えた。

    500mにも及ぶ下りを過ぎ、ロンシャン競馬場名物のフォルスストレートを通過しても各馬の動きに大きな変動はなく、馬群は固まったまま。直線にはオープンストレッチが導入され前が詰まりにくくなっていることを考えててか、フォルスストレートを過ぎたころには後ろにいた馬たちは内側へと進路を取り始めた。

    スルーセブンシーズもルメールに導かれるように内側へとポジションを映していった。

    だが、エースインパクトは相変わらず外に付けたまま。デムーロの腕を考えると内側へ進路を取ろうと思えば取れたはずだが、そうした素振りは一切見せなかった。

    この馬自身、ロンシャン競馬場で走るのはこれが初めてな上、2400mという距離も未経験。

    それだけに内側へ進路を取って少しでもコースロスを防いだ方がいいようにも思えたが......デムーロはエースインパクトとのリズムを何より大切にした。そうした判断が直線での激走を生んだのは間違いないだろう。

    そうして迎えた最後の直線。ほとんどの馬が打ちへと進路を取り、その中からフクムが先に抜け出してウエストオーバーが迫るというイギリス勢の一騎打ちの様相を呈していたが、そんな光景は残り200mを過ぎた時に一気に変わった。

    エースインパクトがやってきたのだ。

    ただ一頭、大外からのレースを選択したエースインパクトは直線に入ると鋭い末脚を見せて前を猛追。首を下げて脚を伸ばしていく様子はまるでチーターが獲物を追いかける時のような低い体勢で、前を行く馬たちをあっという間に飲み込んでいった。

    そして残り100m。先に抜け出していたウエストオーバーを並ぶ間もなく差し切ったエースインパクトはここで先頭に立つと、あとは後続を突き放す一方。最終的には内で懸命に踏ん張っていたウエストオーバーに1馬身3/4という決定的な差をつけてゴール。6戦6勝、無敗での凱旋門賞制覇を果たしてみせた。

    2着にウエストオーバー、そしてエースインパクトとほぼ同じ進路を辿ってきたオネストが3着に食い込み、4着には内から馬群を縫って伸びていたスルーセブンシーズが。

    今年の年明け時点ではまだ条件馬だった彼女が今年の急成長ぶりを象徴する大健闘を見せたが、それでもエースインパクトの走りの前にはかすんでしまうことだろう。

    2013年のトレヴ以来、10年ぶりとなる無敗での凱旋門賞馬になったエースインパクト。文字通り世界の競馬をリードする存在となった彼は今後、どんな走りで世界中を震撼させるのか......ロンシャンの青空の下で見せた衝撃の走りは世界中の競馬ファンにとって強烈な印象を与えたとのは間違いない。


    ■文/福嶌弘