「選手の100%を120%に引き出す」W杯4大会を支えた影のヒーロー 元サッカー日本代表トレーナー前田弘が明かすゴールデンエイジの体づくり術

サッカー

2025.7.26


【動画】FOOT×BRAIN+ #724 4度W杯帯同のトレーナーが明かす黄金期の体づくり術|https://youtu.be/eftT4oj6LqY

これまで「日本サッカーが強くなるためにできることのすべて」をコンセプトに2011年4月に始まった『FOOT×BRAIN』。

番組開始から15年目を迎え、2025年4月に『FOOT×BRAIN+』として新たなコンセプトで生まれ変わった。

世界の舞台で戦う選手たちの影で、彼らのコンディションを支えてきた"影のヒーロー"がいる。

2010年南アフリカワールドカップから2022年カタール大会まで、4大会連続で日本代表と共に戦った元日本代表アスレティックトレーナーの前田弘だ。

彼が語る子どもの体づくり術と、世界で勝つためのコンディショニングの秘密に迫る。

選手の100%を120%に引き出す"影の立役者"

「100を120、それこそ101を出させるためにいろんな我々はコンディション作りをしています」

そう語るのは、日本代表のワールドカップ4大会を支えたアスレティックトレーナーの前田弘。彼の仕事は、選手たちの怪我の予防やコンディション調整、時には疲労回復のためのマッサージなど多岐にわたる。

アスレティックトレーナーとは、単に怪我を治療するだけでなく、むしろ怪我を未然に防ぎ、選手が最高のパフォーマンスを発揮できるよう支えるスペシャリストだ。選手とトレーナーの関係性について、前田は「なあなあの関係になってしまうと、やっぱり厳しいことも言えなくなります」と語り、現役時代は意識的に距離を保っていたという。

名将オシムの教えと勝利への執念

前田は代表チームに参加する以前、ガンバ大阪や千葉に所属。千葉時代に当時の監督だったイビチャ・オシムから大きな影響を受けたという。

「一度、負けた試合で選手たちがロッカールームに引き上げた時に、コーチが『ナイスゲーム』と言ったんです。そしたらオシムさんが非常に激怒して『負けた試合にナイスゲームはないだろう』と言われました」

頑張ったからいい、全て出し切ったからいいという考えに対し、オシムは「勝つことを目標にしている以上、勝たなければならない」という強い信念を持っていた。その姿勢は前田にも深く影響を与えたという。

また、オシムは中心選手が怪我をしてリハビリ中でも、早く戻るようプレッシャーをかけることはなかったと前田は振り返る。「我々トレーナーとしても、この監督は非常にいろんな考えを持っている、心の広い人なんだなと感じました」

ゴールデンエイジが体づくりの鍵を握る

サッカー少年少女の体づくりで最も重要なのは何か。前田は「9歳から12歳、ゴールデンエイジと言われる時代」の重要性を強調する。この時期は脳からの指令を筋肉に送る神経系の発達がピークを迎え、運動能力を伸ばすには最適な時期だという。

しかし、SNSでは「9歳の息子がサッカーをしているが、それだけでいいのか?」「具体的に何をさせればいいのか分からない」と悩む親も多い。そこで前田が教えるゴールデンエイジに適した体づくりの3つのポイントを紹介する。

1.ラダーを使ったステップワーク

前田がまず勧めるのは「ラダーを使ったステップワーク」だ。「頭でしっかりとステップ系を考えさせながらやるのが1番大事」と語る前田。ラダーを使った様々なステップワークは、脳からの指令を筋肉に伝える神経系を多く刺激し、伝達速度を速める効果がある。

「スペインだと、水を飲む前にステップを踏んでから水を飲みなさいという指導のあるところもあります。夏場だと10分おきに水を飲ませると、60分で6回やるわけですよね。そこでステップワークをある程度できちゃうんです」

2.正しいフォームでボールを蹴る練習

キック力を高めるために、小学生がスクワットなどの筋力トレーニングをする必要はないと前田は断言する。

「キック力を高めるために、トレーニングしなさい、スクワットしなさいっていうのは小学生の年代には必要ないです」

その代わりに「正しくボールを蹴ることを指導者の方たちが教えてあげる」ことが重要だという。正しいフォームを身につければ、自然と高く、ストレートにボールが蹴れるようになる。

「子供たちもボールを蹴ってうまく蹴れるようになれば、さらにその先が見えてくるんじゃないかなと思います」

3.とにかく外で遊ぶ

前田が最も強調するのは「外遊び」の重要性だ。キャッチボールやジャングルジム、鬼ごっこなど、様々な外遊びを通じて、空間認知能力やバランス感覚が自然と身につくという。

「今の子供はスマホでゲームをやっている子たちが多いです。でも昔はキャッチボールをよくやりました。そこで落下地点を予測したり、ジャングルジムでバランス感覚を養ったりしていました」

また、鬼ごっこは最高のトレーニングだと前田は言う。「よく指導者の方で最初のウォーミングアップに鬼ごっこをやります」と語るように、相手の動きを予測しながら自分の動きを決める複合的な能力が自然と身につくからだ。

子どもの体づくりで避けるべきこと

一方で、子どもの体づくりで特に避けるべきこともある。前田は「やりすぎ」を真っ先に挙げる。

「成長期によくある膝の痛みとかは、もうボールの蹴り過ぎ。腰が痛いというのも、やっぱり反り過ぎとかボールを蹴る時のフォームが良くないとか、そういうのが原因になっていると思うんですよね」

重要なのは「痛みが出たら治るまで」としっかり休ませること。「痛みがあってプレイができる。でも痛みが出たらもうそこでストップをさせないと、これの繰り返しでどんどん悪化していきます」と前田は警告する。

また、小学生にチューブを使ったトレーニングをさせる際も注意が必要だという。「それをやりすぎで、腸骨稜という部分の疲労骨折とか起こしやすくなるんです」

次世代のアスレティックトレーナーを育成

現在、前田は次世代のアスレティックトレーナーの育成にも力を入れている。株式会社ニチバンと共同で、次世代トレーナー育成プログラムを実施。これまでに100人の卒業生を輩出し、すでにその1割がJリーグやVリーグでトレーナーとして活躍しているという。

「我々がいろんな経験を積ませていただいて、これを伝えないといけないなという思いがあります。どちらかというと我々が学んできたマインドの部分を伝えたくて始めました」

未来のアスレティックトレーナーに求められるのは「色んなところにチャレンジしていくこと」「自分をアピールすること」に加え、「目配り、気配り」「根性」だと前田は語る。卒業生の1人は女子フットサル代表のトレーナーに就任するなど、未来の日本サッカーを支える裏方のスペシャリストが着々と育っている。

日本サッカーの未来を担う子どもたちの体づくりから、次世代のトレーナー育成まで。前田の取り組みは、世界で戦える選手を育てるための貴重な財産となっている。ゴールデンエイジの子どもたちに必要なのは過度な筋力トレーニングではなく、正しいフォームの習得と遊びを通じた自然な能力開発なのだ。


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